21 早苗ちゃんが来た話
休日のある日、
「にーちゃ〜今日は早苗ちゃん来るから!」
と急に優菜は言ってきた。
「了解だ」
しかし俺は何の問題もない。予定も何もないし、暇だったからな。
それに優菜が初めてお友達を家に連れて来るのだ。嬉しいこと他にない。俺という男がいるから呼ぶに呼べなかっただろう。優菜には迷惑をかけてしまっていたかもな。
ならばちゃんともてなさねばな。
「そういえば早苗ちゃんの好きな食べ物知ってる?」
「えっ? ……ホットケーキが好きだって」
「そうか、作ってやる!」
「やったぜ!」
「アイスも付けるぞ!」
「大好きー!!」
優菜が俺の正面に抱きついて来る。
「はっはっは〜!! そんなこと言っても好感度上がるだけだ!」
「朝から元気でよろしい! 私も混ぜて〜」
そしていつの間にかいた真夏が俺の後ろから抱きついて来る。
これはまさに木下サンドイッチの完成である。
側から見れば微笑ましい光景であるのは間違いない。というか……朝っぱらからこんなイチャついて良いのだろうか。いや大丈夫だ、問題ない。
その後俺は柄にもなくブラックコーヒーを飲んだ。
「甘っ!」
その味はとても甘かった。
「にーちゃそれ私のココア」
「すまない」
なんだココアか…じゃあ甘いわな。
「じゃあにーちゃの飲んじゃうもんね〜♪」
「あっ…」
「…苦い」
そりゃそうだ。
「こんにちはお兄さん! 今日はお日柄もよく、温かいですねっ!」
「うん、今日はいい天気だね。いらっしゃい」
「いらっしゃい、早苗ちゃん!」
「うん! 来たよー!」
昼を過ぎた頃に早苗ちゃんは来た。礼儀正しく可愛い子ですね。
「さぁ…上がって」
「はい…お邪魔します!」
早苗ちゃんを家に上がらせ、リビングへ案内する。しかし、俺はお邪魔虫かもしれない。女の子2人で積もる話もあるだろう。
「優奈…俺は席を外す。何かあれば呼んでくれ」
「「えっ!?」」
と言いながら何でどこか行っちゃうのという視線で俺を見てくるので、
「えっ?」
と俺も返してしまう。
「女の子2人でしたい事があるから席を外そうと思ったんだが……違うのか?」
「「違う(います)! 一緒に遊びたい(です)」」
「そっ…そうか」
強く言い寄られるため少し動揺してしまった。てかそれなら優菜よ、今日ではなく前以て言ってくれたまえよ。
「それで何するんだ?」
「実はですね…数週間前に発売された乙女ゲーにお兄さんにすっごい似てるキャラがいるのがあってですね。それをやってみようかと」
…ほう。それを本人の前で言うあたり、
「君はだいぶ図太い神経をしているね」
「人間欲には勝てないんですっ!」
「その欲望を自制するのが人間だよ?」
「でも優菜ちゃんはエロシーン無ければ普通に問題ないって」
「…まぁそうだけどね」
ジッーと優菜を見つめる。
優菜は俺の視線に気づき、
「乙女ゲーはにーちゃとたまにやってたりするから平気だって言ったけど、ソフトは今日早苗ちゃんのやつをやるって」
「そか、理解」
心の中に留めておくが俺は優菜が1人で乙女ゲーやってるところ見たことない。後いつも一緒にやってるんだよなぁ。
女性が多いこの世界はアクションよりも恋愛シュミレーションの方が多い。常に年度の販売累計ランキング上位は殆どが乙女ゲーである。またそのキャラも元は現実にいた男性をモチーフにしたとか。
しかし優菜の乙女ゲーは楽しみ方が違うというか、違和感を感じるのだ。前世でギャルゲーの1つでもやっとけばよかったかも知れない。
確か前は……、
【勘違いするな、別にお前を待っていたわけじゃない】
「じゃあ何で話しかけて来るの?」
「優菜それツンデレ」
「ツンデレ?」
「好きなのに素直になれず相手に冷たい態度を取ってしまう…属性?」
「素直に話せないのに気持ちなんて伝わらないよ? 察しろって言われたら何で言語作ったのってなっちゃうよ?」
「優菜はすごい賢いんだな」
「えっへん!」
【なぁ何で俺以外の男と話してるんだよ? お前は俺だけのものだろ?】
(おっ…ヤンデレか?)
「人をもの扱いするなんてさいてー」
(…だよな)
「私だったら貴方は私だけの人!」
(純粋な子!)
「にーちゃは何て言う?」
「ん? 君の好きなように人を好きになるといい...かな」
「何で切り捨てられる前提なの?」
「知らんな」
【お前の事世界で1番好きだ! お前の隣にずっといさせて欲しい!】
「ごめん、私の隣はにーちゃ限定だからダ〜メ♪」
「あれま、可哀想に」
「…もっと私はキュンとくる告白がされたい」
「好きです」
「キュン!」
「単純すぎんよ」
「キュン!」
「何でや」
「にーちゃ大好き!」
「キュン!」
……今思えば一緒にやってる時点で間違ってんな。
「さぁ準備しましょう」
「そうだな」
ゲームの電源をつけ、ソフトを入れ、テレビの前から少し離れて胡座をかく。
そしていつものように優菜がその上に座る。それを見た早苗ちゃんは、
「ずるいよ優菜ちゃん! 私も座りたい!」
と言って優菜をどかそうとする。
「ふっ…あまいよ早苗ちゃん。それをするにはまだにーちゃの好感度が足りない」
いやそんなことはないよ?
「そんな!? お兄さんダメですか?」
「…ダメじゃないけど、2人は座れないから膝枕で我慢してくれ。優菜いいだろ?」
このままじゃゲームが出来きないしな。
「…仕方ないね、いいよ」
「お兄さんの膝枕…柔らかいんでしょうか」
「お客様この枕は天然素材で出来ていますゆえ柔らかさは保証できません」
「逆に人工だったら怖いよね」
「我が名はウッド・アンダー・ユウト・サイボーグ!」
「木下悠人サイボーグだ! いけっロケットパンチ!」
「腕を抜けと申すか優菜」
「いつもこんな感じ何ですか?」
「「こんな感じこんな感じ」」
「じゃあ失礼します…」
早苗ちゃんが右、優菜は左と俺の太ももを枕にする。
「にーちゃの膝枕はいいね…」
「はいぃぃ…」
なんか早苗ちゃんからピンク色のオーラと花びらが見える。もしかして俺は風邪だろうか。
ちなみに操作は俺らしい。選択肢を選ぶ時は相談のち多数決で決める。普通の乙女ゲーはストーリー重視...言ってしまえばセリフ音声付きの小説みたいなものかもな。
「早苗ちゃん始めるよ?」
「はいぃぃ…」
えっと?
「……優菜始めるぞ」
「…スヤァ」
…俺1人でやれと? いや早苗ちゃんを元に戻さないとな。優菜は…寝かしとこう。今寝たとこ起こすのも悪いし。
「早苗ちゃん、そのままでもいいから一緒にやろう」
「ヤル!? お兄さん一体ナニをヤルんです!?」
「ゲーム」
「あ……そうですか」
下ネタは結構好きだけどね。乗り過ぎると色々と頭おかしい人って思われ……元から頭のネジ外れてるって言われてたわ。この子もそういう事は知ってるだろうし、まぁ下ネタ控えておこう。
…この世界の男性は猥談とかするのかな。
【やぁ、今日もいい天気だね】
初っ端から俺に似ているキャラが、
「このキャラがお兄さんに似ているキャラです。パッケージにもメインとして出ているんですけど、イベント発生率がとても低く攻略難易度が高すぎてアンチコメが絶えないんです。今もまだこのキャラだけ攻略組がまだ攻略を出せないんです」
…このゲームを作った人は俺のこと嫌いなのだろうか。
【この人は私の同級生の木下悠太。誰にでも優しいため結構というよりモテすぎる。噂じゃファンクラブ会員が万を超えているらしい。今は一人暮らし、実家には妹と母親がいるらしく週一で家に顔を出す程仲が良い】
……すっごい設定がギリッギリだな。顔も殆ど俺、似てないといえば髪型くらい。
「しかも開発者は悠太くんを攻略させる気がないと言っていました」
メインキャラなのに?
【今日は何をしよう?】
さて…まずは悠太君の好感度を見てみようか。
好感度60
「意外に元から高いね」
「でもその60の壁が越えられないんです」
【なぁ今日は暇? 暇だったら何処かへ出かけない?】
おっ? 悠太君から話しかけてきたぞ。
「お兄さんいきなりレアイベです! ここは乗りましょう」
「レアなのか」
「悠太君が話しかけてくる確率が1%くらいですから」
「なるほど、レアだな」
てか早苗ちゃん、結構やりこんでんだな。
「今回の目標は悠太君の攻略を目指しましょう」
「他のキャラのエンドは見たの?」
「……悠太マジ許さん」
こりゃあかん。
ちなみに優菜は、
「……貴方のにーちゃの好感度は没収です」
見事に夢を見ている。見てる内容すっげぇ気になる。
そしてゲームを進めるも…、
「好感度全然上がらねぇ!!」
「何なんですか! この人は!」
悠太のイベントが来ても全く好感度は上がらず。
「お前じゃねぇよ!!」
「また貴方ですか!!」
いつの間にか違うキャラエンドにいったり。
【好きだ! 君を絶対に幸せにする】
「おっ! やった告白された!」
「ついに悠太エンドをっ!?」
【お兄ちゃんは私だけのものだから消えて?】
「殺された!?」
「孔明の罠!?」
まさかの dead end があり。
そして、
「悠太マジ許さん」
こいつだけは許しておけねぇ。
「…お兄さん少し休みましょう」
「早苗ちゃん、もう少しで流れが来る気がするんだ。そう…決定的な流れが。それが奴の攻略の糸口にな「それギャンブルやってる人の破産する理由なのでやめましょう」……そうだね」
確かに熱くなり過ぎたな。少し休憩しよう。そうだな。
「ホットケーキ好きなんだってね。丁度材料あるから作って食べようか」
「えっ!? いいんですかっ!?」
「勿論だとも」
「うへへ…ありがとうございます♪」
可愛い反応を見れたことだし、…作るとしますか。その前にまずは、
「優菜、起きろ」
優菜の頰をツンツンと突きながら起こす。
「ぅん…んぁ? にーちゃ私寝てた?」
「めっちゃ寝てた。今ホットケーキ作るからな」
「ん…じゃあ退くね」
「お兄さんお兄さん」
「ん?」
早苗ちゃんが服の裾をクイッと何回か引っ張っている。
そして俺は早苗ちゃんの方へ顔を向けると、
プニッ
と頰を指で突かれた。
「えへへ…引っかかりましたね?」
してやったりという顔で言う彼女。
可愛いイタズラに俺は微笑みながら、
「そうだな、引っかかった。じゃあ早苗ちゃんも退いてくれるか」
「はい♪」
そういえば、
「悠太だけボイス無いけどもしかして」
「元がお兄さん似せなのでイメージを壊したく無いらしいです」
「もしかしてそれファンクラブに載ってたの?」
「はい」
ちょくちょくファンクラブ覗いておくか。
ちなみに俺の作ったホットケーキは2人に好評だった。
その後は3人でまた悠太を攻略するため挑戦した。
「今日はありがとうございました!」
「うん、でも結局悠太攻略出来なかったね」
「はい…家に帰ってまた挑戦です!」
「ゲームは程々にね」
「はい!」
いい返事だ。
「また来るといいよ」
「はい! 絶対に来ます! じゃあね優菜ちゃん!」
「うん、またね!」
「ではまた、お兄さん!」
「うん、またね」
女の子1人帰らせるのは気がひけるが、俺の方が襲われるんじゃ逆にお荷物だからな。自宅近くで見えなくなるまで見送る。
早苗ちゃんが見えなくなり、優菜と一緒に自宅に入る。
「にーちゃ今日カレー食べたい!」
「安心せい、甘口だ」
「分かってる♪」
本当は俺も中辛、辛口のカレー苦手なんだよね。




