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28 場所取り

 


 待ちに待った運動会。今回の俺は保護者側で参加だから時間として大体10時頃に行くのだ。


 優菜はもう既に学校に行き、現在は真夏と2人でお弁当を作っている。


 俺がおにぎりを、真夏がおかずを作っている。何気に一緒にご飯を作るのは家事始めた時以来だ。


「卵焼きと、ウインナー、唐揚げに……」

「きゅうりの浅漬け」

「悠君が食べたいだけでしょ? でも無……」


 真夏が「無いよ」と言う前に俺はスッ……と既に一口サイズに切って皿に乗っているきゅうりの浅漬けを渡す。


「主夫業の嗜み、その1浅漬け作り」


 と俺はグーサインを出しながらドヤ顔で言ってやる。


 真夏はそれを見て微笑みながら浅漬けを一口。


「あっ、美味しい。お酒に合うね!」

「食い過ぎ厳禁」

「分かってる、でも浅漬け作りなんてどっちかって言うとおじさんじゃ……」

「言わないで」


 作ってる間何度も思ったから。






「あっ、悠人くーん。こっちこっち!」

「悠人様〜!こちらです〜」

「悠人、こっちです」


 他の保護者達が来る前に保護者席を取っておこうと思っていたため早く来たのだが、美雨さん、エリナ、リボンさんがもう既に場所を取っていた。


「おはようございます、美雨さん、エリナ、リボンさん」

「おはよう、まさかこんな早くに来てるなんてね」

「早めに場所取っておかないと、悠人君と座れないじゃない」

「奪われる前に取ってしまうんです」

「真夏、敗者は何も文句を言えないんですよ?」


 と美雨さん、リボンさん、エリナ。


 俺としても知り合いと一緒の方が安心で気が楽だから問題はない。是非ともご一緒させてもらいたい。


「後、そちらの方は?」


 後ろの方でのんびりとしている女性が1人。真夏はその人に近寄る。


玲奈れいな、知ってると思うけど悠君よ」

「ええ、はじめまして〜、えっ……と、里奈のお母さんの玲奈れいなで〜す。娘と仲良くしてくれてありがと〜、後結婚して〜?」


 おお、よく見ると何処と無く里奈と似ているではないか。


「ああ、里奈のお母さんでしたか、はじめまして悠人です。娘さんにはとてもお世話になっています。後お断りします」

「んもぉ、里奈も一緒なのに〜」

「とても嬉しい話ですが、生憎そういうのはまだ……」

「えっ!? 将来結婚してくれるの!!」

「社交辞令よ!」


 と真夏が玲奈さんの頭を叩く。


「うぅ……それくらいもう分かってるわよ〜」

「目が本気だった」

「真夏って美雨さんと里奈のお母「玲奈って呼んで〜」……玲奈さんと知り合いだったんだな」

「保護者会で会ったのよ」


 ああ、なるほどな。


「ねえねえ悠人君ってゲーム好きなんだよね〜。今度新作のゲーム作ってるんだけど〜、テストプレイしてみない〜。2人で〜!」

「玲奈、あのゲームの製作していたくせしてまた悠人に迷惑かけるつもりですか? それと今日初対面でグイグイ攻めないで下さい」


 凄い誘って来る玲奈さんを止めるエリナ。


 気になるのだがあのゲームってまさか、


「それって俺がモデルとなったゲームですか?」


 タイトルは【イケメン男子と恋愛学校生活とかいいんじゃない?】だっけ。確か売り上げミリオン達成していた気がする。


「そうよ、悠人君。あのゲームのシナリオ、デザインは全部この人」


 衝撃の事実。まさか里奈のお母さんが作っているとは!


「違うわよ〜、本当は自己満足の2次創作だったの〜。それが社長に見つかって〜、売りに出すことになっちゃったの〜」

「じゃあ、あの馬鹿みたいに悠太の攻略難易度高くしたのは?」

「元が悠人君をモチーフにしたから、バカスカ攻略されてなるものかと、私からの嫌がらせ〜」

「えっと、まぁ何でしょうか。ありがとうございます?」

「あっ、でもそれで稼いだお金は悠人君の口座に振り込んでおくからね〜」

「ファッ!?」


 へっ? 口座に振り込む?


「悠人君に迷惑かけたもの〜、それくらいじゃ足りないくらいだもん」

「いや、いらないです。売り上げでしょ?」

「いいえ、私のせいで悠人君に迷惑をかけてしまったから。この度は本当に申し訳ありませんでした。私に出来ることがあれば何でもいたします」


 土下座しようとする玲奈さんを俺は止める。


 何となく話しているうちにこうなるって分かってた。責任感が強いのは良いことかも知れないが、俺は大して気にしてないし、迷惑なんてかかっていない。だから、土下座をしてもらう必要はない。


「迷惑なんてかけてません。それに俺もあのゲーム楽しめたので気になさらないで下さい」

「ですが……」

「では何でもしていただけるんですよね? では早速お願いを申します。あのゲームの事については全て水に流して下さい。後お金もいりません。玲奈さんの会社の経費に使って下さい。分かりましたか?」

「……」

「分 • か • り • ま • し • た • か?」

「……はい」

「それにいつもの口調に戻って下さい。こういう堅苦しいの好きじゃないんです」

「えっと、その」

「あっ、そうですよね。この話の後ですと気まずいですよね。大丈夫です、いくらでも待ちますから」

「はっ、はひ!」

「そんなに固くならないで、大丈夫、リラックスして下さい」


 俺は微笑みながら言う。しかし、逆効果となり玲奈さんは萎縮してしまった。これは元に戻るまで時間がかかりそうだ。


 そしてこの様子を、


「悠君って凄い、あんな大人の対応出来るんだ……」

「……敬語攻めもやれるアイドル。ああ、アイドルになって欲しい。でもファンクラブの誓約が……悩ましい!!」

「悠人、敬語には慣れてないと言いながらあれ程とは……」

「奥様、あれは想定出来ないですよ」


((((でもああいう攻め方されちゃうと私もああなりそう))))


 と思いながら見ていた。




「落ち着きました?」

「うっ、うん、本当にありがとうね〜。もうあんな事しないから〜」


 しばらくの時間をかけて玲奈さんは落ち着きを取り戻し、最初会った時と同じような口調で話せるようになった。


「本当はもっと早く謝りに行きたかったのに、真夏が来るなって〜」

「悠君が気にしてないからいきなり押しかけても迷惑だからよ」


 なるほどな、大して気にしてなかった事でいきなり謝りに来られても困るしな。


「でも俺としてはファンクラブの誓約に引っかかるんじゃないかと思ってたんですが」

「うん、引っかかったよ〜。だからファンクラブの公式に頼んで最近やっと全シナリオの回覧、フルボイスで聞けるようにしてもらったの〜。でも回覧後、悠太シナリオしかいらないって言われちゃって〜」

「へ〜、そうなんですか」

 ファンクラブは趣味の範囲でやってるものだし、ゲーム1作分を回覧、聞けるようにするのにも時間が掛かったんだろう。

「それでも売り上げミリオン超えしたのは驚いたわ〜。悠太シナリオが現実の男の人との恋愛みたいで攻略しがいがあるって人気になっちゃってね〜」

「ちなみに里奈はこの事を知ってるんですか?」

「知らないわ。それで知らずに攻略してて、誰なのこんなの作ったのー!!って怒ってたわ〜」

「そうですか」


 何だかんだで、学校のいつものメンバーのお母さん方と全員知り合いになったな。


 てか、みんな俺より年上だから肩身がせまい。


「真夏、俺カメラの準備するからガールズトークしてて?」

「無理よ、悠君も参加して?」

「分かった」


 俺は諦めて、三脚立てカメラの準備を行う。そして試しに数枚撮る。


「悠人様、手慣れてますね」

「リボンさん、我が愛しき妹を綺麗に撮る為には己自身のたゆまぬ努力が必要なのですよ?」

「これがファミコンモード! 恐れ入りました」


 リボンは確かに肌に感じた。彼の決意を持った鋭い目を。その目からどれ程のこのカメラの扱い方を学び、いかに綺麗に美しく撮れるかを試していたのかを。


 そして彼のそのスイッチはカメラを持った時だと理解した。


「でも、私悠君に一度も写真撮られたことないのよね」


 ぴくっ!


「すまなかった真夏! 真夏の気持ちを知らないで、これからはいっぱい撮ってあげるからな!」


 と同時にカメラのシャッターを切る。


「なるほど、悠人君はこのモードに入ったら積極的になるのね」

「真夏、可愛く撮れたぞ! まぁ真夏は元々可愛いから俺の腕がなくとも可愛く写るけどな!」


 と言いながら三脚からカメラを外し撮った写真を真夏に見せに行く。


「もう、悠君ったら」


 ストレートに褒められて満更でもない様子。頰を赤らめて俯いている。



((((イチャつかないで))))



 彼女達は彼がこのモードに入ると積極的になり、周りを気にしなくなるというのを理解した。


「皆さんも可愛いから写真撮りますか?」

「「「「……!! もちろんよ(です)!!」」」」



 女にとって異性、男に褒められるというのは女冥利に尽きるというものだ。男女比は1:50、大切に大切にと常にあまやかされて育ち傲慢となった男は女性に恐怖し拒絶反応を起こす男だらけである。罵声を浴びせることはあれど褒めるなんてことはないのだ。


 彼女達はそんな男達にまともな出会いを期待していない。


 エリナは自分の財産目当てで狙う者ばかりで男を諦め、リボンはそもそも木下悠人が初めて知り合った男であり、美雨はアイドル活動している男達の性格が悪過ぎて苛立つことが多く、玲奈に至っては木下悠人を知るまでは2次元にのめり込んでいた。


 女性は基本的に年齢を重ねるにつれ、「可愛い」と言われる事は少なくなり代わりに「綺麗」と言われることが多くなる。つまり「綺麗」と言われることに慣れているのである。そんな中現在好意を抱いている彼に「可愛い」と言われたのだ。


 その衝撃、まさに新幹線に轢かれるのと同義。


 気恥ずかしさを感じさせながらも、喜びを感じずにはいられなかった。


 木下悠人は、身内を除いて容姿を滅多に口に出し褒めたりしない。それは、この世界で彼が出会った女性達ほぼ全員が眼を見張るような綺麗さ、可愛さがあるから。その中に生活できる彼はまさに幸せ者以外何者でもないが、所構わず女の子達を「綺麗」「可愛い」と連呼すれば修羅場は必然と起こる。故に彼は容姿について何かを言うことはしない。(何度か褒めていたことはあるが)


 ファンクラブで彼の好きなタイプは大和撫子とされているが、それは内面。外見のタイプは不詳とされているのである。また身内にあまいという理由で優菜と真夏は外見のタイプの対象外にされている。


 そして今彼女達だけが知った事実。「可愛い」と褒められた事実。それは彼にとってプラスのイメージを持たれている。つまり自分に多少なりとも好意を抱いていることに他ならない。


 これ以降彼女達は自信を持って彼にアプローチをするだろう。


 また歓喜に包まれている彼女達の表情を撮っていた彼は、


(この世界の男って本当に損してるんだな。まぁ価値観は人それぞれ……か)


 テンションの所為で失言に気づかずカメラのシャッターを切っていた。


 それを見ていた真夏は、


(悠君、将来カメラマンにでもなりたいのかな? 褒め方が完全にカメラマンっぽい)


 と思うと同時に、カメラを持った時には常に彼の側にいようと誓う。


 あれは女性にとって危険だと。



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