17 新聞
ある日の登校時。俺は学校の廊下で紙切れが落ちているのを見つけた。誰かが処分し忘れたのだろうか、それとも落としたのだろうか。ぱっと見で5枚程重ねてあるのが分かった。
俺は教室に行くついでに捨てようと思い、それを拾う。よく見ると新聞だった。
その内容を見ると、
【週刊木悠新聞 毎度お馴染み密着木下悠人の一週間の行動】
……なんじゃあこりゃあ!!
俺の事だけを書いている。しかも週刊新聞。つまり毎週配られているものだろう。
俺の知らないところでこんな事を……。
使っている写真も俺の目線は他所に向かっているので間違いなく盗撮。
後で新聞部に直談判してみるか。
とりあえず内容を教室で見るとしよう。後でマリア、里奈、明日香にでも聞いてみようか。
明日香の名前呼びは普通に、
『明日香でいいわ』
と言われたので名前呼びとなった。
さてさて教室に着き、早速内容を拝見してみようじゃないか。
[○月×日、木下悠人は7時40分に登校してくる。いつも通り規則正しい生活をしている。その後に後ろにある花瓶の水を入れ替え、そのまま席に座り本を読む。本のタイトルは「止んだ雨はまた降らない」 ]
……。
[○月◇日、木下悠人は珍しく8時20分に登校。理由は2度寝らしい。寝癖がついて髪が跳ねていた。(写真付き)
また今日は席替えが行われ彼の隣の席はTさんとなった。
1限目は国語、彼が「ごんたぬき」を音読をしていたと報告がある。
2限目は算数、隣の席Tさんに分からないところを教えている姿を目撃されている。またTさんは「ドキドキしててなにも頭に入らなかった!」と供述]
えっ……こわっ! ここまで見られてんの? いや待てこれは情報提供されて書かれている部分。つまりクラスの何人かもグルになっているのか。
[2限の休み時間、太ももを机にうっかりぶつかり転ける。(写真付き)]
そこまで書かんでいい!!
いやちょっと待て、まさか今も見られるんじゃ....。
俺はチラリと視線をずらして廊下側の方を見ると、
……いるぅぅ。廊下の側のドアからこっちを見てるぅぅ!
眼鏡をかけ茶髪のセミロングの女の子、もとい柳田さんがカメラをこっちに向けている。見るからにパパラッチ精神で自ら撮ろうとする意欲が感じられる。
もしここで彼女を追いかけたらどうなるだろうか。俺が認知していない時点で危ない橋を渡っているのは確実。逃げるのは当然だろう。しかし俺は彼女の顔と名前を覚え、そしてクラスを知っている。
……彼女詰んでるじゃん。
やましい気持ちしかないだろうが話を聞く必要があるな。
俺は席を立ち移動する。スマホのカメラを自撮りに切り替え後ろの様子を確認しながら廊下を歩く。そしてかなり遠くだが付いてきているのを確認。
廊下の曲がり角を曲がりその少し先で待機。
彼女の姿が見えた瞬間、俺は右手で彼女の腕を掴み、壁に追いやる。
「さて……あの新聞について聞かせてくれるか?」
逃さないよう腕を掴んでおく。これで逃げられまい。しかし、
「……」
何も話さない。
「柳田さん?」
「……」
「おーいおーいうおいおい」
「……」
すると彼女の鼻から血が……ってこれ完全に、
「……気絶してんな」
俺は彼女を保健室に運んだ。
自分の起こした事でもあるが朝っぱらから女の子を運ぶことになろうとはな。
ーー昼休みーー
新聞の事について考えていると、
「悠人君」
「ん……あ、里奈。おやおや、髪型を変えたようだね。似合ってるね」
「えへへ、ありがとう」
里奈に聞いてみるのもいいと思ったが知っていたら上手くはぐらかされそうだし言いにくいだろう。新聞は非公式、俺の知られていないところで行われていたからな。やはりここは直接柳田さんに聞かなければいけない事かもしれない。
そういえば里奈の髪型は黒のセミロングだったな。しかし今はポニーテール。明日香は黒のロングだったっけ。
一応ここ日本だし黒髪が多いんだよな。みんな美人で可愛いし。
「しかし急だな。イメチェンか?」
「そうだね。たまにはいじってみようかなって。悠人君はこういうの好き?」
「結構好き。髪いじるのよくやるから」
「ふぇ?」
「優菜の髪セットしてんの俺だし」
「……」
「最近真夏のもやってたりする」
「……今度私の髪でなんか似合うのセットしてもらっていい?」
「ん〜〜、三つ編みとか?」
「私の髪ミサンガじゃないよ?」
「あっ……ミサンガいるか? この前いいのが出来たんですよ奥さん」
「あらやだぁ、お兄さんおひとつください」
そうして里奈とふざけていたら、
「あっ……お兄さん私も1つください!」
「あっ! 私も私も〜〜」
「最近のお兄さんはいい仕事するわねぇ」
「さっすが! 悠人君印のミサンガは丹精込めて作られてあるわぁ〜〜」
ノリ良く入ってくるクラスメイト。
「お前ら最高」
テンション上がったせいで、ミサンガをクラスメイト全員分作ってくると言ってしまった。
やっぱり俺って自分で首を絞めるタイプだろう。
そして明日香と里奈とマリアの3人には「無理はしないでね」と注意されました。
大丈夫だ問題ない。君たちにとっての明日には既に作り終わり、配っているだろう。
ーー放課後ーー
「話があるの」
柳田さんが俺のクラスに来た。十中八九新聞の事だろう。
「分かった。それよりごめんな、あんなことして今日授業受けられなくして」
「いや私としては役とk…何でもない。さぁ来て案内する」
「分かった」
君絶対役得って言おうとしたよね。
彼女に案内されどこか知らない部室?へ。中に入るがそこには誰もいなかった。
「俺の知らない所だな」
「ええそうよ、悠人君にはね」
「他はみんな知ってると?」
彼女は静かに頷いた。
「それよりもごめんなさい。いつも悠人君の事を付け回しそれをネタに新聞を書いて」
土下座する彼女。
「いやいやいやいや! 待て待て待て待て!!」
俺そんな事させるために嵌めたわけじゃないんだよ。
「俺の新聞を書く事に怒ってる訳じゃないんだよ! 唯一言くらいあってもいいんじゃないかなぁ〜〜って思って君が丁度よくいて聞いてみようとしただけだから!! ほら顔を上げなさい綺麗な顔が台無しだよ!」
「だって……」
「だってもヘチマもないから立って」
女性に土下座させるなんて俺の良心が痛む。
「ほら有名人や人気者ってよくパパラッチされてんじゃん! 大丈夫大丈夫君は悪くない!」
「いや私が悪いわ」
もう面倒でごさんす。
「立てや……おら立て!!」
「えええ……何で謝ってる方で怒られてんの私」
「怒ってないのに土下座見せられて良い気分はしないからな」
「分かったわ」
渋々だがようやく立ってくれた。さて話はここからだ。
「これを書くに至った経緯は?」
「悠人君が男性で他と違うから。将来様々なネタやスキャンダルを追い求めたいからチャンスだと思ったの。それに他クラスの人から悠人君の記事が見てみたいと言われて」
「要するに君が俺を書いていたのは練習みたいな?」
「うん。それに今は悠人君のファンクラブもあるのよ」
「はい?」
「これを見て」
そう言って近くにあるテーブルにパソコンを持ってきてあるサイトを開く。iDとパスワードを入力していくと、
【悠悠ファンクラブ】
ファンクラブまであったとは、まぁパソコン持って来た時点で察しはついていたけど。
「現在の会員は10000を超えたらしいわ」
「ふぁっ!?」
「子から親へ、親から親戚、その親戚から親戚へ、そのまた親戚から親戚へと悠人君の情報は伝わっていった。はっきり言って私の作っている新聞はその人向けでもあるの。これからも会員は増え続ける一方よ。あっ……また増えてる」
「俺の身の安全がやばいんじゃ?」
「安心して、貴方が女装して外出しているのは流石に載せてないわ。」
「そうか、ありがとな」
「お礼を言われることじゃない。どうせ他の人から広まってる」
「まぁ君になら新聞を書き続けても構わない。俺が認める。だから好き勝手やりなよ」
「え?」
どうせやめろと言っても他の人がやり始めるだろう。なら少しは信用できる彼女に書き続けてもらおう。
「んじゃ、頑張れよ」
「やっぱり悠人君っておかしいわ」
「自分でも思う。頭のネジが外れてるって書いといて」
「そう、……書かせてもらうわ!」
「まぁ良いネタないと思うがな」
「男性ってだけでネタは充分♪ そのままでも問題ないわ」
うへぇ……何で?
「男性は希少、そして悠人君みたいな人は何回人生やり直しても会えるかどうか分からないの。私からも一言言っておくけど悠人君はもう少し自分の価値を分かっていた方が良いわ。私のお母さんもファンだし」
「そうか、まぁでも俺らしく生活出来たら満足なんでな」
「でもまぁこれからも付きまとわらせてもらうわ」
「じゃあ付きまとってください」
俺はストーカーを容認したのかもしれない。まぁいいか。
「あっ……ネタあったわ。ほれ」
俺は記念に持っていたウェディングドレスの写真を渡す。
「!!……これは特ダネ。いいのかしら?」
「ファンサービスってやつだ。使ったら返してくれ。じゃあな」
「分かった。またね」
そして彼女はそのまま作業に取り掛かり、俺は帰路についた。
さて、とりあえずミサンガ作ろ。
ーー次の日ーー
ミサンガ持って登校。教室に着くと俺の机の上に昨日渡した写真と新聞が。
さてさてどういう出来ですかね。
【祝公式認定! やっぱり彼は頭のネジが外れてる!!】
………。
「や〜な〜ぎ〜だ〜〜!!!」
確かに書いていいと言ったがここまで大きく書くんじゃねえ!!
俺はとんでもない問題児を放置したらしい。
あっミサンガは大好評でした。




