43 グラウザーのその後
どうも、皆さん著作権の侵害者木下悠人です。
あの後、リボンさんとリブシス本社に謝罪しに向かいました。そして、何故かリブシスの社長とお会いしました。
もちろん、フルマスクを外し素顔を晒してお話ししています。
「急な来訪にも関わらず面会をしていただいて本当に感謝を申し上げます。この度はグラウザーというキャラクターを許可なく衣装の作成、着用した上、番組に出演した事に関して謝罪を致します。この度は本当に申し訳ありませんでした」
「いや、あのえっと、木下悠人君?」
「私のした事は到底許される事ではありません。本社のグラウザーのイメージに多大な影響を与えたのですから。裁判をしていただいても構いません」
「いや、大丈夫だから! イメージ通りになってるから! あれはあれでホラーってなってたから!」
「大丈夫です! 損害賠償金1000万円なら身を粉にして働いてちゃんとお支払いしますし、懲役10年なら……何とか、……何とか耐えてみせます!」
「君、本当にさっきまでテレビに出てたグラウザー君? ちょっと傲慢で自信家だと思ってたけど、恐ろしいくらい真面目なんだけど!? ていうか何で1番刑期長いのと損害賠償金が高いのしか選択肢ないの!?」
「悠人様に任せた私が悪かったです。悠人様、少し静かにして下さい話が進みません」
「えっ!?」
何故? 俺は責任を果たそうとしているのにな。
「はーい、悠人君〜。私と〜、ゆっくりしてましょうね〜」
「玲奈さん、駄目です。自分の行いの責任を果たせない男にはなりたくないんです」
「はいはい〜、悠人君は〜、もう少しゆっくりしようね〜」
「あれ、そういえば玲奈さん何でここに?」
「ここが〜、私の職場なの〜」
何と、リブシスは玲奈さんの職場だったとは。
「というか〜、悠人君には私が前に迷惑かけたから〜、今回はお咎め無しだよ〜。それに悠人君カッコ良かったし〜、コスプレ似合ってたし〜」
「いや、しかムギュゥ」
「はいはい〜、私悠人君のその敬語苦手なの〜、お口チャック〜♪」
玲奈さんが俺の頬を両手で挟み口を閉じさせる。
いくら玲奈さんでも、俺の処罰は社長さんの意思で決まることだと思うんだよ。
「というか、君のおかげで番組終了後からゲームが馬鹿売れして、今在庫無くなってるのよ。予約はバンバン来るしで。だから今回はお咎め無し。強いて罰するなら、これからグラウザーで何かあったら……というか絶対何かあるからそれの対応してくれるかな?」
「分かりました」
「じゃあ今回のお話はお終い。玲奈、外に送って行ってあげて」
「あら〜、社長は行かないの〜?」
「行きたいのは山々だけど、これ以上一緒にいると襲っちゃいそうだから辞めとく」
ん? 何か不穏な会話が聞こえたけど、聞こえなかったふりをしよう。
結局裁判沙汰にならず、これから起きるグラウザー絡みの問題に対応する事になった。
納得のいかない反面、少し安堵した。
【リブシスと政府、運営からの刺客現る!】
今日の朝刊やテレビのニュース、ネットの検索ワードランキングでも、グラウザー、グラウザー、グラウザー。
しつこいっての。
しかも、実質男性最強とか言われてるし。
Yo○tubeやニ○ニコでも、有名実況者がグラウザーのことを批評している。ネタとしては最大級なんだろう。あれだけ暴れまわったんだから。
しかも、顔を隠しているから、様々な説が出回ってる。
単純に吐いたくらい鍛えただけなのに。
当事者だからこそ楽しめる。こういう勘違いしている考察を見ているのは。特にどういう考えがあってその答えになったかもきめ細かく書かれているのに全く違うっていうのはね。
因みに、この一件で楽園逃走に応募する男性が増えたとか。
何でもグラウザーから逃げ切れれば、自身が男性最強となれるからだとか。
また、見つかれば確実に捕まるというのがスリリングでとても面白そうだと男性視聴者の好奇心を揺さぶったらしい。
運営からもまた出演して欲しいとも頼まれた。
だが、俺はもう楽園逃走に自分から出る気は無い。
俺強えぇ出来た。出演報酬でお金も貰えたし、今もネットや周りからグラウザーとしての俺はチヤホヤされている。
別に悪い気分じゃない。
でも、優菜と過ごす時間が減った。
確かに優菜の為に出演した。鍛えるために時間を掛けたし、懸命にマリアとエリナのトレーニングをこなした。だが、トレーニングが終わり、家に帰ればいつも俺の迎えをしてくれる優菜がいた。
疲れた俺を見て、今すぐにでもあまえたいのに我慢し、頑張ってと励ましてくれる優菜が。
だから、もう出演しない。金や名誉なんぞ、家族や大事な人達と過ごす時間に比べたらどうでもいいからな。
しかし、グラウザーとして出演したから、そのせいで起こる問題の対応をしなくちゃいけない。俺のせいで起きてしまう事だから、ちゃんと対応せねば。
因みに優菜が俺のトレーニングを見に来なかったのは、自分もエリナのトレーニングに巻き込まれるからだそうだ。
なるほど、納得のいく理由だな。
一応言っておくが、マリアとエリナのトレーニングがハード過ぎるのが悪いわけじゃなく、俺が自分から徹底的に追い詰めて欲しいと頼んだせいだから。
【さて今日のニュースは皆さんご存知先日放送の楽園逃走でゲームソフト制作会社『リブシス』の新作サバイバルホラーゲームのメインキャラ、グラウザーのコスプレをして出演した彼についてですよ。まず彼は______】
兄が私の我儘で楽園逃走に出演してしまいました。
私もカッコいい兄の姿が見れてとても満足した。でも、兄を褒めても返って来ない。にーちゃのいつもの返事がない事に寂しさを覚える。
兄はいつも私の隣にいました。私が褒めると「そうだろう、だって俺は〇〇だからな」と返ってくる。私は、そんな会話が好きでいつも兄を凄いと褒めます。
だけど今回は違う。いくら兄を褒めても、凄いと言っても返事が返ってきません。だって、兄は画面の中、何処かで必死に走り回っているんですから。
ここ1ヶ月まともにあまえることが出来ませんでした。休日や学校が終わって、エリナさんの所でクタクタでまともにしゃべれなくなるまでトレーニング。
そんな兄を見て、あまえたいとは思えませんでした。そうさせるようにしたのは私でしたから。
私に良いところを見せようと頑張っているのに、私はそれを寂しく思ってしまった。遠くへ行ってしまうような感じがしてならなかった。
楽園逃走の1ゲーム目は詰まらなそうにしてた。
でも、2ゲーム目はとても楽しそうにしてて、マスク越しに笑みをこぼしているように見えた。
それで兄がまた出演したいなんて言ったらどうしよう。
毎回テレビに出るようになれば他の番組からも引っ張りだこになるはず。
テレビ越しから兄を見るのが当たり前になるなんて嫌。
そんな暗い考えをしている内に、兄は帰って来た。聞けば、著作権を侵害していたかもしれないから、ゲーム会社に謝罪しに行ったとか。
でも、その話以外は頭に入ってこない。さっきの考えがずっと頭の中をグルグル回っている。
「優菜、……俺はもう出る気は無いから」
「えっ?」
「ゲームは案外楽しめたけど、俺は優菜と過ごしてる方が楽しい。ごめんな、ここ1ヶ月構ってやれなくて」
にーちゃ……ありがとっ!
やっぱりにーちゃは私を大事にしてくれてる!
だから、もっとずっと隣で我儘言ってあまえるんだからっ!
「ううん、元々私の我儘だし。でも寂しかった!」
「まぁ、何だ。トレーニングは程々にするよ、やり過ぎは良くないな」
「マリアさんから聞いたけど、1トレに1吐きは当たり前ってどんなことしたの?」
「ん? まず最初に体力無くなるまで走って、重りつけてからラダーとか色々。出演2日前には最後の締めとしてエリナとマリアと一緒にフルマラソンしたな」
にーちゃは何気なく言っているが、私にとってそれは地獄の所業も同然。
「にーちゃ私ちょっとあの2人にキレてくる」
「はいはい、俺がお願いしたんだから駄目だぞ〜」
「やっぱり私が寂しい思いをしたのは全部エリナさんのハードトレーニングのせい!」
「まぁまぁ、それなら優菜も今度やろう」
「あんなの人のする事じゃない! 」
「だから来なかったのか」
「にーちゃ!」
「何だ?」
「凄いカッコよかったよ!」
「そうだろう、だって俺は優菜のにーちゃだからな」
「うん!」
「……あっ、でもグラウザー絡みで何かあったらその対応しなくちゃいけないから、もしかしたらまたゲームに出るかも」
「ええ〜!」
「大丈夫だ、今回ほどのトレーニングはしないって。帰って来て優菜をあまえさせるほどの体力は残しとく」
「ほんとっ!?」
「ああ」
「にーちゃ、大好き!」
そして、私はにーちゃを力一杯抱きしめた。




