2 常識を確認
俺が生まれ変わってから5年が経った。慣れれば早いものと思いたいがそうもいかない。俺の今住んでいる世界は前とは大きく異なっていたのだから。
この世界は男女の貞操観念が逆転している。いわゆるあべこべというやつだ。そしてネットで調べたが男女比が1:50というどこぞのラノベのみたいな世界観だ。
これを知ったのは1歳ぐらいのときだ。家でニュースを見ていたら、
『前日〇〇学園の前で男性が襲われるという事件が発生しました。その後、犯行した女性はすぐに捕まり、「ムラムラしてやった。後悔など存在せず」と供述しており……』
驚きで言葉が出なかった。まぁ赤子なんで「あう〜」とかしか言えないんですがね。しかし、貞操観念が逆転はどうでもいい。これは自分が気をつければなんとかなる。
問題は男女比だ。さっきも言った通り1:50。これはとてもまずいのだ。これほど少なければ女性が男性を求めるのは必然。それも前の世界より比較にならないほど。
赤ちゃんの時、真夏に抱かれながら外に出る。そして俺を見た周りの女性は獲物を見つけた野獣の目をしていた。赤ちゃんにそれほどの目線を向ける。人によっては、「はぁはぁ……」と顔を赤くして今にも近づいてきそうな勢いだった。それ程女性は男性に飢えているのだ。
精神年齢が高校生の俺でも恐ろしく思えたのだ、これを普通の赤ちゃんが耐えられる訳がないだろう。多分この世界の男性は女性を嫌っていると思う。
なんとも生きにくい世界だな。
だからといって家でニートっていうのは嫌なんだよな。だからといって働き口は限られているし…。元普通の高校生、もとい地味〜な俺がアイドルになるっていうのは何かと抵抗がある。
……はぁ。
「にーちゃ!」
「どうした優菜?」
「だっこ!」
「おう、任せんしゃい」
そういえば紹介していなかったな。3歳の妹の優菜だ。ああ、とても可愛い妹です。しかし、子供生まれてその1年後にまた子供作るって結構真夏も無茶するんだなって思ったよ。
その間俺も病院に預けられてたから特に問題は起きなかったけどな。
ちなみに俺の母さんの名前が木下真夏。みんなもお分かりだろうが、俺は母さんのことを名前で呼んでいる。簡単に言えば真夏から「名前で呼びなさい」と言われ続けたからだな。「ママ」ではなく「真夏」と。前世でも子供が親を名前呼びするのは珍しくはあったけど無いわけじゃなかったからな。
それに前世では妹がいなかったのでちょっと嬉しい。しかも俺を慕って「にーちゃ」って呼んでくれてる。うん、愛でるのは確定ですわ。
「にーちゃの体……ポカポカする!」
「……そっか」
「えへへ〜♪」
可愛すぎんだろ。ぎゅっと抱きしめてやると抱きしめ返してくる。そして顔を胸元に寄せてスリスリさせている。……天使やこの子。
真夏は今日は仕事。休日出勤らしい。そんで優菜は保育園は休園日、俺は元々暇。つまり優菜と2人きりというわけだ。
男性の俺は保育園、幼稚園を行く必要がなく、小学校から行けるようになる。行けるだけであり、行きたくなければ行かなくていいらしい。男性の義務教育は中学からだからそのせいだろう。
俺? 行くに決まってんじゃん。暇だし。
まぁ後2年先のことなんだけどねぇ。
「にーちゃ、なでなで!」
「はいはい」
でも今は目の前の天使な妹を愛でるとしよう。できれば反抗期がこないように育って欲しい。「クソ兄貴」とか言われたら立ち直れそうにないのでな。てか抱っこしながら撫でるとか無理なので座りながら撫でる。
そして時刻は午後2時。リビングにいるが、土日のテレビは朝と夜以外子供向け番組が少ない。
「ゲームしてもいいか?」
「うん!!」
優菜はゲームをしない。ゲームしているところを見ているのが好きらしい。俺も見ているのが好きなんだけど5歳でバイオとかFPS、ホラゲなど見てたら真夏や優菜に色々と心配されそうなので2人がいない間に見るようにしている。
やるのはスーパーマリア。任○堂のあれと同じゲームと思ってくれていい。
「さて、やりますか」
「いけ〜! にーちゃ!!」
「任せんしゃい」
優菜は俺の胡座を組んでいる足の上に座り、俺の体に寄りかかる。リビングでゲームやテレビを見るときはいつもそうしている。
だが始めて1時間くらいには飽きてくる。なんでだろうな。なんか操作性が少ないとなんか面白いと感じない。
「にーちゃ、眠い」
「寝るか?」
「……うん」
どうやらつまらなかったらしい。これならアニメでも見てた方がよかったかもな。
とりあえず布団を敷く。床に寝かせるのは体に良くないからな。そして毛布を押入れから出す。
「優菜、用意したぞ」
「にーちゃ、ありがと」
眼をこすりながら布団へとポスッと体をあずける。
だが俺は眠くないので適当に……
「……にーちゃも一緒に」
「あいよ」
俺は優菜の隣に寝る。
普通断れないよな。逆にこれを断る奴を見てみたいよ。
そして俺が隣に寝たのを確認した優菜は俺の腕を枕にして顔を俺に向けたまま寝る。
「おやすみ」
「ああ、いい夢見ろよ」
俺も毛布を優菜にかける。
騒がしいのも好きだけど落ち着いた日常も悪くない。中学、高校はオタ友とはっちゃけてたからな。
そうして俺は眠りについた。
そして起きた時には真夏も俺の腕を枕にして寝ていた。起こすのも悪かったので2度寝しようとしたけど……
腕が痛くなって寝れるはずもなかった。