54 買い物とマンション
「ここで会うのも久しぶりですね、リボンさん」
「はい、そうですね! 寂しかったですよ〜」
「この前会ったばかりじゃn……ないですか」
「私もタメ口でも構いませんよ?」
「リボンさんがよろしければ良いんですけど」
「良いですよ。というかじゃんじゃんタメって下さい!」
「じゃあ、そうする」
「はい!」
でも、リボンは敬語なんだな。
場所は近所のスーパー。やっと真夏から買い物に行っても良いと許可が出た。そして、早速買い物に行くとリボンに会ったところだ。
しかし、真夏から買い物許可が下りるとは思わなかった。
訳を聞けば、
「不審者居なくなったらしいの」
だと。
どうやってそれを知り得たのかとても気になる。
とはいえ、久しぶりの買物。学校行く以外で外に出られるという機会を大事にしなければいけない。他に外出する機会は、エリナとトレーニングする時くらい。
「いやぁ、でも不審者が出るようになったので悠人様が買い物に行けなくなったと聞いて驚きましたよ」
「身の安全の為だしね、仕方ない」
「なので、しばらく夜間に徘徊してましたから」
もしかして不審者の正体って貴女なのでは?
「そしたら私と同じような事を考えている人が沢山いたので、拍子木を鳴らしながらパトロールを」
ああ、だから火の用心って毎晩聞こえていたのか。
「そしたら何人か捕まえました」
「おお、あざっす」
「でも、悠人様を知っている方では無かったんですよ。只の空き巣でした」
「ヘぇ〜」
「まぁ皆さんブチ切れてましたよ」
「oh……」
因果応報だけど、なんか可哀想。
「しかし、リボン。偶然とはいえ良く会うよな」
ずっと前から思っていた率直な疑問を聞いた。
しかし、リボンは何食わぬ顔で、
「いえ、それは悠人様が単純なだけですよ。だって悠人様、いつも同じ時間帯に来ているじゃないですか。私はそれに合わせているだけですよ」
あー、……そういやそうだった。
時間帯によって割引セールがあるので、それを狙う為にも行く時間を合わせている。
「この時間帯に人が多いのも悠人様が来るのを分かっているからですよ? 買い物するついでに悠人様が何買うか見ているんですよ」
リボンは辺りにいる人の数人に手のひらで指す。見れば、何処にでもいるスーツ姿の会社員のような女性や、服の上にエプロンをしており飲食店を営んでいそうな女性、何処かの学校の制服姿の女性など。
この会話から察するに買い物している俺を見ているという事だろう。
あっ、今目が合った。
その人は頰を赤く染めながら慌てて目を逸らした。
こりゃ、確信犯だな。
「俺は珍生物か何か?」
「悠人様は男性異常型ですからね〜」
「リボン、それ、凄い、失礼」
「えへへ、ごめんなさい」
「うん、許す」
事実なので仕方がない。
「それより悠人様、今日の夕飯は何にするんですか?」
「ん〜、今日は魚が安いので刺身に」
「刺身ですか、それなら握りましょうよ!」
「いや、練習はしてるんだけど、中々上手くいかないからまだ先」
「おお! その時は是非呼んでくださいね」
「もちろん、皆に作る」
「はい、楽しみにしています!」
しかし、俺を見ても面白いのか?
そんな疑問を他所に俺はリボンと買い物を続けた。
「真夏、俺って近所名人か何かかな?」
「知れた事でしょ?」
「そっかー」
「そういえば近所に大きなマンション建てられたじゃない。ファンクラブ内じゃ聖地永住計画と言われているくらいなの」
「……えぇ」
うちの正面に建っている大きなマンション。日陰になってしまうという事が無かったので気にはしていなかった。だが、そう言われると嫌にでも気になってしまう。
しかし、聖地永住って。
俺と真夏は玄関を出て、建てられたマンションを見る。
「正面だから玄関開けたらマンションが見える。という事は逆にマンションからうちの玄関が見えるの」
「あれっ、よく見るとベランダこっち側じゃん」
「……これは確信犯かも」
しかも、ベランダから何人か人が見える。
俺はマンションに向かって笑顔でピースした。
「悠君、何してるの?」
「覗きサービス」
「たまに思うけど、悠君の肝っ玉凄いね」
「真夏からの遺伝だよー」
少なくともエリナ相手にアイアンクローかます真夏に言われたくない。世界一の貴族相手に。
アイアンクローかました理由は、エリナが俺に与えたトレーニングがハード過ぎた為。
「まぁ、もう見られるのには慣れたから平気」
実害は無いので、問題は無し。
「良い傾向なのか悩ましいわ」
「でも、今更あれ潰せって言っても無理そうだし」
「それもそうね」
(エリナや栞に頼めば簡単に潰せそうだけれど)
改めて息子を囲っている環境の凄さに驚く真夏。それなのに、全くそれらを利用しようとも考えていない息子。
しかし、そんな事よりも、
「ねぇ、悠君」
「なぁ、真夏」
「「今、あそこのマンションのベランダにいる人急に倒れたの見た?」」
とりあえず2人は救急車を呼んだ。




