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47 スキンシップの訳とあまえさせたい母

 


「にーちゃってもしかしてビッチ?」


 四年生の夏。いつもの休日をのんびりと過ごしていたのだが、優菜の発言で一悶着ありそうです。


「何処で覚えた、教えた奴を制裁してくる」

「あっ、そういうこと言って逃げようとしてるのバレてるよ!」


 話の内容を無理矢理変えようとしたが失敗した。


「何人をビッチと決めつけているんだ。俺は普通だろ?」

「にーちゃみたいな人が普通の男の人? ……にーちゃ、今すぐ病院へ行こう!」

「えっ」

「どうせ、にーちゃの中では普通だからとか言ってるんでしょ?」

「分かってんじゃん」


 前世で男が当たり前のように貞操の危機に陥る状況なんてある筈がなかった。また、俺が女の子に狙われることなんてなかったこともあり尚更。


 貞操を守るという意識すら元からなかったんだから仕方ないよな。


 故に、パンツ一丁でも俺が羞恥心を感じる事はない。流石に男の象徴を見られたら少しは羞恥心を感じるだろうけども。


「確かに普通の男性よりもスキンシップは激しいかもしれない。けれどちゃんと線は引いてるから」

「だからって抱きしめ合うのはやり過ぎだと思うの!」


 少なからず特に理由もなく抱きしめ合う事はしない。


……だが最近はよく抱きしめていた気がする。


 俺は女の涙に弱い。それを狙っているのか、本気で泣きそうになっているのかは見ていればある程度は分かる。しかし、もしそれが自分の勘違いで本当は後者であったなら俺はどうしたらいいか分からない。それに、頭では分かっていても、目の前で涙目で俺を見つめられると断り切れない。


 女性には笑顔でいて欲しい。それが知り合いなら尚更。だから、「抱きしめる程度なら問題ないのでは」と思いながら、抱きしめてしまった。



 だが、それがあまかった。



 俺の女の子達への接し方は皆平等。1人にでもその行動をしてしまえば、他の子にもしなければならないということになる。


 抱きしめてもらえれば当然その子は周りに自慢するだろう。


 それが広まり、抱きしめて欲しいと頼み込んで来る子が来てしまった。もししなければ、「あの子にはしたのに何で私にはしてくれないの?」と嫉妬によるいじめが起きてしまうかもしれない。


 いじめは絶対に駄目だ。


 故に俺は頼まれたら抱きしめるようにしている。


「にーちゃ、分かってる? 狙ってされたってこと」

「やっぱりそうなのか?」

「うん、にーちゃ年下の子に優しいから」

「でもみんな悪い子じゃないんだよなぁ」

「……なんかにーちゃ、DV受けてる人みたい」

「そうか?」

「でも、それ精神面だからタチ悪い」


 優菜は思う。にーちゃの前だからこそ良い子になっているだけで猫を被っているだけで、本当はエッチな事したいと思っていたり、にーちゃの私物が欲しいなどと言っていたり、実際に行動に移している子もいたんだよ……。まぁ、私物盗んだ子は粛清されたけど。


 だが、これを実際に兄に言って良いものか悩む優菜。これが原因で女性不信になり、自分も嫌われるかもしれないので中々言い出せない。


「まぁ……どうしようもないな」


 こればかりは俺が女性不信になるくらいの出来事が起きない限りはどうにもできないこと。しかし、そんな事起きてしまえば俺が周りを傷つけるのは明白なので勘弁してもらいたい。


「大丈夫だよ、にーちゃ。ファンクラブの規約に過度なスキンシップ禁止って入れとくから!」

「えっ、即解決?」

「にーちゃの精神がすり減るかもしれないのに黙って見てるわけないじゃん!」

「そう? ありがとう、よろしく頼むな」

「うん!」


 次の週、誰も抱きしめて欲しいと来なくなった。



 やっぱりみんな絶対良い子だよ。



「ごめん、悠人君ってビッチっぽいけど純情だったんだね」



 優菜お前なんて言って納得させた!?


 てか俺ビッチって思われてたんだぁ……。




 〇〇〇〇


 常々私、木下真夏は一番の幸せ者だと思う。


 朝起きれば、愛しの息子が朝ご飯とお弁当を準備してくれて、私が仕事中には、兄妹で家事などをしてくれている。家に帰れば玄関まで来て「お帰り」と言ってお風呂と夕飯を用意してくれている。


 娘も息子もどちらも素直で優しい良い子に育ってくれた。母親としても鼻高々である。


 だが、私は更に幸せを感じている。




 それは息子があまえてきてくれるということ!




 数年前からあまえなさいと言い続けて膝枕や、耳掻き、背中に寄っかかれるくらいだったのが、今は背中に抱きついてくる。


 そう、抱きついてくるの!悠君が私に!


 しかし、生憎正面からではなく後ろから、つまりあすなろ抱きというもの。


 相変わらず、正面からこないのには不満があるけど、悠君があまえてくる条件を考えると仕方のない事かもしれない。


 悠君があまえてくるのには妹の優菜がいないこと。そして、私が何もしていない事。それら2つの条件を満たした上で背中がガラ空きなこと。この3つが揃っていないと悠君は絶対にあまえてこないの。


 私の仕事の邪魔をしないように気を利かせくれるのは嬉しい。けど、私としてはいつでもあまえて欲しい。というか、実際後ろから抱きしめるくらいで仕事の邪魔にならないからずっと抱きしめて欲しい。


 多分、集中させる為に1人にさせるのだろう。


 また、悠君のあまえてくる時に常に一定の行動をしていることを見つけた。

 それはまず、悠君は「何してんの」と私が何かしているか確認の為に声をかけてること。もしここで私が「今仕事中」や「会社の人に連絡してるの」と言った瞬間、悠君は「そっか」と言って離れてしまう。「何もしていないよ」や「今仕事終わったところ」と言うと抱きしめ継続。


 しかし、厄介なことに「何もしていない」と返答しても、私の机の上の状況や携帯の画面をチラッと見て私が嘘をついているか確認する。少しでも「気を遣っているのでは?」と思わせてしまうとあまえようとしなくなる。


 全く変な所で察しが良いのはやめて欲しい。


 だが、これについて私は解決策を見出した。




 それは残業。




 いつもは家でゆっくりと明日の仕事の準備などをするのだけれど、職場で終わらせてしまえば、家では何もしなくていい。つまり、悠君が必ずあまえられる状況になるということ。



 ふふふ、さぁ悠君、私に存分にあまえなさい。



「真夏、おやすみ」



 えっ?



「えっ、あっ、うん、おやすみ悠君」



 抱きしめてくる事すらしない……ですって!?


 そんな、何で?


 はっ!? まっ、まさか。


「残業して疲れてるのにあまえるなんて出来ない」って思われたんじゃ……。



 ……さすが悠君、優しい子!



 でも、あまえて欲しいぃぃ!



 木下真夏の静かな奮闘はこれからも続く。




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