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閑話 妹と母の話

 

 ーー優菜サイドーー


 私は木下優菜です。突然ですが私には兄がいます。優しくかっこいい兄が。私はそんな兄が大好きです。今すぐにでも結婚したいです。ええ、身内との結婚は国で認められているので大丈夫です。


 私の兄はいつも本を読んでいます。というと私が幼稚園から家に帰るとリビングで本を読んでいます。私が声をかけると本を閉じて「おかえり」と言ってくれます。


 ですが兄はあまり笑いません。軽く微笑む程度なんです。声出して笑ったり、あまえて我儘を言ったりせずいつも落ち着いているんです。まるで大人を見ている感じがします。


 だから遊園地のエレクトリカルパレードを見に行く時の兄の表情にはとても驚きました。いつも落ち着いている兄があんなにはしゃいでいたんですから。でもそんな兄も可愛くてとても好きです。


 私は幼稚園に通っています。最初は私には兄がいると先生や友達に言いましたが「無理して言わなくてもいい」などと言われて信じてくれませんでした。


 一般男性は出生があまりにも少ないため、大切に大切に育てられるらしいです。そのせいで傲慢で我儘な性格が多く女性を嫌っているというのです。


 でも私は兄と話すどころか遊んでいます。頭を撫でてくれます。一緒にお風呂に入ってくれます。一緒に寝てくれます。


 いつものことを思い出すたび自分がどれだけ恵まれているか分かりました。女性にとっての本当の幸せがもうすでに日常となっていることに。


 でも不安があります。それは兄がもうすぐ6歳になるのです。兄は小学校に行きたいと前から言っておりママも私も反対しました。


 女性は肉食系というより雑食系です。とりあえず行動しアプローチしなきゃ話になりません。私の友達も男性を落とすために努力しているんです。それは過激な競争になります。兄をそんな競争の渦に巻き込まれて欲しくないです。


 でも兄は、


「平気平気何も起きないって」


 ……無用心にも程があります。


 その後話し合いした後ママと私は折れて、兄が学校に行くことが決まりました。ママはとりあえず様子見しようという感じです。私はいつも通りあまえるだけです。何もすることができないんですから。


 でもあまえ過ぎて嫌われるかもと思いましたが、それでも兄は私に構ってくれます。やっぱり兄は優しいです。でもその優しさをママや私以外に向けられるのは少し妬いてしまいます。


 だから今日も今日とて兄のTシャツをパジャマに着ています。お日様の匂いと男性の匂いが混じってとてもいい匂いがします。


「また着てるのか?」


 すると兄に声をかけられます。私はいつも通り、


「えへへ〜♪♪ 着ちゃった!」


 と笑顔で言います。そして兄もいつも通りに、


「全く仕方のない奴め」


 と言って微笑みながら私を優しく撫でます。その行動だけでも私は兄に大事にされていると分かります。とても嬉しいです。でもまだ足りません。もっと大事にされたい、一緒にいたい。だからまだまだあまえます。


「にーちゃ!!」

「どうした?」

「抱っこ!」

「任せろ」


 私の言う抱っことは普通とは少し違います。普通は服の上からそのまま抱っこするのですが、私は服の中に入り襟元から顔を出して抱っこしてもらっています。そのせいで兄の買う服のサイズが大きくなったのは仕方のないことです。


 兄も最初は、


「なんか変じゃないか?」


 と言っていましたが、私が、


「これがいい!」


 と言うと兄はそれを受け入れてくれます。私は抱きしめながら兄の肌を直に触り、胸に耳を当てます。そうすると一定のリズムを刻む心臓の音がトクン、トクンと聞こえます。その心地よい音と温かさは私が1番の好きなことです。


 これは私だけの特権。私だけにしかしてくれない。それだけで私は幸せです。


 大人になればしてもらえなくなるかもしれない。だから今はこの幸せを大事にしたい。


「にーちゃ大好き!!」


「知ってるよ、何回も聞いた」


 でも兄は家族としてじゃない、男性として好きというのはまだ気づいてないと思います。


 今は私は子どもだから、大人になったら私をお嫁さんにしてね。



 にーちゃ……大好き。




 ーー真夏サイドーー


 ー男に愛を求めることは無駄でしかないー


 私はそう思って生きてきた。


 この世の中じゃ男に出会うなんて諦めても仕方ないほどに出生率が低い。1:50じゃ諦めるのも当たり前なはずだ。でも私の周りの友達は男を求めて努力を怠らなかった。男と出会い結婚したいという理想を掲げて。


 しかし、聞いた話は男をチラッと見かけたくらい。女にとってそれだけでも自慢になるのだ。中学、高校では男が義務教育で同じ学校に通っているのは誰もが知っていたが、入学式のみ参加でその後登校するどころか家から出てくることもないらしい。


 存在するだけでいい男。そんなもののどこに必要とするのだろうか。


 だが、私はそれを表に出さずに周りに便乗し、ありもしない期待に付き合った。私が他と違うことでハブられるのを避ける為に。


 社会人になればそんな事をしなくてもいいだろうと思っていたが、そうでもなかった。相変わらず男を求めている女性は多かった。そこでも自分の気持ちを隠し続け過ごす。


 そこで初めて自分の人生に生き甲斐がないことに気がついた。ただ無情に生きる。私の心の中は空っぽだった。


 私は独り暮らし。社会人になって数年後に母は病気で他界した。


(何で私1人で生きているんだろう)


 そして家を片付けをしていると古いビデオテープを見つけた。それが懐かしくもあり、気まぐれに見てみようと思い再生させた。


 すると、


『真夏〜!! 何処にいるの〜!!』

『ママ!! こっちだよー!!!!』


 幼い頃の私と母がひまわり畑ではしゃいでいる映像だった。母に抱きしめられ笑っている私。


 ……子供の頃は楽しかった。ただ母と一緒に過ごすだけで楽しかった。おはよう、おかえり、唯それだけを言い合えるのが嬉しくて幸せだった。


『真夏……いつか孫を私に会わせてね?』

『うん!!』


 ……子供を作る。考えもしなかった。そういえば母さんも男との出会いは諦めて人工授精で私を産んだのだ。


(……子供を作ろう)


 私は家族が欲しくなった。おはよう、おかえりと言ってくれる家族が。言う立場ではなく、今度は言われる立場で。


 その後の私の行動は早かった。社長に産休を取らせてもらい人工授精をした。大きくなっていくお腹を見て私は今まで空っぽだった心が満たされていくのを実感した。


 そして、


「おぎゃー!! おぎゃー!!」


 生まれた。私の赤ちゃん。男の子か女の子かどっちでもよかった。ただ生まれてきてくれるだけで嬉しかった。


「お母さん!! 男の子です!! 元気な男の子ですよ!!」


 そう男の子なのね。なら名前は悠人ね。


「お母さん、息子さんを抱いてあげてください!!男の子を抱ける日が来るなんてとても嬉しいです!!」


 私は悠人を抱く。悠人は天使にしか見えなかった。


「ああ〜もう!! 可愛い!! 悠人一緒に幸せになろうね!!」


 そうすると、悠人はニコリと笑って、


「おぎゃあ!!」


 と泣き声よりも大きな声で返事をしたのだ。

 そして私は勢いで、


「私決めた!! 悠人と結婚する!」


 と言ってしまった。周りの看護師からは「まぁ仕方ないよね」という視線を向けられたがどうでもよかった。


 これから幸せな生活が始まる。そう思わずにはいられなかったのだから。


 そしてその1年後私はまた子供を作ろうと思った。理由は悠君に寂しい思いをさせたくなかったからだ。私は親で子より早く死ぬのは当たり前、将来私が死ねば悠君は1人になる。そうなればあの時の私と同じような思いをさせてしまう。それが嫌だった。だからといって悠人が思春期になってから作るのも何かと気まずいだろうから早めに。


 一応会社には社長以外には悠人の存在はばれていない。悠君の事を話したら、私が母親の看護生活をしていたという噂を社内に広めて産休の事実を隠してくれた。


 そしてまた産休を取りたいと言うと、


「前回のようには隠せないよ?いいのかい?」

「はい」

「そう……ならいいわ。がんばってね?」

「ありがとうございます」

「あっ、悠人君の写真くれない?」

「……1枚だけならいいですよ」

「きゃっほい!!」


 その後社長がその写真をホーム画面にしてたせいで、社員にバレて社員全員に配られるのは予想外だったけど。


 そして生まれたのは女の子だった。そして優菜と名付けた。悠人に少し劣るがかわいい。これからもっと幸せになるそんな気がしてならなかった。



 それから4年が経ち悠君は6歳、優菜が4歳になった。悠君はいい子に、優菜は可愛く育った。優菜は私や悠人によくあまえて抱っこを要求してくる。でも悠君はあまえてこない。おとなしく落ちついていて、あまえたり我儘を言わない。いい子なのは嬉しいけどあまえてこないのは少し寂しく思う。


 悠君には名前で呼んでもらっている。最初は何となくそう呼んで欲しかったから。でも今はそうじゃない。


 私は悠君に恋をしている。


 男に愛を求めても無駄と思っていたのに私は悠君に愛して欲しいと思っている。家族ではなく女として。


 仕事終わりに家に帰ればいつも起きて待っていてくれる。最近では家事をするようになり、私の負担を減らそうとしてくれている。自分のために行動してくれる男性を好きになるのは当たり前だと思う。本当に優しい子。


 でも悠君は小学校に行きたいと言い出した。悠君のことだから毎日通うに決まってる。だから反対した。外に出るのは危ない。なおかつ女性に囲まれた環境に自ら行くなんてどうぞ食べて下さいというもの。


 最初は反対し少し言い争いがあった。でも悠君が久しぶりに我儘を言ってくれたから無下に扱うこともできず、とりあえず様子見でという形に収まった。でも何かあればすぐに学校に行くことを辞めさせるつもりだ。


 そう思っていると、


「真夏、どう似合う?」


 青のランドセルを背負い私に見せてくる。


「似合ってるよ」

「ありがとう」


 そう言って悠君は微笑む。悠君は笑うことは少ない。そういう大人っぽいところも可愛さの一部だ。


「明日は入学式だ。楽しみで仕方ない」

「何かあればすぐに言ってね」

「どうせ何もないよ」


 あまりにも無用心。もう少し女性についての教育をしておけばよかったと後悔してる。優し過ぎるのも考えものね。


 でもそれは悠君のことだから仕方ないと思う。


「生まれてくれてありがとね」

「急にどうした?」

「いいえ何でもないよ」


 本当にありがとう。私の元に来てくれて。



 愛してるよ……悠君。



 その後悠君に、


「産んでくれてありがとう。真夏が母さんでよかった」


 とカウンターをもらい、恥ずかしくなってどうしようもなかった。




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