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49 ラジオの真似事

「ラジオ放送?」

「そう、悠人君にラジオ放送的な事をしてもらいたいの」


 帰りのHRが終わって帰宅しようとしたところ、柳田が俺に相談があると言われた。立ち話ではなんなのでと新聞部の部室へ。


 相談の内容はラジオ放送の真似事をして欲しいとのこと。しかも、それの殆どが学校関係者外のファンクラブの会員からだという。


「具体的にどうすればいいんだ?」

「えっ、やってくれるの?」

「えっ、やらないの?」


 ファンクラブについて柳田に任せっきりで俺は何もしていない。彼女の日々の苦労を考えれば、これくらいの相談、乗らないという選択肢はない。


「いや、悠人君がその気ならいいのよ」

「あれか、便りに対しての返事的な?」

「そうね。いきなりフリートークなんて無理に決まってるから最初はそれくらいがいいわ」


 なるほど、実際に便りを読んでそのまま返事をするだけならそんな苦でもないし問題はないな。


「便りの方は任せて。私の方から集めておくから」

「何から何までありがとな」

「いいのよ、好きでやってるから」


 そう言ってくれるのは嬉しいんだが、上手くやれるか心配だな。


「それよりいつやるんだ?」

「明後日からでもいいかしらね」


 早すぎない? 俺の方は問題はないけれど、便りの方は集まるだろうか?


「集まるわよ、直ぐに」

「心読むのやめれ」

「あら、悠人君は比較的に読みやすいわ」


 ……まぁ、俺って単純なところあるし仕方ないのかもな。でも、心読まれるのってなんか複雑。


「それでどんな感じでやるんだ?」

「悠人君と私の対話の様なものよ。悠人君自身で便りを読んで返事して、私が気になったところを質問していく感じ」

「それ柳田にヘイト貯まるんじゃ?」


 近くにサポートとしていてくれるのは嬉しい。だが、そのせいで柳田に嫉妬する者も少なからず出るはず。下手すれば手荒な行動をする者も出るのでは、と考えるとあまり良い案ではない。


「最初から悠人君1人でやらせるわけないわ。それに、私は悠人君の新聞を唯一書ける人間。私に何かあった時点で新聞は発行停止よ? 情報を提供している分これくらいの権利は許してもらわないと」

「敵討ちは任せろ。俺がこの手で潰してやる」

「被害ありの前提で言わないで。でもありがと」


 感謝されるまでもないと思うけどな。


「ずっと前にも言ったけど柳田以外に新聞を書かせる気はないからな」

「あら、それは嬉しい。私の個人の権利がもっと強くなるわね」

「一応誓約書とか書くか? 大丈夫、ちゃんと拇印だから 」

「……たまに思うんだけれど、悠人君のする事って徹底し過ぎるんじゃないかしら?」

「口より物の方が信用は高いからな。それで柳田の身の安全が確保できるなら問題ない」


 俺は部室に置いてあるコピー機から適当な大きさの両面白紙の紙を取り出し、誓約内容を記入していく。


「でも、もし何かあったら言えよ? その時は俺が責任を取る」

「……!」


 どんな?って聞かれたら、なんて答えればいいか分からない。だが、俺個人の出来る範囲で全てをやるつもりだ。


「ところで、私達未成年だから誓約書意味ないんじゃないかしら?」

「えっ、マジ?」

「全く、変なところで知識が曖昧ね」



(責任を取るって……悠人君の馬鹿。何か起きて欲しいって思ってしまったじゃない)



 悩んだ挙句、一応書いておこうと思ったので、誓約書を作成して柳田に渡した。


 渡された柳田はめっちゃ複雑な顔してたけど。


 因みに、耐水性も考慮してラミネート加工しておくか?と言おうと思ったのだが、流石にやり過ぎだし、自分でも引いたので心の中にしまった。




 そして、放送当日。


 給食を食べ終わり、昼休みの時間に柳田と放送室へ。

 放送室に入ると、放送委員の子と先生がおり俺達を待っていた。

 軽く挨拶を交わし、そのままマイクが置いてある机の席に座る。柳田は俺の正面の席に座った。


「じゃあ、悠人君これから放送するからよろしくね」

「分かりました」


 これから初めてのラジオっぽい活動。しっかりできる様に気を引き締める。


「大丈夫よ」

「だから心読むのやめれ」

「ふふふ♪ それより、いきなり本題に入る前に挨拶とか考えてきたかしら?」

「まぁ、最近の出来事を話してから挨拶でいいんじゃないかなと思ってる」

「へぇ、どんな?」

「最近、女装していても近所の人に悠人君今日もかっこいいねと言われる」

「まぁ、大変ね」


「じゃあ、そろそろいくわよー。3、2、1、スタート!」


 先生の合図と共に俺は話し始める。


「どうもこんにちは、最近近所の人に女装が看破されている木下悠人でしゅ!」



 ……。



「悠人君、気持ちは分かるけど続けて」

「……今回はぁ、何かラジオ? して欲しいって聞いたからやってみようかなぁって思ってしてます」

「テンション下げないの」

「分かった。それより皆さんからのお便りを読んでいきますね! 柳田君、サポートお願いしますね?」

「今更、キャラ付けしても意味ないんだから普通にしなさい」

「そうか、じゃあ普通にしていこう。では早速記念すべき1通目は?」



 俺が読むお便りは箱の中に入っている。その中に手を入れ、1通を取り出して読む、という形。



 Q、悠人君は周りに人いない時に小さく歌を歌っているらしいので、ぜひフルで聴きたいです。特にラブソングをお願いしたいです。



 いきなり俺の知られると恥ずかしい事を普通に聞かれるってどゆこと?


「ちょっと待って柳田。何でここまでこの人知ってんの? お前そんなに近くで俺のこと見てたの?」

「変に途切れ途切れに聞こえてるから独り言かと思ってたけど、よく聞くとリズムに乗ってるから歌っているなと思っただけよ」

「違う違う、距離の話」

「偶に近くで撮ったら聞こえただけよ。それよりも見られているってことを、知ってるのに歌っていたから別に知られていいのねって私は思ってたのだけど」

「そう。でもラブソングって性的な刺激が強いと聞いているから流石に無理だな。ごめんね、我が身大事ですので」



 A、自殺行為だからやだ。



 やばいな。下手をすると俺の恥ずかしい事ばかり聞かれるかもしれない。しかし、まだ1通目。まだまだ他にも普通の質問があるだろう。



 Q、悠人君が最近読んだ「壊れた恋」は確かNTR中心の物語のはずですが、それを読んで何か感想はありますか?



「……純愛は正義」

「というか、何で読んでたの?」

「文通している子に勧められたから」

「そう」

「感想は、欲のまま快楽に溺れ続ける事は生きる上で1番愚かな事だと思う。あと、自分の行動が大切な人にとってどんな影響を与えるのか、それをよく考えさせられた作品だったな」

「あっ、ちゃんと答えるのね」

「まぁ、感想だし」



 A、自身の行動を振り返えさせられる作品だった。



「さぁ、どんどんいこうか」


 しかし、雲行きが怪しくなっている。いや、最初から怪しいが、別に答えられない質問ではない。何でこう、ピンポイントで少し間違えると地雷を踏みそうな質問ばっかりなのだろう。



 Q、にーちゃはやっぱりおっぱいは大きい方が好きなの?



「優菜ぁ……」

「悠人君、こういうのは普通に家で聞いて欲しいって顔してる」

「優菜は優菜で居てくれればいいんだよ」

「あら、答えないの?」

「ここで俺が巨乳好きですって言ったらどうなる?」

「うーん、胸無い人はシリコン入れるわね」

「逆に貧乳の場合は?」

「巨乳の人は斬乳かしらね」

「バイオレンスは勘弁なので巨乳が良いです」



 A、うん、そうだね



 Q、悠人君のバベルはどれくらい……



 ビリィッ!



 俺はそのお便りを破り捨てた。


「ラジオでセクハラ許すまじ」

「それは優菜ちゃんから聞けば確実よ」

「優菜、答えるんじゃないぞ!」

「そういえばさっきから変な便りばっかりね」

「もう少しまともなのないのか?」



 Q、私は知り合いからブスと言われています。それを言われるのが嫌で整形をしようと思うのですが、悠人君はどう思いますか?



 えっ、重……。


 いきなりシリアスな内容で困るんだけど。だが、読んでしまった以上答えておかないと。


 俺は周りから聖人やら優しい人やら綺麗な人とか言われているが、そうではない。特に理由もなく、相手を傷付けるのが嫌なだけ。


 だが、ここは少し厳しくなるけれどはっきり言わせてもらう。


「……この内容は俺ではなく、君を本当に大切にしている人、信頼している家族や友人に聞く事をオススメします。俺は整形したという事実を知れば、誰もいない所で顔をしかめるでしょう。俺からすれば愛する母から貰った大事な身体、それを傷付けることは愛してくれている母への最大の侮辱だからです。しかし、こんな俺の意見はどうでもいいのです。君のしようとしていることはこの先、君自身の人生を変えるもの。それを踏まえて慎重に行動してください。そして、今本当にしなければならないことか、それをよく考えて。別に悪口に耐えろと言っているのではありません。君は悪口を言う人の為に変わるのですか? 君はその悪口を言う人に好かれたいのですか? 悪口を言う人なんてどうでもいいと思えませんか? 考えを改めると、悩みが無くなることだってある、というだけですから」



 A、それは自分と大切な人達と決めなさい。それか考えを改めてみてはどうだろう。そうすると、今の悩みはどうでもよかったと思えることがあるから。



「……じゃあ、次いくぞ」

「悠人君、貴方のそういうところ良いと思う」

「そうか? まぁ、今の言葉を信じるのは聞いた人次第だ」

「ふふふ、真面目パートも中々いいかも」

「そうかい」


 不意に腕時計を見ると、昼休みの時間が終わる10分前。


 次の授業は理科の実験。移動教室なので、切り上げなければ授業に遅れてしまう。


「あら、もう時間ね。今回初めてだけれどどうだったかしら?」

「なんも言えねぇ」

「そう、じゃあ締めましょう」

「おう、今回はお試しという感じでしたがどうだったでしょうか? 楽しんで頂けたのであれば幸いです。では、さよなら」



 ラジオは好評だったらしい。

 しかし、放送後、皆に悠人君ってやっぱり優しい人だねと言われた。なんでや。


 後、最後のお便りをくれた子から、またお便りを貰った。内容は、家族や友人に相談した結果整形はしない、とのこと。それに、悪口を言っていた人の事なんてどうでもいいと思ったら気にしていた自分が馬鹿みたい、だと。


 俺はその子に、自分が納得出来たならそれでいい、と返事を書いた。


 そういえば、放送後の文通でなんか色々相談されるようになったな。



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