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56 噂話と支持

 

 貴族で行われるパーティ。

 俺はマリアや花香さんに誘われた。いつもなら女装して他に俺が来ていることを隠している筈なのだが、今回は女装無し。


 今回は男装、つまりドレス。

 しかし、坂田さんが当然のようにウエディングドレスを俺に着させる。ショートヴェールまで付けて今は満足そうな顔をしている。


「ふふふ、今日も可愛いしカッコいいわぁ〜」

「すみません、そろそろ普通のドレス着させてもらえません?」

「うふふ、やだ」

「そうですか」

「それで、いつ結婚するの?」

「はい? 誰がですが?」


 俺が? 誰と?


「えっ、悠人君知らないの? 貴族の間じゃ有名な話よ。悠人君は既にマリア様の婚約者兼恋人、更には花香様、夜々様とも婚姻を結ぼうと奮闘していて、遂に目的を達成したって話」

「はい〜?」

「今は、エリナ様と栞様も狙っていて、エリナ様は攻略済み。栞様は後もう少し」

「俺は節操無しか!」

「まぁ、悠人君が一般男性だからこの噂を知らないのも無理ないのかしら」

「それで済まされるんですかね?」


 その話が信じられると、俺は恋人がいるのに浮気を堂々としたということになる。そして、今はその母親にさえも手を出そうとしている。


 完璧屑野郎ですね、はい。


 幾ら、一夫多妻が認められているとはいえ、これでは節操無しと扱われてしまう。

 しかし、俺の事より皆の事が大事だ。まさか、迷惑をかけてしまっていたとは。彼女達の為に少し付き合いを変えるべきなのだろうか。


「とりあえず、全部嘘ですからね。ルナさん、貴女は知っておいて下さい」

「嘘って事は分かってるわよ。でも、マリア様の婚約者って所だけは本当よ」

「え?」

「数年前だったかしら? マリア様の婚約者候補になりたければ、まずエリナ様に認められる事が条件なのよ」

「つまり?」

「悠人君はエリナ様に既に認められているも同然。そして、現在もその婚約者候補は悠人君以外を除いていない。更には、マリア様との仲は良好。よって、悠人君はマリア様の婚約者」

「初耳なんですが」

「私に言われても困るわ」

「まぁ、何とかなるでしょう」



(……勝手に婚約者扱いされているのに、その一言だけで済むのかしら)



 何故か複雑そうな顔をしているルナさん。とりあえず、メイクやドレスも完璧に仕上げてもらったので、更衣室を出てマリア達と合流しようか。


「ではルナさん。今日もありがとうございました」

「いいのよ、悠人君にはいつも楽しくやらせてもらってるから。それよりも早く投げキッス頂戴!」

「ははは、分かりました」


 互いに投げキッスをする。


「では、行ってきます」

「ええ、頑張ってね♪」


 俺は軽くお辞儀をして、更衣室を出た。









 〇〇〇〇



 更衣室を出て、直ぐにマリア達と合流しようと行動する。しかし、更衣室を出た瞬間に何故か数名の男達に囲まれてしまった。


 訳を聞けば、話があるとだけ言われ、俺の腕を掴み何処かへ連行しようとしていた。


 振り払うことも可能なのだが、折角のドレスが台無しになるのも困る。なので、おとなしく連行される事にした。


 連行された場所には、女性が居らず、男性のみが居た。俺が連れてこられると待ってました、といわんばかりに俺の元へとやって来る。



「来たな木下悠人。いや、ここはあえてグラウザーと呼ばせてもらおうか」



 まーた、バレてんじゃん。



「私に何か?」

「何、有名人がいるんだから、見たくもなるだろう?」

「そうですか?」

「お前、まだ自分の立場分かってないのか?」

「自分としてはちょっと走れるだけの男と思っています」


 鍛えてくれているエリナやマリア相手だと完膚なきまでに負かされているので、あまりデカイ態度でいるのはお門違いと感じている。

 とりあえず、謙虚にいきましょう。


「お前、一応最強って呼ばれているんだから少しは大きな態度でいた方がいい。でないと舐められるぞ」

「お気遣い感謝します。ですが、口先だけの者に構ってあげるほど私は優しくありません」

「そうか。それと後1つ、頼まれてくれないか?」

「何でしょう?」

「弟がファンなんだ。サイン貰えないか」

「えっ、まぁ、いいですけど」

「おお、有難い」


 グラウザーのおかげもあってか、ここにいる男性とも仲良くなれそうだ。


「待て、お前だけ狡いぞ。俺も欲しい」

「そんなことよりもグラウザー、お前のあの速さと持久力の秘訣を知りたい」

「フルマラソン走れば良いと思います」




 ‘’えっ’’




 俺のトレーニングの一部を話すと、周りの男達は俺に何か恐ろしいものを見るような視線を向ける。そして、一歩後ろへ下がる。



 こら、一歩下がるな。



「えっ、マジ?」

「はい、番組出演前に橘エリナ様直々に鍛えていただきました」

「あ、うん、なるほど、分かった」

「何かあったんですか?」

「知ってるも何も、俺の母親は昔鍛えてもらっていたが逃げ出したらしい。あれは特訓じゃない、あれは拷問に近いと体を震えさせながら言っていた」

「そうですね、最初は何度も吐いてしまいましたが、慣れましたね」

「なるほど、お前頭おかしいんだな。というか、男子保護法に違反しているんじゃないか?」

「それは自分の意思でやっているので、親の監督責任などの問題は無いですよ」




 更に一歩下がる男性陣。




 おい、俺を孤立させようとするんじゃない。しかも、初対面の相手に頭おかしい発言は失礼だと思う。


「引くのは構いませんが、孤立させられると居づらいので辞めてもらえませんか?」

「おっ、おう、すまなかったな。そうだよな、あんだけ動けるんだからそれだけ特訓したんだよな」

「まぁ、自分でもやり過ぎだとは思ったのですが、どうも手を抜くのが苦手でして」

「それなら暫くは安泰だな。出来れば様々な番組に出てしっちゃかめっちゃかにして欲しいものだ」

「私としては、早く辞めたいのですが……」

「ははは、安心しろ。俺らがそうはさせないから」


 男から見つけた獲物を逃がさないという発言は嬉しくないな。

 そういえば、この中に貴族の家庭でいる者はいる筈。となれば、親のコネを使ってくるに違いない。


 何かあった時の為の後ろ盾は必要というか、もう十分過ぎるんだよなぁ。明らかな過剰戦力なんだよなぁ。




 グラウザーは だんせいきぞくからの しじをえた。

 しかし グラウザーは のろわれてしまった。




「ところで、楽園逃走以外にテレビに出ないのか?」

「出るつもりはないです」

「お前ら、リブシスに凸るぞ」



 馬鹿、やめろ。



 後、誰か俺のウエディングドレスにツッコんでくれよ。








 〇〇〇〇



「悠人様、お待ちしておりましたよ」

「ん、ゆーとさま、おそい」

「他の殿方に捕まっていらしたんですか?」


 男性陣から解放され、やっとマリア、夜々ちゃん、花香さんと合流。

 長い時間待たせてしまったので、3人とも機嫌があまりよろしくない。


「ごめんな、俺がグラウザーってことバレていたらしくて捕まってた」

「そうですか、そういうことなら仕方ありませんね」


 俺の言い訳を、マリアはそう言って納得してくれた。




「やくそくいはん」




 夜々ちゃんは許してくれなかった。




「許しませんわ♪」




 花香さんも。



 2人は俺の腕を組んだ。

 一応、公衆の面前でのセクハラとなる事案なのだが、そこは俺相手なので軽いスキンシップとなる。


「好きなだけどうぞ」


 また、非はこちらにあるため、抵抗はしない。


 マリアを見れば、ふるふると体を震わせている。


「マリア、正面どうぞ?」

「はい!」


 一声かけてあげると直ぐに返事をして、俺を正面から力強く抱きしめる。

 自分が我慢しているのに2人が遠慮なく抱きついている。それが納得いかなかったのだろう。


「悠人様、いつも通りウエディングドレスはお似合いです」

「ありがとうマリア、俺としては普通のドレスを着たいんだけどな」

「ゆーとさまは、ウエディングがいい」

「そうです。いつでも婚礼を挙げれられるという、坂田さんなりの気づかいですわ」


 そんな気づかい要らない。

 只でさえ、マリアとの噂が広まっていると聞いたのにこれでは噂が本当と思われてしまう。


 いや、待て。今この状況を周りに見られている筈だ。


 周りを見れば、複数の視線が俺達に向けられている。嫉妬、羨望など様々な感情が含まれた視線。



 ……でも、まぁいっか。



 大事なのは、当の本人達だからな。俺がいちいち気にしても仕方のないことだ。


「なぁ、これから後何すればいいんだ? ずっとこのまま抱きついているって訳にもいかないだろう」

「あっ、そうでしたね。あちらにお母様達がいらっしゃるので行きましょう」

「了解」



 そして、エリナと栞さんと合流した後、婚礼はいつ頃にするかと普通に聞かれて、反応に困ったのは言うまでもない。







 因みに、


(あそこまで見せつけておいて、まだ婚礼も上げてないとは、木下悠人恐るべし)

(やはり噂は本当だったな)


 などと噂話は真実としっかり勘違いされている。



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