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61 再走 後

 



『いや〜、いきなり険悪な雰囲気!って感じだったんですが、まさかグラウザー君があんなに社交的だったのは意外でしたね〜』

『まぁ、前回では彼は失望していましたしね。一応、補足として我々女性が近寄ってもあまり拒否反応を出すどころか、逆にわざわざ今日はよろしくお願いしますと挨拶に来ますからね。随分と礼儀正しく社交的な男性ですよ』

『えっ、それ私知らないんですけど?』

『ああ、毎回貴女がトイレ行っている間に来ましたからね』

『えっ〜!! 呼んでくださいよ!』

『うるさいです。おっと、ゲームが始まりましたよ。グラウザーが参加した前回と比べて、色々と変わっている部分もありますので、果たして彼は大丈夫......でしたね。彼、実際にわざわざ問い合わせてまで細かく確認してきましたから』

『凄い……ガチ勢ですね』

『ガチ勢でなければ、我々はここまで持ち上げません。おおっと、綾瀬君。グラウザーは完全無視、雑魚処理と言わんばかりに他の人狙っていく』

『まぁ、グラウザーとの一騎打ちを狙いますよね』

『そして、放置されたグラウザー君。少し哀愁漂ってます。フェンスに登り、天辺の僅かな幅に座りながら空を眺めていますね。まぁ、仕方ないですね』

『カメラマンさん、少し彼と話相手になってあげて!』





「話……? まぁ、良いが」



「年齢? ……シークレットだ」



「スポーツ? まぁ、知り合いとよく色々教えてもらいながらしているが、曰く才能がないらしい。いや、少し才能あるかも発言したら、真顔で才能はないと言われた程度だ」



「女性についてどう思っているか? どうもない。俺の人付き合いは好きか嫌いか、だ」



「最強説について? 勝手に持ち上げて、いずれ勝手に落とす。上げた両腕は、更に上には上がらない」



「悟君との関係? 良い友人と思っている。何、親子? そんな深い関係ではない」



 〇〇〇〇



「……」

「くそっ! やっぱり速い!」

「……」



 仰向けに倒れながら息を切らしている綾瀬という男性。それを佇んで見ている俺。



 結果は、俺の勝ちだった。



 しかし、彼も頑張っていた。移動中の俺に対し、いきなりの奇襲。その後、長距離の逃走劇。時間にして約37分もの間、自転車を超えるであろう速度で走り続けた。


 初めて来て良かったと思えた。グラウザーでなければ、そのまま友人になって欲しいと言っていただろう。



「良い走りだった」



 俺はそれだけを言い残し、さっさと帰ろうと準備をする。アクセサリーである鉤爪も忘れないように付ける。



「なあ」



 逃走者として参加していた者達が、去ろうとする俺の前まで来る。その様子から見て、察する。


「何だ?」

「ハンターやってくれないか?」

「断る」


 今回は、断る口実がある。前回と違って時間がないからな。


「番組は、もう終わりだ」

「あっ、その事なら大丈夫です」

「は?」


 まさかの運営側のスタッフから即OKが出るということに驚きを隠せずに、間抜けな反応をしてしまう。



「番組中に視聴者の皆様にアンケートを取りました。そして、グラウザーがハンターするなら延長しても良いという方が多かったので延長することが出来ます」



 まさかの運営の裏切り。



 スタッフの話を聞き、男性集団へと視線を戻すと、期待の眼差しで此方を見ている。




 これは、





 これは、





「ハードとルナティック、どちらで?」





 ‘’ルナティック!!’’





「いくゾォォォ!!!」




 咆哮とも言える声を合図に、嬉しい顔をしながら、蜘蛛の子散らすように逃げる男性集団。

 その中に、ちゃっかり先程まで仰向けで倒れていた綾瀬が居ることに気づいているが、ツッコミたくないので放置。


 前と同じく2分待つことにする。そして、その間にスタッフから専用のスマホを受け取り、逃走者の位置を確認。



「待て、グラウザー!!」

「いや、誰だ君は?」



 後2分彼らの動向に目を光らせていなければならないというのに。



「俺は、今回の逃走者の抽選に落ちてしまった者。だが、だが諦めきれず来た! お願いだ、グラウザー。俺も混ぜてくれ!!」

「……」


 観戦席から大きな声で懇願するように言う青年。そして、何とも気軽に「イイヨ」と言いづらいお願い。

 しかも、彼だけが参加したいと思っているわけもないだろう。



「……ここに、彼と同じように混ざりたい者はいるか?」



 一応、彼以外に観戦している者に聞く。


 何と、来ている男性がこぞって手を上げやがった。



 ……。



「分かった混ざればいい」



 期待していた反応をしてくれたことに喜びを隠せないのか、まるでセールが始まった様に素早く動き始める男性集団。

 中には、転んでしまう者も。



 そんなに混ざりたかったのか。



 俺の負担は増えたが、イベントは楽しまなければ来た意味がない。

 良いだろう、全員まとめて捕まえてやる。


 待機時間を更に延長。なんだかんだで、彼らの思うように動いていると思いつつ、ファンだから仕方ないと自分を納得させる。


「ほら、グラウザー。水分補給忘れないで」

「ああ、すみません。ありがとうございます」


 頭に何かを乗せられた感触がしたので、後ろを振り返るとそこには美雨さんが。これかずっと走り続けるのに備えて、スポドリを持ってきてくれたらしい。


「全く、ファンサービスが充実なのは良いけど、少しは自分の事を考えなさい」

「ちゃんと考えてます。考えた結果がこれです」

「まぁ、安心して。いざという時は止めるから」

「はい、お願いします」

「じゃあ、行ってらっしゃい」

「はい、では行ってきます」


 美雨さんが拳を突き出してくる。俺も拳を突き出し、軽く合わせる。




「いくぞ、屑ども」




 我儘な奴らには、この言葉がお似合いだ。


 鉤爪は面倒だから外さなくていいだろ。




『流石グラウザー君ですね!』

『更に、誰かを追いかける時に鉤爪付けている右手を前に真っ直ぐ伸ばしながら追いかけている。原作再現です』

『まぁ、ゲームの声も彼に変えたらしいですし、実質本人ですけれど……』

『そうですね。しかし、先ほどの女性とは随分と仲が良さそうでしたね』

『あれは鮫島美雨さんですね。金剛プロダクションの敏腕プロデューサー。業界内では彼女が目をつけた者は売れるらしいです。つまり、グラウザーは金剛プロダクションのアイドル……ということですかね?』

『では、リブシスが抱え込んでいる者ではないということでしょうか?』

『どういうことなんでしょう?』

『知りません。ていうか、彼謎が多すぎるんですけど!』



 〇〇〇〇



 やった、やった。本当に来て良かった!



 来ていた男性陣は、喜びを隠せなかった。

 しかし、それと同じように見つけられたが最後、振り切ることが出来ない現実。全く歯が立たないという無力さを感じさせられていた。



「くっそぉ!」



 1人の男がグラウザーが自身に狙いを付けたことに気づく。捕まりたく無い一心に、立ち向かい大きく蹴りをかましてしまう。


 威嚇、近くに来ないようにしたそれは何かに強く当たる感触がした。


 しまった、と男は思った。しかし、それと同時に足に激痛が走りその場に足を抑えてうずくまる。


 周りもいきなりの事に驚き足を止め、それを見ていた。


 何故なら、




「ふむ、良い蹴りだ。だが、ルール違反で脱落だ」




 側頭部に当たったのに、まるで何事も無かったかのようにその場に佇むグラウザーが居たからである。そして、彼はうずくまる男の頭をガシガシと髪をボサボサにするように触る。



 実際は、彼もいきなりの反撃に驚いており、できたことはその場で側頭部による頭突きで相殺させようとしたくらいだった。結局、あまり相殺できず現在も頭痛で苦しんでいる。



 つまり、ただのやせ我慢。



「まぁ、しばらく反省しろ」



 だが、彼はロールプレイを優先させる。ちびっ子達の夢を壊させない為に。


 周りは自身を見て止まっている。彼はそのまま追いかけ始めることは出来ず、一旦別の所で逃走者を探し始める為にその場から離れる。


 とりあえず、本来の参加者は全員捕まえとこうか、とスマホを確認しながら。



 そして、その場に取り残された者達の1人が呟いた。




「何、あの絶対強者感」




 その後、本来の参加者は捕まえられることは出来たが、時間が足りず何人かは逃してしまった。



 それだけが残念である。






【ゲーム並みに硬いのは笑う】


【グラウザー、スパアマ持ち説は草】


【鉤爪付けてんのにフェンスを登るの、マジバケモンなんだけど】


【これ絶対時間もう少しあったら全員捕まえてたろ】


 そして、現在進行形で、黒歴史が増えていることに少し遺憾を感じている。




 あと、「いくぞ、屑ども」が社会で流行った。




 子供まで言っているらしい。そのせいでクレーム来るかと思ったが、そんなことはなかった。





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