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67 一般男性への育成計画

 


 フルマラソンで記録を更新、要らない二つ名【狂走者】を命名されて数日。

 また世間は話題沸騰としているけれど、俺の周りは至って平和だった。


 中身の正体が分かっている時点で当然の反応だろう。


 しかし、そんな事は置いといて、現在、



「悠人君、まただよ?」

「いや、あれぐらい普通じゃ」

「異常だよ?」

「はい」

「分かってる?」

「うん」

「返事しちゃダメ。笑顔禁止。話しかけるのも禁止」

「世知辛い」

「これも中学時代に向けての平穏な生活のため!」

「だよね」



 ごく普通の一般男性になる為の努力をしていた。



 今はもうはっちゃけているが、中学では平穏な生活を送りたい。とそんな事を考えてはいたが、行動するとなると俺の素行は大変よろしくないと判断された。


 そこで、皆が俺の対応が一般男性か審査してくれるというのだ。だが、俺の道は険しいようで、


「目も合わせちゃダメ」

「……マジ?」

「悠人君、一般女性ってチョロいのっ!」

「ええ……」

「はい、練習。こらっ、チラチラ見ない! それだと、『えっ、私に気があるのっ!?』ってなっちゃう」

「はい」


 やはり、俺には普通の生活は難しいのかもしれない。


「疲れるなー。一般男性っていつもこんなことしてんのかよ」

「そりゃあ、悠人君と他比べるとね」

「いや、基本的に女性嫌いだからそういう対応をするってだけか」


 嫌いだから対応は雑になるし、どうでもいいとさえ思う。相手にどう思われようが知ったこっちゃない。

 だから、普段からああいう対応ができるのだろう。


 苦にならないから。


 女性に対する感情が根本的に違うから、俺には難しいのか。


「とりあえず、頑張るしかない」



 そして、日に経つにつれ、更に査定が厳しくなっていき、



「表情も常に不機嫌で冷たい視線」

「呼ばれた時、舌打ちも忘れずにね」

「悪口とか言ったほうがいいかも」



 彼女達の助言を聞き入れ、



「足組んで、偉そうな態度で」

「近づいてきたら、露骨に離れてね」

「あっ、スキンシップとか論外だからね?」



 全てをこなすようにした。




 そして、それを繰り返すこと数週間後、




「うっせぇ、黙れ。俺の時間奪うとか生きてて恥ずかしいと思わないの? 何で話しかけたら優しく接してくれると思うのかなぁ。俺が君とつり合うわけがないってことは普通に考えたら分かるだろ? ああ、もういい、あっちいけ」




 周りは思い出す。悠人は何事も過剰にやり過ぎる傾向があることを。


(((……最初会った時より、やばくなっちゃった! えっ、どうやって戻そう)))


 また、その様子をずっと見守り続けてきた1人のストーカーは、


(しばらくはあのままでしょうね。ん、悠人君から? えっーと、【とりま、2週間はあの態度で生活するわ】。......まぁ、安心なのかしら?)


 連絡を受けていたので何の問題もなくストーカーを続けた。


 周りも数日後に、柳田の新聞を読みその情報を聞くことになるが、既に安心している。


 確かに話しかけても視線は冷たく返事をしない。返ってきたとしても罵声の嵐。

 年下の子にさえも、無視をするようにしている。だが、話しかける子は事情を知らずに話しかけてしまったので、自分が嫌われたとその場で泣き出してしまう。


 そんな時、無視したはずの悠人は踵を返しその子へ向かうと、視線を合わせるようにしゃがむ。そして、頭を数回撫でて去る。


 不良が雨の中捨てられた子犬に構うような姿だった。


 全然大丈夫やん、ということで周りも安心しきってそのまま1週間を過ごした。



 しかし、



「誰も話しかけてくれないから対応のしようがない」



 そもそも、冷たい態度で接してくるのを分かっているのに話しかける者は普通にいない。周りからすれば、実際そう思っていないと分かっていても冷たい対応されるのは普通に辛いのだ。普段優しく接しられているので尚更。


 あの特別組の面子も、あの過剰な態度をされた日には暫くは立ち直れそうにないと判断。


 そうして、誰も近寄らず、話しかけず、眺めるだけの日々が1週間。

 悠人はこれ以上やっても無駄と判断し、生活態度を元に戻した。


 Mの体質を持つ者も少なからず居たが、誰も近寄らないのでは自分も近づきにくく、自分の性癖を曝け出すのは抵抗があったとか。


 とりあえずは、あの態度でOKということで悠人含め周りは納得。後、中学までは金輪際禁止ということで丸く治った。


「君が俺と、じゃなくて俺が君と……ね」


 悠人のちょっとしたネガティブな思考はまだ治っていなかったらしい。



 因みに、



「悠君」

「はい」

「あれは精神衛生上良くないから、控えてね?」

「……うん」



 悠人が無理していたことを看破し、釘を刺した。



 こうして、悠人の一般男性への育成計画は失敗に終わった。



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