3 誕生日
悠人だ。6歳の夏、小学校は来年だ。だが今日は楽しみにしている日なんだ。
ああ、それはもちろん俺の誕生日。真夏や優菜も朝起きたら、
「「お誕生日おめでとう!!」」
と言ってくれた。とても嬉しい。それと同時になんか恥ずかしくなる。自分が主役ってのは何かと慣れないからな。
そしてプレゼントとして腕時計を貰った。
みんなの言いたいことは分かる。子供が腕時計を欲しがるのはどう考えてもおかしいことくらいはな。だが一言言わせてくれ。
欲しいものを我慢しちゃいけない!!
デザインはシンプルだ。全身が銀色、ストップウォッチ機能、防水耐衝撃に優れている。前世で使っていた物とほとんど同じだったから欲しくなったんだよ。
でも真夏に、
「純金のやつじゃなくてよかったの?」
と言われた時は焦った。純金なんてそんな胃に悪い物持ち歩きたくない。てか腕時計についてつっこまれると思ってたのにな。
「うん、これでいい。ありがとう」
「ふふ、ならいいの」
「にーちゃ! にーちゃ!!」
「優菜もありがとう」
「えへへ〜♪」
この腕時計は大事に使おう。
そして俺は今遊園地にいる。やはり休日もあってか人(ほぼ女性のみ)は多い。
だが久しぶりの外出だ!! 心が踊る!!真夏に「外は危ないから出ちゃ駄目!!」やら「女は狼なのよ!」と言われずっと家にいたからな。
その後ふざけて「俺を食べちゃうの?」って聞いたら顔赤くして布団に入り込んだ。可愛い反応あざまっす。
「悠ちゃん、私と優菜の側から絶対に離れないでね!!」
「わかった」
後水分補給な。今日はすごい暑く30℃くらいはあるらしい。
「ねーちゃ何乗るの?」
「女は黙ってジェットコースター」
「……待ってるね」
……。
「メリゴーランド、一緒に乗ろう」
「ねーちゃ?」
「一緒に乗るのは嫌か?」
「嫌じゃない!! ありがとうにーちゃ!!」
そう言って抱きついてくる。こらこら「ねーちゃ」って呼びなさい。他の女性にバレちゃうから。
自分だけ楽しむのは1人でいる時だけでいい。せっかくの遊園地…家族と楽しまなければ意味がない。ジェットコースターは優菜がもう少し大きくなってからだな。
「悠ちゃん、私も一緒に乗りたいなぁ〜」
「もちろん一緒に乗ろう」
「私の息子は世界一!」
世界一ってなんや。てか息子言うな、バレるから。
聞いてわかる通り俺は変装をしている。やはり男性とバレると女性に囲まれ自由に行動できないからな。呼び方も「ねーちゃ」「ちゃん付け」してもらっている。前から髪をセミロングまで伸ばしており、顔を帽子で隠している。そして真夏の香水をつけて匂いを誤魔化すが、今日の暑さのせいで汗をかいてしまう。そのため汗の匂いで香水が消えてしまわないようにちょくちょく香水をつけ足している。そのせいで甘い香りが漂うが仕方ない。
「にーちゃ!! 早く早く!!」
「悠君行きましょう!」
「ああ、今行く」
俺は2人の手を引かれながらメリーゴーランドに向かう。
でもな……
「呼び方元に戻ってるよ。気をつけて?」
「「ごめん」」
「よろしい、ならば行きましょう」
メリゴーランドに着いた。並ぶ人は少なくそのまま乗れた。最初は優菜と乗ることになり、優菜が前でその後ろに俺が座っている。
「揺れるから落ちないようにな」
「うん!!」
そして優菜は体ごと俺の方に向いて抱きしめる。
「……優菜?」
「落ちないように!」
「棒があるよ?」
「ねーちゃが落ちないように!」
でも季節は夏。今はものすごく暑いのだ。抱きしめられるとなおさら。なので、
「暑いから離れよう」
「大丈夫!! 暑くない!」
「離れて?」
「ねーちゃ愛してる!」
「了解、絶対に離すな!!」
「きゃー!!」
そして強く抱きしめてくる優菜。
ふふふ、可愛い妹にそんなこと言われてしまっては仕方ない。
周りの女性達は微笑ましい表情で俺達を見ている。俺が男と知った瞬間その視線がどうなるのか俺は考えたくもない。
そしてメリゴーランドは動き始める。
ていうか何回か回り上下に動くだけのアトラクションって楽しめるのだろうか。
でもまぁ……
「ねーちゃ!! 動いてる!! 動いてるよ!!」
「ああ、動いているな」
優菜が楽しんでいるからいいとしよう。
そして次は真夏と乗る。さっきとは違い俺が前で真夏が後ろに座っている。そして俺の腹に腕を回して抱きしめられる。そのため女の持つ2つの凶器が俺に押し付けられる。
……意外と柔らかい。赤子以来なのですごい久しぶりですなぁ。
でも、
「真夏、暑い」
「悠ちゃん、私の心は冷めているの。貴方の体で温めて?」
「……夏は真夏を温めているよ?」
「やだ、悠ちゃんがいい」
息子にする行動や発言じゃないよね? 夏の暑さにやられたか?こらこらさらに強く抱きしめるじゃない。胸がやばいって胸が!!
「わかった、暑くなったら離して」
「ふふ、暑くなっても離さないから安心して?」
「解せぬ」
……もうこうなったら諦めるしかないね。
そして2回目のメリゴーランド。そういえば、親と一緒にアトラクションに乗ることなんていつ振りだろうか?懐かしい感覚だ。
ふと真夏を見る。真夏は俺の視線に気づくと微笑んで、
「楽しいね〜、悠ちゃん♪」
「うん、楽しいよ」
2回目なんだけどね。
その後もコーヒーカップ、おばけ屋敷、船に乗ったりと様々なアトラクションを楽しんだ。
そして気がつけば、もう夜になっていた。最後
に乗るアトラクションといえばやはり観覧車だろう。
普通の観覧車は向かい合う形で座るが優菜は俺の膝の上に座っている。そして真夏が隣に座っている。
「今日は楽しかったねーにーちゃ!!」
「途中から普通ににーちゃって呼んでたよな...」
「えへへ〜、ごめんなさーい」
「うん許す」
俺は優菜の頭を撫でる。可愛い奴め。
「じゃあもう悠ちゃんて呼ばなくていいのね」
「もういいでしょ?このあと帰るんだし……というかよくバレなかったな」
「顔も見れないし髪も長い、まして女性の香水で匂いを誤魔化そうとする男性自体がいないの」
「そのおかげで楽しめたからいいや」
「ふふ、そうね」
案外ここまで変装しなくてもよかったんじゃないか。髪ぐらいは短くしようかな。
「悠君、また来ようね」
「私また来たい!!」
「おう、また来よう」
観覧車が一周し俺達は降りて出口に向かう。
その間にエレクトリカルパレードがやっていたのを見つける。
「あれ見ていかない?」
「いいの帰らなくて?」
「夜だからバレないって。優菜も見ていきたいだろ?」
「うん!!」
そして俺は2人の手を掴み。
「もっと前で見よう」
急かすように走り出す。
「え!? にーちゃ?」
「……もう悠君ったら」
2人は俺の手を握りながら走る。でも優菜はいつもの俺らしくない行動に驚き、真夏は急に子供っぽくなった俺を仕方ないわねという顔をしている。そして俺は満面の笑みで、
「最後まで楽しもうぜ!!」
と言った。
後日、久しぶりにあんな笑顔見たと言われて、
(俺って無愛想なのか……)
とへこんだのは秘密。