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50 少年と会おう

 

「うわぁ! 本物のグラウザーだ! 凄い凄い!」


 少年がある男の前におり、その男に会うと目をキラキラと輝かせながら喜びを露わにした。


 呼んだ名前の通り、グラウザー。その中身は当然、楽園逃走にて茶の間に驚愕を届けた木下悠人。


「あのねあのね、グラウザー! 肩車して欲しい!」

「分かった、乗るといい」


 男は少年を背にして肩に乗りやすいように膝をついてしゃがむ。少年は「やった〜!」と言いながらよじよじと男に登り始める。


「よしっ! それじゃあレッツゴー!!」

「落ちるなよ」


 男はそのままゆっくりと歩き始めた。


 少年は男の頭をテシテシと叩きながら、色々な事を質問した。





 ある日、夕飯を食べ終わり俺と優菜と明日香はテレビを見ていた。


『さぁ、今日は大変だったんですよ! 天皇のご子息であられる東堂悟(とうどうさとる)様がついにその姿を現したんです! ではVTRをどうぞ!』


 テレビのアナウンサーが興奮しながら説明していた。


 VTRに変わるとそこには1人の顔が整っているとてもイケメンな美少年が。しかし、少年は周りの視線から隠れる為に近くにいる母親らしき人の後ろに隠れた。


 無理もない。何故ならその子を見る為に現地まで来た人が多過ぎるからだ。


 夏コミ並みの人の量。しかも、大人気バンドのライブ並みの盛り上がりっぷり。画面越しからもその熱気は伝わる。それにバッタバッタと人も倒れているし。


「天皇の息子ねぇ」

「私はにーちゃがいるからどうでもいい」

「私もそんなに興味ないわ」

「いや、少しは興味持と? ほら、美少年だぜ。絶対将来有望だと思うんだよ」

「何でにーちゃがフォローしてるの?」

「……本当だ、何でだ?」

「木下君、私に聞かれても困る」


 少年について話していると、インタビューの人が少年に質問していた。


『今日は本当にありがとうございます!! じゃあ、早速悟様の好きなものは何でしょうか?』

『えっ……と、あの、グラウザー、です』


 ……。


『グラウザーって、あの楽園逃走の?』

『うっ、うん。見た目はちょっと怖いけどすっごくかっこ良いのっ!』

『そうなんだ〜、お姉さんも大好きです』

『で、でもあの一度っきりで今出なくなっちゃった。もっとグラウザーが捕まえるところいっぱい見たいのに。で、でもね! 今度お誕生日の時にグラウザーに会えるようにお母様にお願いしたんだ! お母様、そしたら会わせてくれるって約束してくれたよ!』


 2人が俺を見る。その視線は語らなくても、これは一体どういうことか説明してと伝わる。

 しかし、残念な事に俺も初耳なので、何が何だか分からない。


 ただ一つ言えるとすれば、面倒ごとがやってくるということだけ。



 すると、家の電話がリビングに響いた。



 えっ、もうフラグ回収? というか、俺の正体割れてんの? 天皇だから知ってるの? 天皇すげぇな。


「あっ、私が出るね」


 優菜が気を利かせてくれて、受話器を取り誰か尋ねる。


「もしもし? あっ、はい、兄は今おりますが......どちら様ですか? 東堂さんですね。分かりました、今兄に代わりますね。にーちゃ、天皇様から」


 流石優菜、嘘はつかない良い子です。


 優菜から受話器を受け取る。


「はい、代わりました。木下悠人です」

『夜分遅くに申し訳ありません。私東堂春妃(とうどうはるひ)と申します。本日は悠人さんにお願いがあって連絡をさせて頂きました』

「そうですか、大体は察しがついております。息子さんの誕生日にグラウザーとして参加して欲しい……でしょうか?」

『はい、あの出演した日以来すっかり好きになってしまいまして、何回も見直しているんです。悠人さんの事情も把握しておりますが、どうかお願い出来ないでしょうか?』


 行って会うだけなら何も問題はない。だが、天皇の息子。それを祝う為に沢山の人が来るはずだ。そこに俺がグラウザーとして参加する。当然、参加している人にもそれは気づかれるし広まる。


 一度やったことは取り消せない。グラウザーが誕生日に会いに来てくれるという事実が生まれると、他の人も自分の所にも来て欲しいと頼まれる可能性が高い。それはとても面倒だ。


 凄く断りたいが……さっき見たVTRを思い出してしまう。誕生日、母が会わせてくれると約束してくれたと、少年は笑顔で言っていた。


 あの様子を見るにまだ母親に懐いているのだろう。男性は女性を嫌うのは仕方のない事かもしれない。それだけならともかく、育て親である母親まで嫌うケースが多い。いや、それが大半らしい。


 他所は他所と思えればとても楽なのだが、またもや俺は深く考えてしまう。


 それに東堂さんは約束までしてしまった。破ったとなれば、あのくらいの歳なら泣き喚くだろう。それだけならまだ可愛い方。だが、信用を失うことになってしまうというのが最悪だろう。


 俺の価値観はこの世界では異常。その価値観で行動した結果、痛い目や面倒事が増えたのも確か。


 おいそれと断ったならどうなるか想像もつかない。当たり前のことだけどな。


 はぁ……、また深く考えてしまった。ここまでは考えた以上、断るという選択肢は俺にはない。何故なら断った事を後で俺が後悔するかもしれないからな。


「分かりました。そのお願いお受けいたします。ですが、私からも条件があります」

『ほ、本当ですか!? 』

「はい、それで条件というのですが息子さんと会うのは誕生日の次の日にお願いしたいのです。グラウザーが誕生日に子供に会いに行くという噂が流れないようにと、俺がメディアにはあまり出たくないからです」

『えっ、その程度でよろしいのですか? もっと何か報酬の話などは……』

「グラウザーのイメージが壊れますので、それ以上はやめて下さい」

『そうですか、分かりましたそうします』

「はい、では日時の方をお聞きしたいのですが……」


 息子さんの誕生日は再来週土曜。俺が会うのは日曜日となる。


 因みに、グラウザーの姿なら俺本人が出向く必要がないのではと質問したところ、


「あの子一目見ただけで分かってしまうのです。この前は体型や身長が悠人さんと同じ方にお願いしたのですがすぐに偽物と気づきました」


 だそうだ。


 そして、電話が切れリビングでテレビを見ている2人に今の話をしたところ。


「「うん、だろうね」」


 と2人は俺が電話に代わった時点でこうなると察していたらしい。


 俺は真夏が帰ってきたら話さねばと思い、そのまま帰りを待っていると携帯電話が鳴った。


 誰だろうと画面を見ると真夏。


『悠君、天皇の息子さんに会いに行くんでしょ?』


 もう分かっているのか、真夏パネェ。

 もちろんと返すと、やっぱりねぇと真夏が呆れた感じで返答する。


『悠君のことだから、断れない内容だと思ったもん。私もさっきのを会社のテレビで見てたからね。良い笑顔してたもんね』

「ごめんなさい」

『良いのよ、悠君のしたい事して? そして、ちゃんと喜ばせてあげて』

「おう」


 電話を切った後、俺は再来週の用意をし始めた。しても衣装と仮面を押入れから引っ張り出すだけだが。



 次の日に皆から「天皇の息子さんに会いに行くんだよね? 友達になれるといいね」と言われた。



 皆察し良すぎるし、なんで俺が男友達いない事気にしてるの知ってんだよ。




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