14 夏休みの前日
「明日から夏休みね」
「そういえばそうだったな」
「もう悠人君…どうしたの?」
「夏は暑くて嫌いだから早く秋になって欲しい。過ごしやすい秋に」
「あーいつも着替え持って来てるもんね」
「私も夏は嫌いです」
本当に暑いのは嫌なんだ。俺は代謝がいいので汗を掻きやすい。自転車で学校来るだけでもうTシャツは汗でベトベト。着替えが毎回いるのだ。
それに上半身裸で家にいた時、
『悠君は少し恥じらいを持ちなさい』
真夏に普通に怒られた。少しこの世界に慣れたこと、特に大きな問題が起きることのない日常で危機感が薄れているのかもしれない。気をつけねば。
「悠人様は夏休みどこか行く予定はありますか?」
「いや…特に何もないな。みんなは?」
「私もないわ」
「私も〜」
「私は習い事や家の都合で色々予定があります」
「俺はとりあえず夏休みの宿題を早めに終わらせる事から始めようと思ってる」
最低でも8月に入るまでには宿題を終わらせよう。残り数日の間に取り組むなんてしたくないからな。
「……そう」
「あー宿題面倒くさいな〜」
「里奈は宿題サボってゲームばっかりだろう?」
「うっ」
「ダメですよ里奈ちゃん。ちゃんと宿題しないと」
「うっ」
「だらけてるとまた居残りになるわよ?」
「うっ」
どんどん小さくなっていく里奈。少し言いすぎたか?フォローしておこう。
「……まぁあまり羽目を外し過ぎないようにな」
「ふふっ…やっぱり悠人君は優しいね」
「やっぱり今の無しな」
「え〜〜?」
「では夏休みにみんなで勉強会しませんか?」
「いいんじゃないかしら」
「賛成!」
「俺も別に問題はないと思う」
「みんな〜そろそろ移動するから廊下に並んで〜!」
「…そろそろ移動するか、話は後でだな」
「そうですね」「そうね」「うん!」
みんなは廊下で背の順で並び体育館へ向かう。
俺は男だから1番後ろだ。
『夏休みも羽目を外しすぎないよう落ち着いて生活を…以下略』
まぁ何もなかったよ。強いて言えば校長先生の話が長くて寝てるくらいだったよ。
「では楽しい夏休みを過ごして下さい」
「「「「「さようなら」」」」」
HRが終わると同時に携帯のバイブが聞こえたので携帯を開く。
【さっきの話の続きをしたいのでしばらく残って頂けますか?】
ふむ……確かに今女の子に話しかけられてて話せない状態。とりあえずここは帰るふりをしよう。
「俺今日早く帰んなきゃまたな!」
「うん!!じゃあね!」「またね!!」「また二学期!!」「私の事忘れないでね!!」「やっぱり今日もカッコよかった!!」
【とりあえず人がいなくなるまで待つか?それとも別のところに集まるか?】
【いえ…その鮫島さんにも悠人様のLI○Eのアカウント教えてもいいのでしたら別に集まる必要はないんですけど】
【別に問題はないから教えてもいいよ。というか家に帰ってゆっくり話した方がいいだろう】
【ありがとうございます(^^)】
【良いってことよ。それなら一旦家に帰ってからだな】
【分かりました、では後程】
とりあえず家に帰ろうか。
「おかえりーにーちゃー!!夏休みはイッチャコラしよう!!」
帰って来た俺に抱きついてくる優菜。やはり優菜は天使だなぁ。妹万歳。
「ただいま…はっはっは…どこで覚えてきたんだそれ」
「幼稚園の先生の…」
「先生の…?」
もしかして、もしかしちゃってエロ本か?ダメだよ優奈、せめて小学校高学年になってからじゃないと。
「ポエム」
……んなもん幼稚園に持ってくんじゃねぇよ。
「で内容は?」
「えっ……と」
"ああ…貴方と知り合いたい。私が貴方を貴方が私を知れば必ず結ばれるはず…。さぁ私と一緒にイッチャコラ"
……。
「優菜これ見てどう思った?」
「にーちゃが思い浮かんだ!」
「うん……今はそれでいい」
その幼稚園の先生は実はストーカーしてるんじゃないか?
「それよりにーちゃお腹減った〜」
「ん〜晩飯の前に軽く作るから」
「うぃ〜〜!」v(*´w`*)
笑顔でVサインをする優菜。
それを横目に冷蔵庫を開ける。確かハムがあったはずだ。それと卵とパンでハム入り卵サンドでも作るか。
しかし開けてもハムが見つからない。
「優菜〜ハム無かったっけ?」
「…知らない」
顔を背ける優菜。こりゃ確信犯ですわ。
「本当に?」
「うん」
「本当に?」
「食べました」
「よく白状した。卵サンド作ってやる」
「やったね」
俺も学校行く前に何枚かそのまま食ってたから人の事言えないか。
優菜に卵サンドを作り終わってからL○NEを開く。
【ところで勉強会の話なんだけど...】
…こういうのって張り込みしちゃうんだよね。なんかすぐに返信来たら返さなきゃスタイル。通知オンにしてあるんだけど毎回鳴るのはうるさいし。
おっ既読来た。
【私はいつでもオールフリーだからマリアちゃんに合わせるよ!】
【私もそれで構わないわ】
……。
【奇遇だな君達俺もだ。この暇人どもめ!】
【【ブーメランって知ってる?】】
【知ってる】
【お待たせ致しました。では来週の火曜はどうでしょう】
来週の火曜というと4日後か。まぁ何も問題はないだろう。
【了解した】
【こちらも問題はないよー!】
【分かったわ】
【ではよろしくお願いします】
【んじゃあよろしくな】
それを最後に俺はLI○Eを閉じた。
(多分マリアと鮫島さんは終わらせているんだろうな)
ふと思う俺だった。
「ただいま〜」
「「おかえり〜」」
真夏が帰って来た。
「悠くん明日から夏休みだったよね?」
「えっ? おう」
「来週の水曜日みんな旅行行くから開けといて」
「急だな」
「商店街のクジで一等が当たったの」
チケットをひらひらとさせながら見せてくる真夏。
「温泉だって!! 行こう行こう!!」
「その前日マリアの家で勉強会するんだけど平気?」
「2人で?」
「あと2人増えて4人…なんだけど」
「別にいいけど気をつけて、最近悠くん危機感無くなってる。あまりにも感じてないと軟禁しちゃうぞ♪」
「分かった」
キャピッと効果音が出そうなポーズで言う。マジでやらないとは思うけど言ってることは正しいからな。
「温泉!温泉!温…あっ!にーちゃ風呂に入るぞ!」
「了解」
「私も〜」
一家団欒は日常にこそあり。




