閑話 妹とその友人の話
運動会も終わり休日のある日、私と早苗ちゃんは服を買いに出かけていた。
「にーちゃはこういうのが喜ぶかな?」
「優菜ちゃん、それはまだ早いと思うよ?」
「そうかなぁ?」
服を買いに来たと言ったが、めぼしい物が無かった為、新しい下着を買っていこうとなった。
そして、一向に黒の下着を離さない私を呆れた眼差しで見てくる早苗ちゃん。
「じゃあ、早苗ちゃんはどれがいいの?」
「うーん、これかなー」
持って来たのは、全体白色で真ん中に可愛いクマのイラストの下着。
「いや、これじゃにーちゃをメロメロにできないよ?」
「年がら年中お兄さんに下着洗われてるのにそういうこと言う?」
「うっ」
早苗ちゃんの言っていることはごもっともで、家事全般は今はにーちゃがやっている。私もにーちゃの手伝うので一通り家事は出来るようになった。
でも、にーちゃにとって家事を苦労してやっていると感じる様子が微塵もない。今のにーちゃには家事が趣味のようになっている。時間があれば掃除を始め、休日には気になった料理を作り私と一緒に食べる。
異性として下着を何のためらいもなく洗い干している様子を見ていると自分に魅力が無いのかもしれないと度々思ってしまう。実際ママもその様子を見てため息を吐いていた。
もう少し反応して欲しいのに、それを言ったら私がにーちゃに変態さんと勘違いされちゃうから言わない。
そういえば、小学校入学式後に、
「優菜、洗濯物分けて洗って欲しくなったらちゃんと、…言えよ」
何故か震え声でにーちゃは言ってたけど、どうしたんだろう。一応、まだいいよって言ったけど、
「そうか、まだ…か。心の準備をしておくよ」
本当どうしたんだろう?
あっ、話がずれちゃった。今は下着だよね。
「そうだね〜。とりあえずこの2つ買っていこう」
「あっ、買うんだ」
「うん」
一応…ね。
「そういえば、私お兄さんがスカート履いているの見たことないんだけど、優菜ちゃんはある?」
「そもそもにーちゃスカート持ってないよ?」
「え?」
「ウエディングドレスが初めてのスカートだと思う」
「斬新な新体験だね」
にーちゃはスカートの類を持っていない。女装しているのにスカートなんて男ってばれちゃうからね。
あと確か、「俺はセンス無いし、服選びとか分からないからな。優菜も服を買いに行く時、俺に似合うのあったら買ってきてくれないか?」って言ってたし。
だから、服はいつもママが買って来たの着てるし、スカートなんて今のところ着る機会の無い物は買って来ないようにしてた。
「確かお兄さんって、デパートにも買い物しに来てたんじゃないっけ?」
「にーちゃの買い物は食品系だけだからね。服屋とか寄り道しないんだ」
「宅配で食品頼まないあたり、やっぱりお兄さんって1人で外に出たい願望強いんだね」
「うん」
にーちゃ1人での外出を許可されているのは学校に行く時と買い物だけ。それ以外は全部ママや知り合いがいるのだ。
「常に女の人に囲まれてるからね。1人でのんびりしたい時とかあるよ」
「お兄さんも男の人の友達とか欲しいんだろうね」
「そうだね、でもにーちゃと波長が合うかどうか...」
「大丈夫かな…」
そして妹とその友人に心配されている男は今、
「……」
布団の中で静かな寝息を立てて呑気に寝ているのであった。
その後、買った下着を洗濯している時、彼は、
(サイズ的に…優菜のか? でも、黒はまだ早いんじゃ…しかしそれを俺の口から言うには…)
と思いながら、
(そうそう、優菜はまだこういう下着がちょうど良くて可愛いと思う)
クマのイラストがある下着を見ていた。
結果的に早苗の選んだ下着が好印象であったことは木下悠人本人しか知らない。
私、高橋早苗は恋する小学1年生。
毎日寝る前や暇な時にお兄さんの新聞を読んで、お兄さんが何をしたのか目を通す。
「あっ、またお兄さん机の角に太ももぶつけてる」
誠実で優しく、頭も良く運動神経もいい、しかし真面目過ぎて嘘を言うのが苦手。でもそんなお兄さんが私にとって大切な人。
私は友達の優菜ちゃん経由でお兄さんと知り合った。優菜ちゃんとは保育園からの付き合いで、それからずっと一緒に遊んだりしてた。しかし、優菜ちゃんは入学式に実際会うまで兄がいる事を隠していた。
その事についてはもう既に水に流したけど、初めて会った時はあまりのカッコよさに動揺を隠せず、緊張しドキドキしすぎて少し暴走してしまった。
でもお兄さんはそんな挙動不審な私を見ても優しく接してくれました。
そんなお兄さんと出会ってから、私の思っていた男性像がそれはそれは木っ端微塵にされましたよ。
いやだって、ちょくちょく遊びに行くとエプロン姿で出迎えられたんですよ? しかも、理由聞いたら「換気扇の掃除してた」って主婦でもそうそうしませんよ!
あっ、でもホットケーキ美味しかったです。お兄さんは私がホットケーキ好きなのを知っていてくれて、私が遊びに行くといつも作ってくれます。本当にお兄さんは優しい人です。
後優しいといえば新聞でもそうです。いつも見てると常識外れ、自称普通の男の子(爆笑)、ネジ外れの天使とお兄さんを言いたい放題言ってるんです。
お兄さんが度々新聞を見ては、新聞を作っている柳田さんを怒りながら追いかける姿がよく見られています。
普通なら怒られるのではなく、確か名誉毀損?で訴えられてもおかしくないって上級生も言ってました。
まぁ、お兄さんですからね! これくらい広い心を持って許せるんですよ!
最初は話せればいいと思ってました。でも、それが今じゃ結婚して一緒にいたい、何番目でもいいからと思ってお兄さんを求めるようになりました。
我儘を言ってあまえて、そして困らせて、でも私の為にと動いてくれるお兄さん。
それが、たまらない程に嬉しい。
ああ……私ってずるい。お兄さんの優しさを利用してる。
迷惑をかけ、いつも私が謝る。そんな自分が嫌になる。
でもお兄さんは、
「問題ないよ。早苗ちゃん、君はいっぱいあまえていいんだよ。年上が年下をあまえさせるのは当然だから」
と笑いながら私を許し、頭を優しく撫でてくれました。それが自己嫌悪に陥った私をいつも救ってくれた。
お兄さん、将来絶対私がお兄さんをあまえさせてあげますから…。
「お兄さん!」
でも今は、
「今日も遊びに来ました!」
「おっ、いらっしゃい。寝起きで洗面所で顔洗ってくるから優菜とゆっくりしてて」
「はい!」
いっぱい、あまえさせてくださいね♪




