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33 臨海学校

 


「悠君。浮き輪忘れてない?」


「大丈夫だよ」


 臨海学校当日の朝、家を出る前に、真夏に忘れ物を入念にチェックされてる。


 この臨海学校は、泊まりがけではない。

 だからこそ真夏は、臨海学校に行く事を許可してくれたんだろう。


「サンオイルは?」

「大丈夫だ」

「エチケット袋は?」

「大丈夫だ」

「日傘は?」

「大丈夫だ、帽子がある」


 そろそろ終わらないだろうか。


「あっ、それと水着は忘れていって」


 忘れ物チェックだよね?


「自分が海で見れないからって、それはどうかと思う」


「え〜」


 里奈から受け取った水着を試しに着て、似合うかどうか聞くために、真夏と優菜に見せたのに。


「じゃあ、今度はみんなで行こうね」


「もち」


 それは楽しみだ。


「でも、大丈夫? 襲われないよね?」


「大丈夫」


 それは少し不安だ。


「にーちゃ! 帰って来たら結婚しようね!」


 おっと優菜、フラグを立てるのは嫌がらせかなぁ?






 学校に着き、バスが待っているグラウンドに足を運ぶ。

 そこで里奈達を見つけ、声をかける。


「おはよ〜、今日はいい天気……みんな隈やべぇぞ」


 驚いてギョッとした様子の俺に3人は、


「楽しみで眠れなかったんです」

「楽しみで寝付けなかったの」

「楽しみで眠れなくて」


 ごめんよぉ、明日の為に早寝して気持ち良く起きてしまって。


「そっ…そうか」


 掛ける言葉が見つからない。


「悠人様、周りを見て下さい。他の皆さんにも目の下に隈が…」


 マリアにそう言われ、周りを見ると、ふらふらとしている子、「うぼぁ〜」や「うぅぅ〜」と声を出している子など。


 行く前にもう帰りの雰囲気になっている。


「うあぁぁ、みんなぁ、バスに乗ってぇぇ」


 ミキTの声で全員がバスへと入って行く。


 こりゃ、海水浴どころじゃない。


 でも俺はバスに乗り、自分の席へ。言わずもがな窓際の席だ。


 その隣に明日香が座る。


「木下君、私…寝る」


「そうか、いい夢を」


「ありがとう」


 そう言い明日香は静かに瞼を閉じる。


 クラス全員が乗ったバスは出発する。


 俺は窓を見ながら、景色を楽しむことにする。


 バスの中は、とても静かだった。普通なら話し声の一つや二つ聞こえて当然なはず。

 だが聞こえないということは、全員が寝ているのだろう。


 ふと寝ている明日香を見る。


 バスの揺れで右へ左へと傾く体。

 危なっかしくて、放っておくことは出来ないので、足元部分に付いているレバーを引き席を後ろに傾ける。


(これで安心だな)


 そうして、俺は窓の外へと視線を動かした。


(むぅ…肩貸してくれると思ったのに……残念)






「着いた〜!」



 ‘’わぁ〜!!’’



 バスを出ると、視界は大勢の人で賑わう砂浜、太陽の光を反射して美しく輝く海で埋め尽くされた。


 その光景を見て少女達は感激の声を上げる。


 俺は1人こう…クールな感じに「ふむ、中々のものだな」と思いながら見てます。


「じゃあ、みんな早速着替えて集合だよ〜」




 ギョロッ!!




 ミキTの余計な発言で、海の景色を向いている視線が俺の方へ。


 誠に遺憾である。


「大丈夫、ちゃーんと水着を持ってきてるから〜!!」




 ‘’ほっ…’’




 そうか、そんなにも俺の水着が見たいのか。


 俺は男子更衣室に向かい、すぐさま水着に着替える。

 サンオイルも塗っておこう。


 そして上着を着て行くことにする。一応、一般の客がいるわけだからな。


 更衣室を出るが、周りを確認。そして何かあれば直ぐに更衣室に戻れる様に出入口で待機。


 カツラを被り、その上に帽子を。おまけにサングラスを付ければあら不思議、不審者(女性)の完成である。

 念のために顔を伏せて、更に不審者度を上げる。

 これで誰も近づいて来ないだろう。


 しばらく待っていると、



「君、男子更衣室の前にずっといるけど、少しお話し聞かせてもらえる?」



 先生や知り合いではなく、パトロールの人が…。


「黙ってちゃ困るよ。ここで一体何をしているの?」

「知り合いを待っているんです」

「男子更衣室の前で?」

「はい」

「そう、君職業は?」

「学生です。えっと、小学3年生です」

「小学3年生…いくら待ち合わせでも、男子更衣室前は駄目だよ? 男の人が出てきたらストーカーと間違われちゃうから、別の場所で…」



「悠人君〜!」


 里奈の声が聞こえる。その方へ顔を向けると里奈の姿が見えた。そして後ろに明日香とマリアもいた。


「すみません、来たので行きますね!」


「あっ」


 すぐさまその人から逃げ出し、里奈達に向かって行く。


「あの人に何かされませんでしたか?」


「いや、単に見た目が不審者だったから職質とストーカー扱いされるから注意を受けてただけ」


「そうですか」


「ははは、逃げ出そうにも逃がしてくれないのが職質、男とバレると女に囲まれる」


「悠人君やめよ?」


「もう2桁は質問された!」


「悠人様の気持ちは分かりましたからやめましょう」


 ああ…悲しきかな。

 ポリスウーマンめ、許すまじ!

 でもいつもお勤めご苦労様です。


「それよりも悠人君。水着…その、凄い似合ってるよ!」


「悠人様にピッタリです!」


「……」


「おっ…おう、ありがとう。……おーい、明日香?」


 なんか照れるな。


 でもさっきから1人で固まっている明日香。目の前で手を振っても反応がない。


「悠人君、明日香ちゃんが気絶してる!」


「本当です! 絶対悠人様の水着が威力あり過ぎたんです」


「えっ…」


「本当だよ! 悠人君の水着は…その、マジ、本当に、その……やばいから、その、注意しないと!」


 鼻から血を出した状態で言われるので、すごい説得力がある。


「鼻血出てる。ティッシュ使って」


 俺がバックからティッシュを取り出し、渡そうとすると、マリアはそれを手で制する。


「待って下さい悠人様。それ以上近くに来ないで下さい。更に血が出ちゃいます」


 どうやらこの2人にも刺激が強過ぎるらしい。

 今も鼻血は止まらず、2人は足元辺りを血で滲ませている。


「そうか、…ごめんな」


 やはり俺は臨海学校に参加しなければ良かったと思うんだ。


「ところで悠人君。何でそっぽ向いてるの?」


「えっ? 何もないさ。気にしないで」


「でも悠人様。私の水着見て欲しいです」


「私も!」


「わっ、私のも、木下…君、見て」


 今近づいて来ないでと言ったくせに、グイグイ近づいてくる3人。しかもタイミング悪く明日香起きたし。


「えっ…来ないでくれない?」


「えっ!? どうして?」


「どうしてってその、そりゃあ」


 3人ともブラ付けてないからって言えるわけないだろう!


「悠人様大丈夫ですか!? 鼻血出てます!!」


「うぇ!? そりゃあ、その…」


 なんか顔も熱くなってきた。


「木下君、もしかして…裸、見慣れてないの?」


「……」


 図星を突かれて、何も言い返せない。

 その後俺がした事といえば、首を縦に振るくらい。



「「「…っ!」」」



 驚愕した彼女らを横目に俺は、



「ブラジャー付けてくれると嬉しいです、はい」



 と願いを伝えた。





「悠人君、大丈夫?」


「鼻血は止まった。そっちは?」


「ふふふ、悠人君の水着見たいから慣れました!」


 里奈を見てやると、その胸にはブラが。


 ありがとう、本当にありがとう。


 現在、俺の周りには、上半身裸の女の子が周りに溢れており、この状況を話したら「それなんてエロゲ? その後めちゃくちゃスケベしたんでしょう?」と言われることは間違いないだろう。


 さっきまで同級生の女の子と先生にツーショットを頼まれていた。


 そして横を見ると、


「悠人君のおっぱぱい、見えてないけども、凄い破壊力」

「はぁはぁ、悠ぱい、やばい」

「悠人君しゅき」


 などと呟きながらパラソルの下寝ている同級生と先生がいる。その数、今日臨海学校に来た人数の半分以上である。


「泳ご」


 だが、海に来たのだ。

 倒れている彼女達には悪いが、楽しまねば来た意味がない。


 しかし、泳ぐのは実に前世含め10年前。

念のために浮き輪を膨らませて持っていくことにする。


「悠人君、泳ぐ練習するの?」


「それでしたら私もお手伝いします!」


「私も手伝うわ!」


「ありがとう。でも、とりあえず泳いでみる」


 彼女らに見守られながら1人海へ入る。


 しかし、浮き輪で浮かぶ筈なのに、下半身が下へと沈む感じがする。


 俺は本能で感じた。




 この体は金槌だと。




「ヘルプ!ヘル…」




 そして俺は海に沈んだ。








「何故あんなに沈んだんだ?」


 彼女らの素早い行動によって、砂浜に引き上げられた。


「下から引っ張られたように沈んだよね」


 確かに、下半身がまるで重りが付いているように沈んだ。


 ん? 重り?



「あっ…!」



 そういえば一つあった。




「何か重りつけてたんですか?」




「貞操帯」




「「「……えっ?」」」




「めっちゃ頑丈で鉄製…確か総重量は……5kg」




 彼女達は思った。




 そりゃあ、沈む筈だ。




 その後、4人で仲良く砂浜で城を作りました。










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