25 触れ合い会 後
エリナに王子様抱っこで運ばれて来た会場には、
「おにいたまだ!」
「ゆーとさままっていました!!」
「ゆーとたま!」
幼女がいた。
そしてワァッと寄ってくる幼女。可愛いの一言に尽きる。
なるほど、幼女は癒しがあるね。前世でもある友達はこういう事を言っていた。
『幼女はさ…汚れを知らない。故にその眼差しや行動は純粋な癒しであり、尊さを生むんだ。お前も幼女と仲良くなってみろ。人ってやっぱり深い生き物なんだって分かるから…』
……ダメだ。そういえばあいつはロリコンだった。今の言葉は捨てておこう。
「悠人、とりあえず私はここで見てますから行ってきてください」
「分かった」
俺は幼女達の輪の中に入っていく。
「あそんでください!」
絵本は?
「だっこしてくだちゃい!」
読書は?
「ちゅ〜!」
まぁ…いっか。この子達が嬉しそうなら。
でも、ちゅ〜はだめだよ? 自分を大事にしなさい。
「よーしっ! 僭越ながら私がみんなを楽しませるよ〜!」
「「「「わ〜〜い!!!」」」」
この時N○K番組のお兄さんの気分だったと思う。
何、YESロリータNOタッチだと? 立っていると幼女からペタペタ触ってくるからどうしようもないんだよ。
というかやってることが先程のお嬢様達となんら変わらないという。
くいくいっ
誰かが俺のドレスの後ろ側を引っ張っている。
くいくいっ
とまた引っ張ってくる。
ここは構ってあげよう。
振り向くと大事そうに本を抱えている白髪黒目の幼女。そして今にも涙が溢れんばかりの顔をし、涙声で、
「ほ…ほんを、いっしょによんで?」
……。
「ごめんね、本を読む約束だったもんね。今からでもいいかな?」
こんな幼い子を泣かせてしまうとは最低ではないか。
俺はその子を撫でながら言う。
「うん、うん」
その子は何度も頷いてくれる。
「ありがとう、さあみんな、ここからはお兄さんが本を読んであげちゃうよ」
「「「「わ〜〜い!!」」」」
俺はその場に座り込む。幼女達は俺を取り囲むように座る。その目はキラキラと輝いている。読む本は白髪の幼女が持っている本を読むことにする。そしてその子は俺の隣に座っている。
「えへへ♪」
とさっきの泣き顔は何処へやら、凄く嬉しそうな笑顔になっている。よかった。
幼女達といるこの部屋は土足禁止のカーペットの上だから座っても問題はない。だから寝ていても問題もない。寝ないけど。
さて読む本だが…『白雪王子』。うん何も言うな、白雪姫とほとんど何ら変わらないのである。
お姫様のキスで王子が目覚めるというもの。だが、その後お姫様が王子と結婚するわけでは無く。お姫様が7人の女の小人達にボコされるという、何ともバイオレンスな展開がある。そして、小人達と王子の生活に平和が戻っためでたしめでたしで終わりだ。
うん、この話は他の女に男を取られないようしろという教えが学べるんだな!
まぁ一応読むか。
「ある日一国の王子様は______」
俺は『白雪王子』を読む。
ーー優菜サイドーー
「にーちゃ〜!! 何処にいるの〜!!
愛しい兄を探して1時間強…。でも一向に見つからないから焦りが募っていきます。
もしかしたらこの場所にはおらず別の場所で監禁されてしまっているのではないかと思ってしまう。
「もう〜ここ広すぎ!!」
探すのにも一苦労というどころではない。母、マリアさん、エリナさん、私の4人で東西南北にそれぞれ別れて探しているが、私の担当している南はまだ半分も見回っていません。
『10時半となりました。悠人様移動をお願い致します』
アナウンスがあるという事は一応兄はまだここの何処かにいるという事。それに安心する。
確か次は幼稚園児と保育園児達の読書会。だけど会場が分りません。ああ…面倒くさくて兄に今日のスケジュール表預けてしまっていた。
しばらく右往左往していると、
pipipi!
携帯に通知が来ました。見たらエリナさんからで、兄を見つけたようです。
会場は北の201…。
「全く逆〜!! 嫌〜〜!」
文句を言いながら私は走ります。
合流したら撫でてもらおう。私の苦労を知らせて「大変だったな」と慰めの言葉をかけてもらいながら。そうしながら私は兄の胸の中に頭を埋もれさせるのだ。
「ふぇへへ…にーちゃ〜、大好き…ふぎゃっ!」
顔を壁にぶつけてしまいました。
これは兄に痛みが無くなるおまじないをしてもらうしかない。
「待っててにーちゃ! 今にーちゃの優菜が行くからね!!」
ーー悠人サイドーー
『昼食の時間です。一旦触れ合い会は中断となります』
おっ…昼食か。しかし、エリナの事だ、既に真夏達に俺の場所を伝えているだろう。また移動していいものか。
それに…、
「いってしまうのですか…?」
「いっちゃやー!」
「もっとよんでー!!」
ウェディングドレスのスカートを掴みながら涙目で言われているので全く動けないのである。
「もっと、いっしょ、に…いて?」
うだれんだ〜!!(心の叫び)
白髪の幼女がトドメを刺してくる。
ここはエリナに助けを乞うしかない。
「エリナ…助けてください!」
「分かりま「お兄ちゃまは渡しません!」あら?」
何人もの幼女がエリナの前に両手を広げて立ちふさがる。
「えっ……と、悠人。流石に子供相手に大人気ないので、ここは悠人が鬼になるしかないですね」
「ここでご飯を食べよう!」
即答である。
「「「「わーい!!」」」」
幼女達相手に鬼になるなんて出来ない。
「悠君!」
「悠人様!」
そしてマリアと真夏が来た。良かったってあれ?
「優菜は?」
「別々で探したから分からないけど今ここに向かってるはずよ」
「なるほど」
マリアは俺の状況を見るに、
「周りにお花畑ですね」
「おう。とりあえずここでご飯を食べることになった」
「では私達もここで昼食をとります」
「面倒かけてごめんな」
「いいんです、その代わり後でお願い聞いてください」
「うっ…断れないな」
「ふふふ♪」
そうして話していると、
「にぃ……ちゃぁ…」
優菜が来た。
髪の毛をみだれまくって顔が見えない。それに汗を大量に掻いている。しかも負のオーラを感じる。
そんな姿をこの子達に見せたら、
「ひっ! おばけ!」
「おにいちゃまこっち!」
「にげるんです!!」
やっぱり。怖がられてる。
そして俺の手を引っ張り逃げようとする幼女達。俺は必死なこの子達の手を振り解くなんて出来ないので一緒に逃げる。
「にぃぃぃ…ちゃぁぁぁぁ!!」
逃がさんといわんばかりに走って追ってくる。
ホラーだこれ。
「きゃあっ!!」
1人の幼女が転んだ。助けに行かねば、
「わたしのことはいいからにげてくだちゃい!」
やだ…カッコいい。
「ゆーとさま、ここははやく」
「かのじょのぎせいをむだにしないで!」
「もうあのおばけをやっつけるしか!」
俺の可愛い妹なんだよなぁ。
「にぃぃぃ…ちゃぁぁぁ!!!」
叫ぶように声を上げて追ってくる優菜。
「みんな下がって、彼女の狙いは俺だ。君達は関係ないんだ」
俺は走るのをゆっくりと辞め、立ち止まる。
「おにいたま!!」
「ゆーとさま!」
「いかないで!」
俺を心配してくれるのは嬉しい。だがこれは不毛な争いである。故に止めねばならない。
「大丈夫、大丈夫」
と幼女達に言い聞かせる。
そして俺は優菜の前に立つ。
「優菜、大丈夫か?」
俺の問いに優菜は、
「いっぱい探した。いっぱい走った。途中頭ぶつけた。だから……撫でて!!」
と頭を突き出してくる。
「とりあえず汗を拭こうな」
「うん!」
解決!!
ちなみにこれを3人は、
(すっごい微笑ましい)
と思って見ていた。
その後昼食をとり、午後の触れ合い会も何もなく過ごした。
あったとすれば、小学生組、幼稚園児と保育園児組、途中参加の大人組が、俺を取り合っていたくらいだ。
「今日は本当にありがとうございました」
林さんが頭を下げてお礼を言ってくる。
「いいですよ、それなりに楽しめましたし」
「また機会があればお願いしてもいいでしょうか?」
俺は分かる。別に機会がなくてもお願いするということに。
「まぁ機会があれば…ですけど」
「はい、ではまた」
「はい」
林さんは去っていく。会場の片付けもあるんだろう。
「悠人様」
「マリア、帰るのか?」
「はい、ですがそれよりも!」
「えっ…何だ?」
「今日は全然構ってくれなかったじゃないですか!」
「えーー」
「だから私を抱きしめて下さい」
「えーと、いいよ?」
「はい!」
俺はマリアを抱きしめる。結構強めに抱きしめ返してくるマリア。確かに全然話せなかったしな。ここはあまえさせておこう。
しばらく抱きしめ合った後、
「じゃあ私行きますね! お母様は明日は仕事があるので先に帰りました。悠人様によろしくと言っていました」
「そうか、またな」
「はい、ではまた」
マリアを見送る。彼女が見えなくなったところで移動しようと思っていたが、
くいくいっ
と誰かに服の裾を引っ張られた。
振り向くとあの白髪黒目の幼女がいた。俺はこの子の目線に合わせるように腰を下ろす。
「どうした?」
とりあえず何かあるのか聞いてみる。
「なまえ、おしえてなかった。おかあさまがいってた。なまえ、おぼえてもらえれば、またあえるって。わたし、また、ゆーとさまにあいたい。だから…だから、おぼえてほしい」
「...俺は君が思っている程いい男じゃない。俺は悪い男だ。それでも会いたいの?」
「うん、あいたい。わたし、夜々。おぼえてくれる?」
即答ですか。
「夜々ちゃんね。夜々…夜々…夜々。今覚えた。これでいいか?」
「うん」
覚えたはいいものの…またいつ会えるか分からないからな。
………仕方ない今回は特別だ。
俺は地面にそれを指で書く。
「これを見て覚えて。他の人に教えないでね?」
「これ、すうじ?」
「俺の携帯番号。いつ会えるか分からないから教えとく。いつでも電話できるわけじゃないけど掛けてきていいよ」
「おぼえた、ぜったいひみつにする」
俺は足で地面に書いた携帯番号を消す。
「悠君〜!!」
真夏の声が聞こえる。林さんと話している間に車を取りに行っていたのだ。
「分かった! じゃあ夜々ちゃん、またね」
「うん、またね」
手を振って見送っている夜々ちゃん。それを見ながら俺は車に向かう。
優菜、寝てるな。確かに大変だったもんな。
そう思いながら俺は助手席に乗り込む。
なんやかんやあった触れ合い会は終わった。
ーー車の中ーー
「真夏…」
「何、悠君?」
「俺ってこのままの生き方でいいと思うか? 何もしてやれない俺が大勢の女の子を振り回す生き方していいのかな? 」
「……」
「分からない。1人で考えてると頭がおかしくなる。どうしたらいいかな?」
「……そのままでいいと思うけど?」
「…えっ?」
「悠君に会えて良かったって人はたくさんいる。誠実で優しく接してくれて嬉しかったって。悠君はもう少し考え方を明るくしなさい。何でもかんでもマイナス思考で考えすぎよ。悪いのは悠君のその思考ね」
「…」
「今悠君がどう生きていこうとしてもそれを私が後ろから見ててあげる。間違いがあれば私なりに指摘して正してあげる。迷ったなら一緒に悩んであげる。背中を押してあげる。だから振り向かないで前を向いて進んで? 大丈夫、悠君の生き方は間違っていないよ」
「そっか、俺はそのままでいいのか」
「悠君、私は悠君が好き。そしてこれからもずっと愛しているから。だから、自分の信じた生き方をして?」
「…うん、分かった。……もう大丈夫だ、ありがとう」
「いいよ〜♪ いつでも相談してね」
「後…俺も、真夏のこと好きだから。愛してるから…」
「えっ、今なんて言った?」
「えっ? 愛してる」
「えっ? なんて?」
「愛してる」
「ふふふ♪ なんて?」
「……もう知らん!」
「え〜! いつもはオープンファミコンって聞いてるのに〜」
「あーー聞こえませーん!!」




