13 特にない日常
「…木下君の好きな女性のタイプって何?」
「what?」
「好きな女性のタイプ何?」
いきなりそんな事言われても直ぐに出てこない。しかも授業中だし。
アキバ系が入っていたせいで「恋愛なんてしなくていいや、とりあえず可愛いキャラ愛でとこー!!」だった俺。今思うと恋愛自体を諦めていたかもしれない。
まだ小学生だし、考えなくてもいいかと思ってる。とりあえず優しくしてくれる人は優しく接するスタイルを保つだけだしな。
おっと…話がズレた、好きなタイプか…とりあえず大和撫子とでも言っておくか。
「大和撫子…かなぁ〜」
「大和撫子? それって好きな人の名前?」
ジッ…と目を細めて聞いてくる。クールな女性の目線は怖いです。
「いや、大和撫子ってのはイメージで、性格はおしとやか、凛とした部分もあり控えめな態度。知性的で清楚、誰にでも優しく不快感を与えない。正しく相手に尽くせる女性…ってのが大和撫子だな」
やべぇ、自分で言っててそんな女性いないって分かるわ。だから俺前世でも彼女いなかったんだな。寂しいぜ全く。
「…そう」
それを最後に会話は終わる。
ここで鮫島さんの好きなタイプは何とは聞けない。唯でさえ男女比が激しいのに目の前の男性に好きなタイプ聞くのはアホ。
また彼女に俺のこと好きなんだろ? 告白しろよとか言わせたい自意識過剰な人なんだねとか思われそうだし。
「_____でここの答えは悠人君分かる?」
「えっと……そうかそうかつまり君はそういう奴なんだな」
「うん、正解」
「流石ね、木下君」
「…ありがとう」
言えない、前世で学んだ事あるからとは絶対に言えない。そして俺の頭の中で、
(そうかそうかつまり君はそういう奴なんだな)
と誰かが指差しながら笑っている妄想が広がっていた。
○給食の時間○
「悠人君の好きな女性のタイプって大和撫子なの?」
どうやらさっきの話を里奈に聞かれていたらしい。
「どうなんですか?悠人様?」
あらまぁマリアにも聞かれていたらしい。
次の日のくじ引きで2人とも俺の後ろの席になったから偶然聞いた感じかな。
給食の時間は机をくっつけて4人グループの班になって食べる。つまり、鮫島さん、里奈、マリア、俺の4人グループという訳だ。
いまいちピンと来るタイプがいなかったから大和撫子って言ってしまったが、あながち間違いじゃないので、
「まぁそうだよ」
「それ以外の人に魅力は感じないという事ですか?」
なんか2人とも震えてない?
「いや好きなタイプがそうであってそれ以外は魅力感じないってわけじゃないから」
「そうですか」「そうなんだぁ〜」
「じゃあさ、こういう人嫌いってある?」
オブラートに包んで好みを聞く。こういう事を女子から聞いておきたい。同年代の女子のこういう話を聞いておいた方が後で何かと役に立つ。
「「「優しくなくて無愛想で頭悪くて偉そうで穀潰しな人」」」
……そうならないように頑張ろうっと。全員同じ意見てのはあるのな。
てかそれ絶対嫌な男性のタイプだよな。
「まぁ将来俺もそうなるかもな」
今の俺は前世の知恵だより、それも高校生までのだからな。何処で間違って自分が変わるのかもしれない。
「今から主夫業やってる時点でそれはないと思います」
「そうか?」
「うん、そうだよ」
「ありがとな」
信用してもらえるって嬉しいもんだな。
ん? みんな食べ終わってんじゃん。俺はもう片付けるけどついでだし一緒に片付けようか。
「おかわりするか?しないなら片付けるから食器重ねてくれ」
「あっ…ありがとう」
「ついでだから気にすんな」
どうやら全員おかわりをしないようなので食器を重ねて片付ける。
「ああいう気配りができるからみんな優しい貴方に惚れてしまったのね」
という発言は食器を重ねる音で聞こえることはなかった。
○帰宅時○
今日は日直だったので職員室に学級日誌を書いて先生に提出しに行った。そして教室に戻っていたところ鮫島さんが下を見て何かを探していたので、
「何か探し物か?」
「好きなキャラクターのストラップを落としてしまって」
「探すの手伝うよ」
「…ありがとう」
「おう」
聞いたからには探さないといけない。「そうか頑張れよ」と言って帰る訳にはいかない。
彼女は廊下を、俺は教室を探し回る。帰る時に下駄箱で落としていたことに気づいて探し回っていたらしい。
とりあえず机の下を探し回る。踏んづけて壊してしまったら元も子もない。だが全く見つからない。
(忘れ物箱に入ってんじゃないか?)
教卓の中に入っている忘れ物箱を開けてみるが見つからない。
(ん〜〜ロッカーの上か?)
こういうの忘れ物箱に入れるの面倒だからとりあえず上に置いとけばいいって考えてる人がいればだけどな。
手は届くけど見えないので近くの椅子に乗って見る。ちゃんと上履き脱いで乗ってるから汚れはつかない。
そしてロッカーの上を探すとストラップがあったので、
(多分これか?)
確信はないがこれを彼女の元に持っていく。
「もしかしてこれか?」
「そうそれ……ありがとう」
「おう…じゃあな」
俺は彼女に背を向けて教室に向かおうとすると、
「ちょっと待って…きゃっ!」
と俺を引き止めようとして自分の足を引っ掛けて転ぶ、そして俺も巻き込まれ押し倒される状態となった。まぁ俺がクッションになったおかげで彼女の顔は俺の胸元にある。俺がいなかったら顔面を地面にぶつけていただろう。
「その…ごめんなさい」
「平気だ…怪我はないか?」
「……うん」
「「……」」
「そろそろどいてくれないか?」
「あっ…ごめんなさい」
「おう」
彼女が立ち上がり、俺も立ち上がる。
「じゃあまたね」
そう言って彼女は小走りで去って行く。結局何の為に俺を引き止めようとしたのか分からずじまい。
(何だったんだ?)
そんな疑問を持ちながら俺は帰宅した。
○次の日、教室にて○
「御機嫌よう、悠人君」
「……」
「どういたしましたか、悠人君?」
「……里奈」
「はい」
「俺が悪かったからいつもの里奈に戻ってくれ」
「うん…私もやっててキツかった」
そして、話しているとマリアが登校してきた。
「おはようマリア」
「マリアちゃんおはよー!!」
「御機嫌ようお二人様」
「「………」」
「いかがなさいましたか?」
「「違和感が無い」」
「へっ?」
「さすがお嬢様だな」
「お嬢様だね」
「どういうことですか?」
「こっちの話だ」
「うん」
お嬢様=大和撫子……なのかもしれない。




