24 触れ合い会 中
触れ合い会が始まった瞬間に拉致られた。俺も何言ってるのか理解してるし、状況は別の場所に移動させられたというだけなので問題はないと思う。
その拉致られる現場を目撃した優奈と真夏は心配しているだろうが。
「いきなり乱暴に運んでしまって申し訳ないですわ」
お嬢様の1人が謝り頭を下げると他のお嬢様方が頭を下げる。ぱっと見では25〜30人くらいかな。
「いえ…拉致られて何処かに監禁って訳ではないようですし平気です。今回の触れ合い会のメインはお嬢様方であって私ではありません」
「寛大な御心感謝いたします」
また頭を下げるお嬢様方。
「実は…とても私悠人様にあの時ずっとからお会いしてお話したいと思っていました!!」
「そうですか、それはそれは」
俺の右手を両手で掴みブンブンと上下に動かしながら、
「きょきょ…今日のドレスもとてもお美しくとてもお似合いです」
「ありがとうございます」
「ずるいですわ!! 私も悠人様の手を取ってみたいです!!」
「1人だけ抜け駆けは許しません!!」
「そんなことはありません。悠人様はみんなで共有すると言いましたよ!!」
おっと…これ以上は止めに入らないと。てか共有ってどういうこと? なんか怖いんだけど。
「まぁまぁ落ち着いて下さい。…とりあえず何をしますか?」
触れ合い会といっても何をするか聞いてないのだ。幼稚園児と保育園児の子達には絵本読んであげるんだろうけどさ。
「えっ……何を致しましょう?」
「えっ?」
「「「「えっ?」」」」
決めてないの?
「しゅっ…集合ですわ!!」
1番後ろにいる子が声を出し俺から離れていく。それに続くように俺から離れて話し合いをしている。
ここで会議ですか? とりあえず待つか。
「やはり正面から抱きしめてもらうが触れ合いでは?」
「いえ…流石にそれは悠人様も許しませんよ」
「手に触れるはどうでしょう」
「さっき触れていたので大丈夫かと」
「頭ナデナデは触れ合いに入りますよ!!」
「私は後ろからこう…ギュッと抱きしめて欲しいですわ」
「王子様抱っこをするのもいいですわね」
「手の甲にキスは」
「逆にキスをしてもらうのは?」
「膝枕というのも味わってみたいです」
おうおう、凄い相談しているね。手の甲にキスと抱きしめる以外は全部大丈夫よ。
手の甲にキスとか王子様じゃあるまいし絶対やってて気持ち悪いからやらないよ?
「居ました!! 悠人様ですわ!!」
「やっと見つけましたわ!」
「とてもお会いしたく思っておりましたの!」
……どうやら見つかってしまったらしいね?
って思っている場合じゃなさそうだな。
それにしてもこの子達も俺のファンなのか…。深くは考えてこなかったが、俺はこの世界の男よりもタチが悪いと思う。
愛想良く振る舞い、付き合う気もないのに誰にでも優しくする。ホストまがいの事をしている気がする。
俺はこのまま女の子達を振り回すような生き方をしていいのか?
正直自信がない。普通の俺からしたらみんな綺麗で可愛いのだ。学校の知り合いとなった女の子達も本当の事を言うとみんな可愛い。
そんな女の子達に囲まれて生活する嬉しさも多少はあるが、それ以上に俺と出会わなければ良かったんじゃないかと毎回思う。
俺は……辞めておこう、これ以上考えてはいけない。これ以上は1人で考えたらいけない。あの時と同様来るもの拒まず去る者追わずを繰り返すだけだ。
…というか何で俺学校に行こうと思ったんだっけ? 暇つぶしだったっけ?
……忘れた。
でも忘れるってことはどうでもいいって事だよな。深く考えないでおこう。
「悠人様? どうかなさいましたか?」
「…いや何でもないですよ。初めまして木下悠人です」
「はい、よく存じております!!」
そうだよなぁ、知らなきゃ来ないもんなぁ。
「では早速こちらへ」
えっ…また移動するのか。でもさっきのお嬢様まだ会議してるんだけどな。
「なっ!? 何をしているのですか! 悠人様は今私達と触れ合うのです!!」
「まさか、A組の皆さんいいですか? 悠人様はずっと立ち往生でしたわ。だから私達B組がお相手するのです」
「ふざけないでください!!」
うーんと…修羅場ね!
とりあえずA組だとかB組だとか意味分からん。近くのメイドさんに聞いてみよう。
「えっ…と一体どういう事なんですか?」
「そうですね。クラスで対立することはないんです。ですが触れ合い会は元々1週間の予定でしたから…時間が少ない分焦っているのでしょう」
俺のせいじゃねぇか!
「それは…ごめんなさい」
「そう思うのでしたらお相手してあげてください。私も悠人様とお話しするのは嬉しいのですが……職を失うのはちょっと」
「えっ?」
と同時に振り向くと、
「「「「……」」」」
腕を組みメイドさんを睨みつけているお嬢様達が、
「ほんとすんません」
「いえ…」
これ以上迷惑をかけてはいけないな。急いでお嬢様達の元へ戻る。
「……さっきのメイドはどなたのお連れですか?」
「私ですわ」
「分かってますわよね?」
「はい」
なんかやばい気がする。
「そういうのはやめましょうね? さぁ触れ合い会を続けましょう」
とりあえず笑顔で言っておけば落ち着かせられるだろうか?
「「「「はぃい」」」」
よかったぁ…。あのメイドさんの職は守られただろう。
「では悠人様。私と握手して下さいませ!」
「はい」
握手をする。
「はわぁ…」
「頭ナデナデしてもらえますか?」
「分かりました」
頭を撫でる。
「ふわぁ…」
「えっと…王子様抱っこしてもらえますか?」
「これでいいですか?」
王子様抱っこをする。
「はぃぃ…」
「サイン頂けますか?」
「ええ、もちろん」
サインを書き、渡す。
その色紙を大事に抱きしめ、
「私の家の家宝に致しますわ!!」
それはやめたほうがいいと思う。
なんやかんやで触れ合い会は順調に進む。そして、
『10時半となりました。悠人様移動をお願い致します』
次は確か保育園児と幼稚園児達に本を読んであげるものだったな。
「では皆さん、私は移動しなければなりません。また後でお会いしましょう」
「もっとお話ししたいですわ」
「まだ全然足りません!!」
「しかし皆さん…」
すると突然、俺はヒョイっと誰かに王子様抱っこされ何処かへとまた運ばれてしまう。
え、さっきの似たパターン? まぁいいけど。
「それでは皆さんまた後で〜」
「「「「あぁん、行かないでください〜!!!」」」」
しかしそれを無視して俺は運ばれる。というか誰が運んでるんだ?
「ふふふ…探しましたよ悠人さん?」
この声は!
「エリナさん!」
「連れ去られたと聞いて心配していましたが、結構大丈夫そうで安心しました。ですが早速次の会場へと移動しますよ?」
「分かりました。とりあえず降ろしてもらえますか?」
「ダメです♪ 」
「あれま…」
心配かけてしまったし、仕方ないか。
「逃がしません!!」
「待ちなさい!! 悠人様をおいていきなさい!!」
「触れ足りないです!!」
とお嬢様方は走って追いかけて来た。
…執念深いね。
「エリナさん…やっぱり降ろしてくれます?」
流石に人を抱えながらだと追いつかれてしまうだろう。まぁ降ろしたとしてもウェディングドレスを着ている俺は逃げる事すら不可能だが。
「ふふふ…悠人さんしっかりと掴まって下さいね。スピードを上げますから」
えっと? 腕を首にまわせばいいのか? あれ、エリナさんの顔が赤く…もしかして違ったか?
「大丈夫ですか?」
「大丈夫です。走ると顔が少し赤くなってしまう体質なんです」
「そうなんですか」
「さぁ行きましょう」
「わかった」
「!」
やべっ…タメ口でちゃった。でもタメで話して下さいね? と言われていたしなぁ。ええい、どうにでもなれ!!
「じゃあこのまま頼むな? …エリナ」
「ええ、いいですよ。では任せてください悠人?」
「おう」
そして次の会場へと向かう。




