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閑話 人が増えた女子会

 


「真夏、私度々思うんですけど女子会のメンバー増えましたね」


「エリナ、殆ど増えたんじゃなくて勝手に入ってきたんでしょ?」


「でも明らかにどうしようもないと思います」


「分かってる、これが悠君の耳に入ったなら絶対に卒倒する。柳田ちゃんはどう思う?」


「絶対しますね。あっ、これ砂の城作ってる悠人君の写真です」


 よく行われる女子会。最初は大人2名、子供4名という決して少なくないけれど多くもない。


 しかし、現在は、



「んもぉ〜、優奈ちゃんったら本当に胸が好きなのねぇ〜」


「玲奈さんの胸がママよりも大きくて柔らかいなんて! 早苗ちゃんも触ってみなよ。でもこれはにーちゃが危ない!」


「ふぇ……これが大人の魅力」


「悠人君って巨乳が好きなの?」


「そういえば木下君、お母さんに抱きしめられた時案外悪くない顔してたわね」


「そうなの? ありがとう明日香、今度また抱きしめてくるね!」


「やめて、お母さん」





「では、お嬢様、夜々様どうぞ」


「ありがとうございます、リボン」


「ん、ありがとうございます」


「栞様、花香様も」


「ええ、頂くわ」


「ありがとうございます」




 大人6名、子供7名、計13名。1年生の時の倍以上である。


 ここの女子会に山崎家が加わったのは、山崎夜々の存在が大きい。


 前々から女子会に夜々を入れようとしていた事は優菜から言われていた。夜々も優菜の誘いに乗り、それに同意し入ることになった。


「でもどうして、栞や花香さんもいるのでしょうか?」


 誰もこの2人が加わることになるとは思っていなかった。


「あらいいではありませんか。面白いお話が聞けてとても良いですし、何より私も彼が欲しくなったのです」


「あの背中を堪能した以上私は普通の背中ではもう満足出来ませんから」


 ちなみに、花香が彼に手錠をかけて襲いかけたという事は隠している。


 答えは単純、バレたら絶対殺されるから。


「世界一、世界二位の貴族が狙う男の人が同じって、悠人君は何かに取り憑かれてるんじゃないかな? まぁ、私は腕枕してもらったし」


「確かにそうね。まぁ、私が倒れそうなところを木下君に身を呈して助けてもらったし」


「これで花香さんとも仲良くできるといいです。まぁ、私は正面から抱きしめられましたけど」


「場違いな感じがしますが、よろしくお願いします! でも私はお兄さんに膝枕してもらいました」


「下手にアプローチされるよりは、こちら側にいてもらった方がいいですね。まぁ、私は頰にキスしてもらいましたが」


「皆さん、仲良くしましょう。まぁ、私はよく悠人様と買い物でお話などしていますが」


「おかあさま、できるならゆーとさまをだいいちにかんがえてほしい。わたしはひざのうえにのった」


「はぁ……悠君の事をちゃんと考えて下さい。まぁ、私は一緒にお風呂に入ったけど」


「……私全部してもらったことがある」



 小学一年生に妬みを込めた視線が集中した。





「そういえば、悠君は一夫多妻に凄く不満そうだったけど、何が不満なのか分からないの」


 真夏は思い出す。テレビでニュースを見ている時、一夫多妻という言葉を聞いた時に眉をひそめた後何かを諦めたような目で見ていた事を。


「一夫多妻なら、みんな一緒にいられますのに」


「女性間での争いを懸念してるとかないかしら?」


「にーちゃならいつも気にしてるよ」


「お嫁さん全員を幸せに出来るか不安とか?」


「悠人ならありえますね」


「えっ? それってどっちかっていうと私達がしなくちゃいけないことじゃない〜?」


「玲奈、悠人君は常識から外れていることを忘れないで」


「まぁ……お兄さんですからね。変に気にしすぎな所もありますから」


「家事してくれてるだけでもいいのに......」


 全員が溜息を吐く。





「後、一部で悠人君が同性愛者なんて噂もありましたね」


 その柳田の一言により、その場全員が驚きを見せる。特にショックを受けていたのは母親の真夏と妹の優菜。


 柳田はそれらの様子を見た後、


「言いたいことは分かります。でも、女性に優し過ぎること、女性の気持ちをよく分かっていること、保健体育のテストが毎回満点、貴族の方や誰ともお付き合いしていないこと、よく女装していること、などの理由で悠人君は同性愛者、若しくは性同一性障害を持っているのではないかと噂になっていました」


 柳田も淡々と言っているが、初めて聞いた時は確かにと納得してしまう程であった。


 想い人が同性愛者なんて信じたくもないが、確かに案外納得出来る理由である。身の安全と言いながら実は女装するための口実だったとしたら? そして、スカート一つないタンスの中身がその答えである。


 この場の誰もが想像する。実は俺男の人が好きだから付き合えないと言われる事を。




 それを想像して全員の顔は真っ青になる。





「まぁ、でも悠人君は恋愛対象は女性ですが」




 が、この一言でそれは止まる。



「里奈ちゃん、マリアちゃん、明日香ちゃん、覚えているでしょ? 悠人君、貴方達の上半身裸だけで鼻血出したじゃない」



 ……あっ。



 3人は思い出す。顔を真っ赤にさせ俯きながら、鼻を抑えていた彼の姿を。

 つまり女性、自分達の体に欲情を抱いたことに他ならないではないか。



「あの一件を載せたら、その噂がめっきり減ったわ」



 それを聞いてホッとする全員。真夏や優菜も、お風呂に一緒に入る時、よく自分の肌を見ないように動いていたなぁと思い出す。



「まぁ、悠人君が男友達欲しい事には仕方ないと思うけど」



 何とも不安が残る一言をこぼす柳田であった。





 その頃、その話題の男は、


「今日は珍しくみんな予定入ってるなんてな〜。ガールズトークとかしてるんだろうか」


 どんどん自分の外堀を埋められている事を知らずに、手紙の返信を書いていた。


「あっ、誤字った」





「悠人君って〜、あまり自分を大切にしていなさそうだよね〜」


 玲奈の一言。


「私には一生ものだから大切にしろって言ったのに、にーちゃが1番大切にしてない」


「というか、木下君って自分の時間取れてるんですか?」


 手紙の返事を書くのにも、それは何十通。一言で終わる返事なんて彼が書くわけもなく、毎回長文で書く。そして、最後の「また返事を待ってます」という一言により、また手紙を渡していいものかと悩む乙女達の不安を消し去るため、手紙は減るどころか増える一方。


「それは知らない。でも、睡眠時間多少削ってるって言ってた」


「真夏、もう辞めさせた方がいいんじゃない?」


「無理よ、美雨。話しかけられない子のための文通だから、辞めたら不平等になるって聞かないの」


「皆平等ですか。素晴らしい心がけですが力の入れどころが間違っている気がしますね」


 栞は溜息を吐く。


「まぁ、触れ合い会のお礼のお手紙に返事を書くくらいですからね」


「すごい剣幕だった。この手紙に返事を書かないと絶対バチが当たるって言って、ネットで便箋を大量に購入して、返事を書いてた」


「一応、聖アテネではまさか返事が返ってくるなんて微塵も思ってなかったらしく、涙ながらに黙読していましたよ」


 花香は遠い目で言う。自分は風邪で参加出来ず、会うことすらできなかったので、周りは歓喜に満ちているのに自分だけ取り残されていたことを。


 まぁ、あのコンクールの一件で帳消しだが。


「悠人君、あと3年大丈夫なのかなぁ」


 また、全員溜息を吐く。




「悠君ネガティヴだから発言に気をつけて欲しいの」


 これだけは言っておかなければならないと真夏は思っていた。


 触れ合い会、あの帰りの際に自分に聞いたあの質問。その一件で彼は、自分を過小評価する傾向があり、卑屈になりやすいというのが分かった。


 いつも明るく誠実で笑顔な彼。


 そんな彼の初めて見せた別の一面は、自分に自信が持てない迷える子羊。それも今にも倒れそうな状態だった。


 あの時、選択を間違えていたらなんて想像もしたくもない。


「これは本当のお願い、悠君は優しすぎるから。だから、……支えてあげて欲しいの」


 1人の女性ではなく、木下悠人の母親としての願い。



 そんな懇願に全員は静かに頷く。



 この女子会メンバーは、自分達が幸せになる為だけでなく、彼が幸せになることも願っているのだから。



 そして、今日も女子会は続いていく。




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