閑話 お泊まりと疑問
(ついに悠人君の家にお泊まり出来た!)
私こと木村里奈は歓喜に満ちていた。私の大好きな悠人君と一緒の屋根の下で寝れるんだから!
それに皆一緒だからもし自分が過ちを犯す前に皆が止めてくれる。
せっかくの悠人君の信用を失う真似はしたくないし、皆で共有するって決めたしね。
でも、優菜ちゃんの暴走が激しいから結構争っちゃうんだよね。
そういえば、悠人君の家に泊まるって決まった後直ぐにお母さんから連絡来たの。
『里奈〜、今日私帰れそうにないの〜。一応昨日のカレー残ってるけど平気〜?』
「うん、大丈夫だよ。悠人君の家に泊まるから平気だよ」
『そっか〜、悠人君の家に泊ま……え?』
「皆一緒だからね楽し「皆〜、夕飯できたぞー」うん、分かった! じゃあお母さん、気をつけてね!」
『里奈、ちょっと待って! それって一体……』
話が長くなりそうになったから用件を言って直ぐに切ったけど、帰ったら何言われるのか怖い。
ふと周りを見ると、明日香ちゃんやマリアちゃん、皆が携帯を持っていた。
(お母さんから?)
と視線で尋ねると、直ぐに頷く皆。
帰ったらそれぞれの家で第一次親子大戦勃発かなぁ……。
あっ、悠人君の手料理は相変わらず美味しかったよ。
というか、悠人君はなんでも作れるんだね。ポトフなんて初めて食べたよ。
悠人君の手料理を堪能した後はお風呂に入ろうとなったんだけど、悠人君は最後に入ると聞かなかった。
普通は男の人が最初に入ると思ったんだけど、「常識外れの悠人君」に普通は通じない。だから、私含め皆は悠人君の意見を尊重して最初に入る事にしたの。
しかし、悠人君がとんでもない事を言った。
「あっ、下着洗濯するから洗濯機入れといて」
えっと……悠人君?
「もしかして手洗いじゃないと駄目なやつか?」
違う、そうじゃない!
「ん? あっ、すまん。デリカシーなかったな。優菜、今日の洗濯お願いな」
そうだよ、悠人君。流石の私も勝負下着じゃないけど、履いてる下着を知られるのは恥ずかしいよ。
優菜ちゃんが言うには、「容赦無く干される」らしい。前に悠人君が洗濯物を干している時に優菜ちゃんが話しかけたら、真顔で普通に返事をされた上に、その片手に優菜ちゃんの下着があったらしい。
もし、ここで平気だよと言ってしまったなら、数時間後には私の下着が真顔の悠人君に室内干しされるのかもしれない。
正直、地獄としかいえない。
私は悠人君に女性として意識されているのか疑いたくなる。
そんな事を思いながら、お風呂に入った。
悠人君がいつも生まれたままの姿で此処にいると思うと鼓動が早くなる。
その想像を頭を振って追い出し、湯船に入っているお湯を桶で汲み取り全身を濡らす。
先に髪を洗おうとすると、シャンプーが1つしかない。よく見ると、ボディソープもリンスも1つずつ。
(全員同じの使ってるんだ)
流石悠人君普通じゃない。
私は髪を洗い、体を洗い、湯船に浸かる。
あまり長風呂は好きではないので、少し温まったら出よう。
「里奈さん」
少ししてドア越しから優菜ちゃんの声が聞こえた。
「下着とパジャマ置いときますね。あっ、安心して下さい。下着は新品の物でパジャマはにーちゃの物なので」
「えっ!? ちょっと待って!」
悠人君のパジャマを着れるのは嬉しいけど良いの!?
「にーちゃのがサイズ的にちょうど良いんです。大丈夫ですよ、にーちゃも大丈夫って言ってました」
「そっか、優菜ちゃんありがとね」
「いえ、こういう機会以外でにーちゃの服を着れないと思いますし。では、ごゆっくりどうぞ」
「うん」
悠人君のパジャマかぁ……。
確か悠人君の服って真夏さんが買って来たやつをきているんだっけ。
お風呂から上がり、下着を着て、悠人君のパジャマを着る。
洗濯してあるはずなのに、悠人君の香りがするのかなと思い、少し襟を掴んですんすんと匂いを嗅いでしまう。
リビングに戻ると皆がまたス○ブラをしていた。画面を見ると悠人君が勝者となっていた。
流石、いつも私にボロ負けしているだけあって上達してる。
「おっ、里奈。丁度いい、今の俺はノリに乗ってるから今日は里奈に勝てるかもしれん」
「うーん、悠人君が私に勝つのは無理だよ」
「悠人様、今何敗しているんですか?」
「342敗」
「よく覚えているわね」
「だって明日香。普通に悔しいんだよ」
「とりあえず悠人君、やろうよ」
「OK」
「お兄さん頑張って!」
「早苗ちゃん、ありがと」
「どうせ負けるわよ」
「柳田シャラップ!」
結果は私の圧勝、現在悠人君に347勝中。
時間が11時を過ぎようとしたので、そろそろ皆は寝ることに。
私はいつも休みはオールしているから早いと思ってしまう。けれど、皆と一緒に寝れる機会はそうそうないから寝ることにする。
悠人君はまだ起きているらしいので、誰が隣に寝るかは決めなかった。
布団の中に入って皆とガールズトーク。そしてしばらくしたら1人また1人と睡魔に襲われて眠っていく。でも、私は眠れなかった。
気がつけば、いつの間にか1人で起きていた。
少し喉が渇いたので水を飲もうと、寝室を出て台所へ向かう。
「あれ? 里奈、まだ寝てなかったのか?」
すると後ろから悠人君に話しかけられた。
「うん、寝れなくて。それで喉が渇いたからお水もらおうとしてたの」
「そうか。冷蔵庫に麦茶あるけど淹れようか?」
「ありがとう、じゃあ頂くね。悠人君は何してたの?」
「手紙の返事書いてた」
悠人君は何でもないように言っているけど、私はそれをいつも凄いと思ってる。
でも、悠人君にとってそれは当たり前だから褒めても悠人君自身が否定する。みんなの告白を断ったからと。
少しは誇ってもいいと思うけど、それが悠人君の良い所。
ただ私には1つ思うことがある。
悠人君は私達をあまえさせてくれて、家に呼んでくれたり、泊まらせてくれたりしてくれた。
もしかして、悠人君は私達の事を好きなんじゃないかなと思ったりする。
1年生の時も、私達には「大切な人」と言ってくれていたし、今も他の同級達と私や他の皆への対応が違うのが接しられていて分かる。
仮にそうだとしたら、私と悠人君は相思相愛。私は直ぐにでも結ばれて、悠人君の恋人の1人として悠人君の側にいたいと思う。
悠人君は鈍感じゃない。私や皆の好意にはもう既に気づいている。気づきながらも、こうして一緒にいてくれて、あまえさせてくれる。
「はい、麦茶」
「ありがとう、悠人君」
「おう」
じゃあ、悠人君は……何を思って今の関係を維持しているんだろう。
「……悠人君はこのままでいいの?」
「え?」
「ううん、何でもない。おやすみ」
「おう、おやすみ」
直ぐに麦茶を飲んで私は寝室へと戻る。
「俺は皆を笑顔にする理由の1つになれるだけで満足なんだ」
……え?
「皆が答えを出すにはまだ早すぎる。だから、このままなんだ」
私の背後で悠人君が言った。そして、それは私1人に向けたものではない。
「悠人君?」
私は振り返ったけれど、その場から悠人君はいなくなっていた。
ふと呟いたであろうそれは私の問いに対しての答えなのだろう。
でも、それがどういう意味なのか今の私には分からなかった。




