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18 三年生の新学期

 


 3年生となる春。


 俺は今三脚を立ててカメラの準備をしている。今日の俺はマジモード。少しの時間も気を緩めるわけにはいかない。何故なら今日は、



 優菜の入学式なのだ!



 やはり優菜のにーちゃとして優菜の勇姿をこの手に写さなければならない。真夏も撮るらしいが、位置的に俺が近い、俺の方がよく撮れる、ならば撮る、ということだ。


 俺の教員席の隣という特等席。



 ふっ、男に生まれてきてよかった。



「あの、悠人君?」


「はい、何でしょうか?」


「そんな殺気立ってどうしたの?」


「今日は大事な妹の入学式。母がいるといえど私も撮りたいのです。ならば逃すわけにはいかないんです。人生に4回あるかどうかの入学式を」


「そう、溺愛しているのね」


「ファミコンなんで」


「ファミコン?」


「ファミリーコンプレックス」


「ああ、なるほどね。お母さんも好きなんだね」


「母は俺の誇りです。今の家族がいて俺がいるんです。嫌いになるなんて万にいや兆の一にもありえません」


「ふふふ、羨ましいな、お母さんと妹さん」


「まぁ俺にとってごく普通のことですけd……先生優菜です! あの子が俺の妹の優菜です! 可愛いでしょっ!」


 先生はこの時思った。


(悠人君……今の君はどう見ても娘を溺愛するお父さんだと思うんだよね)



 そして入学式が進み。


『木下優菜さん』


「はい!!」


 ……いい返事だ。


『如月真帆さん』


「はい!!」



「……先生、優菜の後すぐに名前呼ばないでくださいよ。全然撮れないじゃないですか」


「何無理言ってるの!? 」




 入学式終了後、教室へ移動する時、


「にーちゃ〜〜!!」


 俺の元に優菜が走ってくる。俺はそれを両手を広げて待つ。


「どうだった?」


「名前呼ばれた時いい返事だったぞ! 俺の所まで聞こえた!」


 俺の胸にダイブした優菜を俺は抱っこしてクルクル回る。


「えへへ〜♪ にーちゃとママに聞いて欲しかったんだもん!」


 可愛い奴め! と思いながら優菜を下ろす。


「全く悠人君は優菜ちゃんの事になるとあまいんじゃない?」


「でも微笑ましくていいじゃないですか」


「全くね」


 里奈、マリア、明日香が話しかけてくる。


「優菜にあまいのは否定はせんよ」


 大事な妹だしあまくなるのは当然のことだろう?


「皆さん、おはようございます!」


 優菜が3人に挨拶をしている。


「おはよう優菜ちゃん!」


「おはようございます、優菜ちゃん」


「ええ、優菜ちゃんおはよう」


 結構仲の良い4人。というか、



 みんな優菜と何処かで会ったことあるのか?



 しかし、そんなそこはかとない疑問を聞いて彼女達の会話を遮るのは辞めておこう。


 4人が話している時、



「優菜ちゃーん!!」



 1人の黒髪のおさげの女の子がやって来る。優菜の名前を呼ぶあたり友達なのだろう。


「げっ! 早苗ちゃん!」


「優菜、友達に向かってげっ! はないと思うぞ」


「でも……」


「でもじゃない」


「もう優菜ちゃん急にどっか行っちゃうん……男の人!?」


 なるほどね。この反応を見る限り、俺の事説明するのは面倒だったんだろう。多分会ってみたいとごねられるから。


「んっ、すまん優菜俺が間違ってた」


「うん」


「えっ……あ、あっあっ、ああのすみません。ちっ、ちょっと、ゆっゆゆ優菜ちゃんに用がっがあっててて」


「うん知ってるよ」


「べべっ、べ別にめっめっめ迷惑をかけようとしたわけけけではっ……」


 とりあえずこの子達を落ち着かせよう。


「まぁまぁ落ち着いて。ほら深呼吸深呼吸」


「ひっひっふー、ひっひっふー」


 ちゃう、ラマーズ法じゃない。ここは産婦人科じゃないんや。


「優菜ちゃんどういう事!! こんなカッコいい男の人とどういう関係なの!?」


 というと同時に優菜の肩を掴み、


「私とのズッ友盟約を破る気!!」


「ズッ友盟約って何!? 私初めて聞いたんだけど!!」


「この裏切り者ー!! おのれ優菜許さ‘’ん!」


「違うよ!! この人は私のお兄ちゃんだよ!!」


「……えっ?」


「私のお兄ちゃんです」


「This man はユアブラザー?」


「イエス」


「ファイナルアンサー?」


「ファイナルアンサー」


 優奈に質問した後、


「本当ですか?」


 早苗ちゃん? は俺に聞いてくる。


「そうだよ、俺は正真正銘、優菜のお兄ちゃんの木下悠人だ。妹の優菜と仲良くしてくれてありがとね」


「優菜ちゃん、私を殴って! これは夢! 何かの夢だよ!! 」


「いや現実だよ」


「だってこんな良い人そうな男の人いるわけないじゃん! ドッキリなんでしょっ!ほらプラカード持ってきてよ!!」


「そろそろ目を覚まして」


 優菜が軽くビンタをする。


「痛い、あのお兄さんの名前聞いていいですか?」


「俺の名前は木下悠人。妹の優菜がいつもお世話になってます」


「夢じゃない!」


 すごい面白い子だ。



「君の名は?」



高橋早苗たかはしさなえです!! 忘れてもいいのであっあの!!」


「何?」


「抱きしめるか握手して下さい!!」


 抱きしめて欲しいってストレートに言うね。


「絶対抱きしめて欲しいんでしょ?」


「はいっ!! いや違います!!」


 どうするか。別に面白いし可愛い子だから抱きしめてもいいんだよ。


 でもさっきから4人の視線が何かこう圧力を感じるというか、「まさか抱きしめてあげるわけないよね?」って伝わるんだよね。ここは握手で我慢してもらおう。


「でもごめんね、握手で我慢してね」


「いえ! 握手して貰えるだけでも嬉しいです」


 俺は右手を出す。そして高橋さんは両手でその手を掴む。


「凄くあったかいです」


「よろしくね、高橋さん」


「えっ?」


「えっ?」


 やっぱり年下の子にさん付けはいけなかったかな? いや、前世でバイトで女の子の後輩とかはさん付けしてたから問題ないはず……。やっぱりちゃん付け、いやそれじゃ馴れ馴れしいからな。


「あっ、あの!! 私のこと早苗って呼んで下さい!」


「えっいや、その……」


 初対面で名前呼びか。結構きついな。


「ダメ、ですか?」


 涙目になりながら言うもんだから断れないじゃないか。


「よろしくね、……早苗ちゃん」


「はっ、はい!! えへへ」



 この時会話に入ってなかった4人は、


(また目の前でフラグが1つ立ってしまった)


 と思っていたが、


「いたー!! みんなあそこにいたよ!!」


「ほんとだ!!」


「悠人さんだ!!」


 何十人もの女の子達が集まってきて、


「「「「「いつも姉がお世話になってます! 抱きしめ、握手して下さい!!」」」」」


(そういえば否応なしにフラグ立つんだった)


 と思う4人だった。



 知り合いのシスターズに囲まれた俺はとりあえず握手に応じていた。その後に、


「悠人君だよね?」


 保護者の方々が集まって、


「私と写真撮ってくれない?」


 そこ娘じゃないのかよ。去年の入学式もそうだったな。しかし俺の名前を事前に知っているとなるとファンクラブの人達かな? まぁこれ以外に写真撮れる機会そんなないし、


「1人1枚でお願いしますね」


「では1列に並んで下さい」


「順番は守ってください。急がなくても全員一緒に撮れますので」


 ……俺が返答する前に里奈、マリア、明日香がすでに準備を始めていた。まぁそうだよね、去年も撮ったしね。


「ごめんな、今年も」


「大丈夫だよ」


「全然平気です」


「気にしないで仕方ない事だから」


 このあとめちゃくちゃ写真撮った。



 写真を撮り終わり、クラスへ移動する。今年も里奈、マリア、明日香も同じクラスだ。


 後柳田さんも。でもずっーと隠れてカメラ構えてるよ。


 よ • ろ • し • く • ね ♪


 と口パクで言ってくる。


 うん、普通に怖いから直接言ってくれない?


「きゃっほい! 今年も悠人君の担任だ! やはり運命は私に味方してくれている!!」


 とガッツポーズを決めながら入ってくる先生。確か名前はミキ先生だったかな。


「新しいクラスになったけど見たことある顔と見間違えない顔があるから大丈夫だね。また1年よろしくね!」


 今年も楽しめそうだな。



 学校が終わりみんなと別れ、優菜と俺は真夏が待つ駐車場に向かっている。


「学校は楽しめそうか?」


「うーん、普通かな。クラス着いてもみんなにーちゃの話ばっかり聞いてくるし」


「……迷惑かけてごめんな」


「大丈夫! 赤裸々に語ってやった!」


「やめなさい!」


「……学校は一緒に行ける?」


「無理そうだな。もし何かあると困るからな」


 誘拐なんてされたら今以上に周りの人を悲しませることになる。そもそも俺が学校行かなければいい話だけどな。でも今更辞めるなんて嫌だしな。


「そっか」


「大丈夫だ、家に帰れば一緒にいれる。我慢してくれるか?」


「うん!」


「いい子だ」


 俺は優菜の頭を撫でる。優菜は俺に寄り添い撫でてない方の腕を掴んで並んで歩く。


「♪」


 嬉しそう笑みを浮かべている優菜を見ながら、真夏の待つ車へ向かう。





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