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46 再、触れ合い会

 


「悠人さん、今回も参加していただいてありがとうございます」

「いえ、栞さん。気にしないで下さい」


 去年参加した触れ合い会。やはり、今年も参加して欲しいと林さんから連絡が来た。


 1度参加して後知りませんじゃあ無責任だからな。断ることは出来なかったので参加する事に。しかし、会場は聖アテネ学園ではないことを条件にだが。


 意外な事に今回はマリアやエリナ、真夏、優菜が来ていない。


 多分、栞さんがいるからだろうか?


「ご心配なさらないで結構ですよ。今回は私が貴方の面倒を見ることになったのです。安心してくださいね」

「そうですね、夜々ちゃんや……花香さんもいますしね」

「まぁ、花香さんは悪い子ではないんですよ」

「いえ、それは分かっているんですが」



 すると、背後から悪寒を感じる。



 振り返ってみるが、誰もいない。しかし、俺は警戒を高める。





「お久しぶりですわ! 悠人様!」




「うわぁっと!?」


 しかし、それも虚しく無駄に終わり、急に背中に抱きついて頬ずりして来る花香さん。


「花香さん、いくらなんでも悠人さんに急にセクハラなんて許されませんよ?」


 直ぐに俺の背中に張り付いた花香さんを剥がす。だが、剥がした後花香さんにアイアンクローをかましている。


「いだだっ! しかし、叔母様これが私と悠人様の挨拶なのですわ!」

「私は出来ないので許しません」

「それは単に叔母様が奥手……痛い、痛いですわ!」

「あらあら、何か言いましたかぁ?」

「いっ、いえ! 何でもありませんわ!」


 ……痛そうなのでやめたげて?


 てか、さっきからミシミシと花香さんの頭から聞こえるからからマジでやばそうなんだけど。


「ゆーとさま」

「あっ、夜々ちゃん。こんにちは」

「ん、こんにちは」


 挨拶を交わすと夜々ちゃんは俺の右手を握り隣へ来る。


 ふと夜々ちゃんを見れば、コンクールでプレゼントした桜の花のヘアピンを付けている。


 気に入ってくれて何よりだ。


「あっ、ずるいですわ夜々さん! 私も悠人さんと手を繋ぎたいです」


 栞さんに解放された花香さんが、手を握っている事に嫉妬している。


「はなかさんはゆーとさまにめいわくかけすぎ、すこしはんせいして」

「そんな事ありません! 私と悠人様もそれなりに良い関係です! そうですよね、悠人様?」

「えっ、あっ、うん、そうだね」


 正直、苦笑いしかない。


「ゆーとさまがにがわらいしてる。やっぱりはなかさんはめいわくかけてる」

「そっ、そんな……」

「いや、あのね、背中に急に抱きつかなければ問題ないんだけど」

「では、一言あればよろしくて?」

「……まぁ、そうなるな」


 うん、急に来られると困るからね。一言入れてくれれば問題ない……のか?


「では次回からそう致しますね」


 あっ、これ言質取られた。


「悠人さん、そろそろ時間です。行きますよ?」

「分かりました」


 栞さんに言われ会場へと向かう。その時俺は近くに置いてあった椅子を持ちながら。





【ではこれより触れ合い会を始めます】





 会場に向かいそのアナウンスを聞くと、俺はその場で持っている椅子に座る。


「……ゆーとさまなにしてるの?」

「ん? 見てれば分かるけど、拉致られる」

「え?」


 1年前と同じような足音が聞こえる。


 周りを見渡すと四方八方から貴族の令嬢達や婦人達が俺の元へと向かって来る。

 そして、俺の座っている椅子ごと持ち上げられそのまま拉致られる。


「えっと、ちょっと行ってきます」


 3人に声をかけて、俺は何処かへ運ばれて行く。


「夜々、今すぐこちらへ、抱えますよ! 花香さん、今すぐ追いますよ!」

「うん」

「分かりました!」


 あっ、追いかけてくれてる。


「あの、もう少しゆっくり走ってもらえませんか?」

「ごめんなさい、無理ですわ」

「えっ、どうしてでしょうか?」

「さっきから山崎家だけでお楽しみしていたのですよ? 無理に決まってます!」


 ああ、そうですか。


 今回も王子様抱っことかすればいいのかなぁ。





 ーー触れ合い会、数日前ーー


「今回の触れ合い会の同伴者は栞だけ? そんなこと許されるはずないでしょ?」


 彼が触れ合い会にまた参加すると聞いたエリナ。当然、また自分も参加して彼の身の安全を万全にしようと思っていたのだが、栞に今回は山崎家のみで平気と言われた。


 その日、真夏は仕事の都合で同伴することが出来ず、それに伴い優菜も参加不可能になった。


 故に、参加可能なのはエリナとマリアだけ。


「あらぁ? 何処の誰でしょうかね、 前に1ヶ月もの間彼をほぼ独占していたのは? そんな人からそのような発言が出るとは思えませんね」

「ぐっ……」


 一応共有すると言っていたが、まだ橘家と山崎家の対立はある訳で時々彼女らは言い争いを始める。


 そもそも対立している原因は、それぞれの祖先が1人の男の取り合いのせいである。どちらも互いに共有する事を拒み、熱烈にアプローチ。時にはお互いに邪魔などしていた。しかし、結果はどちらも振られ、それを相手のせいに。


 それ以来、橘家と山崎家は対立していた。


 だが、エリナも栞、どちらもその事に関してどうでもよかった。だが、幼い頃から酷い人間と親から教わったため、対抗意識を持つようになり、未だに関係を修復をしていないのが現状。


「普通あそこまで鍛える必要あったんでしょうか? 」

「……」

「思い人なのに何度も吐く程のハードトレーニング」

「……それは」

「本当に彼の事を考えてしたんですか?」


 容赦無く責め立てる栞に対し、エリナは何も言い返さない。


 エリナ自身もあのハードトレーニングはやり過ぎという意識を持っていた。しかし、トレーニングをハードにするように求めたのは他でもない彼。だから、それに応えようとしたのが自分。


 だが、不安があった。


 厳し過ぎるトレーニングを与え、優しくしてくれない自分に嫌気が指すのではないかと。しかし、トレーニングをこなした後、彼が話す事すら難しい状態で自分に向ける視線は、「休ませて」や「辞めたい」ではなく、




『次は何するんだ?』




 次のトレーニングを求めてきたのだ。


 だから、エリナは徹底的に厳しくした。そして足を故障しないよう、橘家専属の医療スタッフも常に近くに置き、何か異常があればすぐに中止し、精密検査を行うように指示した。

 結果的には最後の最後まで何も起きず、医療スタッフは何も異常がないことの安心と彼と話せなかったことにがっかりしていたが。


「もちろん、悠人の為にしましたよ。まぁ、悠人に求められてすらいない貴女には分からないと思いますけど」

「……あらあら、言いますねぇエリナ」

「……まぁ、とりあえず今回は栞に一任するわ。悠人を監禁なんてさせないで下さい」

「ええ」


 そして2人の触れ合い会について話は終わった。






 お嬢様に運ばれ、また1年前と同じように握手会のようなものを行う。


 ここまでくるともう俺は彼女達のアイドルになっているのではないかと思ってしまう。いや、アイドルなのだろう。


 多分、この先ずっと聖アテネ女学園にお呼ばれする事になるのだろう。


 だが、


「本日お会い出来て、本当に感謝を申し上げますわ!」

「ありがとうございます。そう仰っていただけて嬉しいです」


 満面の笑みを浮かべて、感謝を伝えてくる女の子や、婦人達を見ていると来て良かったと思える。


「やっと追いつきました」


 栞さん、夜々ちゃん、花香さんの姿が見えた。すごく手間をかけさせてしまって、本当に申し訳ない。


 3人が俺の方へ向かって来ようとすると、お嬢様方が壁となり遮る。


「あら皆さん、これは一体どういう事ですか?」

「何処で悠人様とお知り合いになったかは知りませんが、今回は私達が優先でしてよ?」

「……そうですか。ですが今回の私達は悠人さんの安全の為に同伴しているのです。前回同様に悠人さんを拉致した皆様方の方が問題だと思いますが?」

 

 栞さんは威圧するように言う。栞さんの言ったことは全くの正論であったので、壁となり邪魔をしているお嬢様は何も言い返せない。次第に道を開けて栞さん達を通す。


「悠人さん、拉致されるのを分かっていらしたのでしたら教えて下さっても良かったのではないですか?」

「確かにそうですね。申し訳ないです」


 栞は思う。


(……拉致されたというのにそのことに関して気にもしていないとは。本当に女性にあまいのですね)


「栞さん、どうしましたか?」

「いえ、何でもありませんよ」


(あの男嫌いのエリナでさえも今や恋する乙女……。貴方がこの先どの様にして人生を送るのか。じっくりと見させてもらいますね)


「……栞さん?」

「これからも末永くよろしくお願いしますね」

「はい、良きご友人としてよろしくお願いします」


(あら、結構ガード硬いのね)

(周りを見て発言して下さいよぉぉぉ)


 そして、2度目の触れ合い会は続いていく。




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