52 男子校への誘い
「……ん?」
いつものように朝のポストをチェックすると、珍しい物が俺宛に届いていた。
内容は、男子校への入学の勧めが何通も。
まだ俺は小学4年生だというのに、気が早すぎるのではないか。
いや、早めに手を出して入学するよう促そうとしているのかもしれない。
男子校。ここに通えば、友人の1人や2人は出来るだろうか。
「悠君、何かお手紙あった?」
「男子校への誘い」
「ヘぇ〜、……えっ?」
真夏は驚きで表情が固まる。
しかし、直ぐに俺に尋ねる。
「悠君はどうしたい?」
「いや、俺はこのまま浅野中に行くと思ってたから、まだ分からない」
「まぁ、まだ先の話だからゆっくり考えて?」
「うん、そうする」
とりあえず、男子校に通う事による利点と欠点を考えてそれを元に考えてみるとしよう。
学校に着いたが、誰も教室に居なかった。こんな日もあるものだなと思いながら、ランドセルをロッカーに入れて自分の席に座る。
早速、男子校に行くメリットを考えてみよう。
まず、同世代の男性の友人が出来るかもしれないという事。
そして、自業自得で女に囲まれた肩身がせまい思いをしていたがそれがなくなる事。
この2つは重要だ。
後は、この世界の男性の価値観を知れる事か。
この世界の男の女性に対する意識、俺の知識はネットのみ。実際に男性はどう考えているか、聞ければ良いと思っている。
ふむ、……後は思いつかない。
じゃあ、次はデメリットだな。
そもそも俺に友人が出来るかという点。人は異物を嫌う節がある。俺の価値観の違いからハブられるというのが少し怖いな。
後は、……皆と同じ学校に行けなくなる事か。
いや、学校で話せる機会はあまりない。それに家に来てもらえればいつでも会える。逆に会いに行けば良い。
それに俺のせいで問題が起こる事はなくなるから……
「悠人君、どうしたの? 凄い考えているけど」
「いや、何でもない。男子校行こうかなと考えているだけ」
「えっ?」
「えっ? あっ」
不意に聞かれたため、素直に答えてしまった。
聞いた声の主は里奈。
里奈を見ると、
「どうして?」
普通に聞いてきた。
「いや、同世代の友達が欲しいしな」
「でも、浅野中にも少数だけど男の子は入学するらしいよ?」
「……肩身の狭い生活からの脱却を」
「それ元々悠人君の自業自得でしょ?」
「いや、えっと、その通りだけども」
「同じ中学行こうよ」
「まだ、先の話だからもっとゆっくり考えてからでも……」
「私は同じ中学がいいな」
「でも、俺のせいで色々迷惑かかってるだろ?」
「それは悠人君のせいじゃなくて、皆が我慢出来ないから起きた事だから気にしなくて良いんだよ。それに逆に悠人君が居なくなると問題が起きちゃうよ?」
俺は察した。これ里奈を論破できない、と。
「だから同じ中学行こ?」
「……そうする」
「うん!」
結局、流されるように行くと答えてしまった。しかし、せっかく貰ったパンフレットなので、里奈と一緒に見てみることにした。
「おお、やっぱり校内は綺麗だな」
「そうだね、行かないけど」
「食堂もある。三ツ星シェフが腕をかけて作るらしいぞ」
「凄いね、行かないけど」
「ん、何々? 本校は学生の身の安全と触れ合いを兼ねて寮で生活してもらう……。里奈、俺やっぱり男子校行かねぇわ」
「そうだよ、一緒に同じ中学行こう!」
「おう、行こう行こう」
何故家族と離れてまで男子校に行かなければならないんだ?
全く、家族団欒の生活を失うところではないか。
「うわ、他も全部寮生活とかダメじゃん」
「そうだね〜、浅野中だね〜♪」
「そうだな〜、浅野中だな〜」
そして、帰宅後、
「にーちゃ!」
「お兄さん!」
帰るや否や俺の足にしがみつく優菜と早苗ちゃん。
いつもと違って何か慌てている様子。
訳を聞くと、男子校に行っちゃうのっ!?と大声で聞かれた。
真夏が優菜に伝えたのだろうか? しかし、俺は行く気は無くなったので、行かないと返す。
それで2人は安心したのもつかの間、心配させた罰として膝枕をさせろと言ってきた。
断る理由が無いので、2人を膝枕をする。
2人の頭を撫でながら、しばらくの時間を過ごす。
「あのお兄さん。因みに、男子校に行かないと決めたのはどんな理由ですか?」
「ん? 寮生活だから」
「へ?」
「真夏と優菜と離れてまで男友達欲しくない」
「おお、流石にーちゃ。愛してるぞぉっ!」
「俺も愛してるぞ」
(それ、お兄さんが自宅から通学したいって言ったら普通に許可されそうだけど、……言わない方がいいよね)
彼はあまり我儘を通したくない性格の為、これに気づくのは浅野中学に入学してからの事であった。
そして、息子が男子校に行かない事に密かに喜ぶ母親が居たという。




