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44 知らせ勘付かれとクレーム

 


 楽園逃走から1ヶ月が過ぎた。俺はいつものように学校に行っている。


「悠人お兄ちゃん〜、こっちだよ〜!」

「おー、そうか待て待て〜」


 今は年少組の子達と鬼ごっこに付き合っています。子供は無邪気で可愛いですね、はい。


 一応、楽園逃走のグラウザーの中身が俺の事については浅野小学校のみんなだけの秘密となっている。


 トレーニングの為に時間がどうしても欲しかった。だからといって、嘘をついてしまうのもいけないから手紙の返事に1ヶ月はトレーニングのため文通を辞めたいと返事を書いた。


 俺が楽園逃走に出演するという話は学校に瞬く間に広がった。一応変装するという趣旨も伝えたので、学校でグラウザーは禁句となった。


 とてもありがたい事だ。


 だが、楽園逃走の出演から2週間の間にまた出演して欲しいと、男性視聴者からも多く便りが来たと運営から連絡が。

 手紙を家に送ってもらい中を見ると、「もう参加しないのですか?もう一度かっこいい姿を見たいです」や、「お前から絶対逃げ切ってやる」と啖呵を切ってくるものが。


 まぁ、もう出る気はさらさらないのでどちらにもごめんと言うしかないんだけどな。


「わーい、悠人お兄ちゃんに勝った〜!」

「あぁ、負けた〜。速いねぇ〜」

「勝ったから抱きしめる〜!」

「うおおぅ、急に来ないで〜」

「ふぇぇっ、だめ?」

「くぅ、ぅぅ、……いいよ」

「やったぁ!」


 拒むことの出来ぬ、幼き少女の我儘。





「あっ、悠人君。ちょっといいかしら?」

「柳田か、どした?」

「貴方にとって大事な話があるのよ」


 帰りのHRも終わった時間に柳田が真面目な顔で俺に話しかけてきた。


「とりあえず、部室来てくれる?」

「分かった」


 新聞部まで向かい。一つのテーブルに向かい合うように座る。


「本当に悠人君にこういうの言うのはお門違いなんだけど……実は悠人君のファンクラブの会員からクレームが入ってね。あまりに多いから悠人君に話す事にしたの」


 クレーム……ついに来たか。

 Twi〇terで呟いたり、柳田に写真とか渡してファンサービス的なものをしていたが、やはり不満というのは溜まるもの。


 ふふふ、ついにみんな俺に幻滅し他の男性へ移り気する時が来たようだな。


「聞かせてくれ、そのクレームって何だ?」


 しかし、そのクレームは俺への直接的なものだろう。それがどういうものであっても受け止めるとしよう。


 まぁ、2日ほど寝込むだろうけど大丈夫だろ。




「それは……いい加減会員費制度を作って欲しいって」




 ……俺全く関係ないじゃん。




「は?」

「だから会員費を払わせろってうるさいのよ」

「いらねえって」

「それで納得出来ないから今こうして決めましょうって話なんだけど」

「絶対やだ」

「このまま放っておくと貴方の自宅に札束の入った封筒が大量に届くわよ」


 何その悪質そうで実はとても人を幸せにしそうな行為。


「私の書いた新聞が主な原因だけど、こういうのはやっぱり悠人君に決めてもらわないと」

「いくらぐらいがちょうどいい?」

「えっと、とりあえずこれ見てもらいたいんだけど」


 そう言ってテーブルの上に置いたのは、1人の男性アイドルらしきのファンブックの様なもの。


 俺はそれを手に取り、中身を覗いていく。だが、プロフィールはあまり公開されていないし、様々なシチュエーションの写真があると思いきやたった数枚の写真のみ。最後には1週間の私生活の様子を特集として組んでいるが、ほぼ自宅で引きこもるという残念なもの。


 全15ページ……同人誌かよ。


「これいくらだと思う?」

「……5000円?」

「5万」

「……5万、こんなのが?」

「それが当たり前なの」

「それで?」

「悠人君はやっぱり常識外れ」

「うん、そうだね」

「後これ見て」


 また何かを出す。今度は、さっきの男性アイドルの水着写真。しかし、作り笑いなのが見え見えで、不恰好。


「数量限定で1枚10万」


 高っけぇ!


「はっきり言えば、今から50万円を会員費として取っても誰も文句は言わないわよ?」

「俺の胃に穴が開いてもいいなら、この話続けていいぞ」


 聞いているだけで腹からジューッて音がしそうだ。


「倒られたら困るわ」

「それに報酬はもう貰ってる」

「え?」

「安全で普通な日常だ。今もこうして波乱なく過ごせる。出入り待ちをして俺を囲まないようにファンクラブで規制してそれをみんなは守っている。色々迷惑をかけないようにしてくれている。それが俺にとっての報酬だ」

「……悠人君」

「何とかして納得させて欲しい」

「分かった、何とかしてみるわ」

「ありがとう」


 これで話は終わりかな。柳田はこれから新聞作るらしいし、邪魔しないように席を外した方がいいかな。


 そう思い席を立とうとすると、


「あっ、一応悠人君がグラウザーって事......学校外のファンの人達も何となく察してるわ」

「やっぱり?」

「いや、常識的に考えて悠人君以外の男性があそこまで走れるの想像出来るわけない」

「実質最強正体不明男性グラウザーの中身がもう何十万人に知られてんの?」

「うん」


 全然正体不明じゃねぇ! 嘘だろ、あれだけ徹底したはずなのにめっちゃガバガバだったとか笑えるんだけど。


「……ファンクラブ内でもグラウザーは禁句で」

「分かってる」


 その後、今後会員費制度は無しだが、規律絶対厳守というのが決められたらしい。





「にーちゃ、早く早く!」

「悠君、時間だよ」

「おう、今行く」


 1ヶ月後というわけで、楽園逃走の放送日。楽園逃走は毎月1度に放送する。

 そして、俺が自宅にいるっていうのことは今回グラウザーは出ないという事。


 早速ゲームが始まると思いきや、


『何でグラウザーがいないんだよっ!』


 グラウザーがいない事で文句を言いだす逃走者達。その間には、やはりドーピングしていたのか、怖気付いて逃げたのかなど散々言いたい放題。


 文句を言われているスタッフさんはそれを言われるのを分かっているのか落ち着いている。


 まぁ、こんな事もあろうかと俺は運営に手紙出しといたんだけどね。


『ええ、グラウザー君は出ませんよ。だって彼は貴方方に微塵も興味を持っていませんから』


 ……ちょっと待ってスタッフさん、貴女何で煽り口調?


『拝啓諸君、私は1ヶ月前に楽園逃走に出演した。初めてのゲームをとても楽しみにしていた。しかし、蓋を開ければあれだ。私は落胆するしかない。これから先もこの程度であるなら出る気が起きると思うか? まともにやっている私が滑稽ではないか。下らん最強の称号が欲しいならくれてやる。私の事など忘れて楽しくキャッキャッウフフと戯れているといい。


 p.s. もし私にハンターをして欲しければ、少なくとも5回連続で逃走成功して見せろ。ハンターなら3回連続全員確保しろ。そうすれば逃走者として私は参加する』


 手紙で煽ってんじゃねーよ!

 しかも、俺が送ったの最後のとこだけだから、最初のは全部捏造文章。敬語で書いてたはずなのに勝手に直されてるし。


 やってくれたな運営。


 これは到底許される行為ではない。


『ふざけるな、やってやるぞ! おい、ハンター、手を抜くなよ!』

『ああ! 分かってるよ!』


 うーわ、やる気満々じゃねぇか。


 どうすんの? 嫌われ者グラウザー君になっちゃった。


「……にーちゃ」

「……悠君」


 不安な顔で俺を見てくる真夏と優菜。


「いや、俺はそこまで書いてない。というか5回連続は無理だって」

「うん、そうだよね! それにどっちも抽選だったし。出られる確率低いもんね!」

「そうよね、大丈夫……」


『という訳で今回から逃走成功者か全員確保成功したハンターのどちらかが次回も出演するということにします』



「「「えぇっ!?」」」



 ……嘘、ルール変えやがった。そりゃこうも言われたら連続で出演させるしかないよな。


 どんだけグラウザー出したいんだよ。


「まぁ、無理だろ」


 この時俺は知らなかった。

 まさかその半年後に逃走者として参加することになるとは。

 そして、また気合い入れてトレーニングに励んだ結果、呆気なく勝ってしまうことにも。




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