122 また、友の家に遊びに行く
「悠人、夏休み空いてる日ってある?」
「今の所は、空いてる」
「埋まっちゃうんだ」
「うん、埋まっちゃうの。俺、一般人なのに」
「ふざけろ」
だれよりもVIPのくせに、変な事を言っている悠人に対して、軽く弄る陸奥。
おそらく、悠人の身内である彼女達や息子達によって、スケジュールは直ぐに埋まるのだろうと予想。早めに声をかけて良かったと安堵する。
「また、家に遊びに来ない? お婆様も会いたがってたし」。でも、断られたらお婆様泣いちゃうかもね、よよよって」
「いや、そう言うのは言わないのが優しさってもんだろ。てか、いつの時代の婦人だよ。そこまで好かれる事した覚えないけど、行く。いつだ?」
「来週」
「急だな、でも空いてる」
「後、普通の格好で良いよ」
「無地のTシャツにジーパンだけど大丈夫?」
「……大丈夫だと思う」
「その間はなんだぁ、おい」
「スポーツスタイルで来たんだから気にしなくて良いと思う」
「……それもそうか。扶桑さんの好きな物ってなんだ?」
「ツーショット撮ってあげれば、喜ぶよ」
「だから、なんでそんなに俺好かれてんの?」
「僕以外兄弟達に何て呼ばれてるか知ってる?」
「知らんよ」
「ババア」
「逆にお前は何で言わないんだ? そういうのって変に覚えたりしそうだが」
「まぁ、いつも良くしてくれるから」
陸奥から見ても、シワ1つない整った顔をしている方だとは思っているが、褒める事などあまりない。それに周りの兄弟達が物心つく前から「ババア」と連呼していた為、それが当たり前だと気にしなくなっていた。
それに扶桑も言われて傷ついた様子もなく、平常なままなので、特に気にしていないのだなと陸奥は思っていた。
悠人に、お母様と勘違いされるまでは。
悠人が帰った後、ご機嫌な様子な扶桑を見て、あっ、やっぱりちょっとは気にしてたんだと改めて思う。そして、偶に悠人がまたいつ遊びに来るのか気にした様子を見せていたし、聞いてくることも何度かあった。
いつもお世話になっている手前、珍しいお婆様からの願い。出来る限り叶えたいと思ったのだ。
「……」
「綺麗で美人だもんね」
「そうだけれども、言うか本人に?」
悠人は、思った。
こいつ、ちくりやがった。
とりあえず、陸奥の頭を軽く叩いた。
「なぁ、陸奥」
「どしたの、悠人」
「俺は遊びに来たんだよな?」
「そうだね」
「何で着物着させられてんだ?」
「それは悠人のせいだよ」
「で、なんでお前は着てないんだよ?」
「動きにくいからあんまり好きじゃないの」
陸奥の自宅に訪れた悠人。
心愛や扶桑と軽く挨拶を交わし、陸奥の自室へと向かい暫くゲームをしていた。そこに、飲み物とおやつを持って来た扶桑と軽く会話をした。召使いである心愛や他の者がいるのにも関わらず、わざわざ扶桑自ら。
その時点で、どれだけ悠人を気に入り、会いたかったのか陸奥は理解した。
「必要なものがあれば、何でも言ってください。直ぐに用意しますからね」
(いや、高過ぎる。兄様達にも、そこまで言ったことないよ!?)
身内以上に好かれている事に親友は気づいているのだろうかと横目に悠人を見るが、「いえ、もう十分過ぎます」と何事も無いように返答していた。
(あっ、これ気づいてないね)
そんな事は知らない悠人。
初対面の時と同じく物の価値のわからぬ者から見ても、高価で綺麗な着物を見に纏って過ごしている扶桑に普段着なのかと聞いていた。
勿論、お気に入りの男性に会うのに、普段着にしている着物を纏ってはいない。滅多に着る事がないお気に入り、それも既に綺麗な状態だったのに、先日に改めてクリーニングに出し直した着物を纏っているのだ。
「前着ていた物より、今来ているデザインが好きです」
「ふふふ、これは私のお気に入りなのですよ」
「そうなんですね、凄く綺麗で似合ってます」
「まぁ!」
(悠人って、何で今まで女性に襲われなかったんだろう?)
陸奥は、素朴な疑問を抱いた。
そんな陸奥を他所に、悠人は扶桑との会話に花を咲かせている。
「俺、あんま着物を着た事ないんですよね」
「じゃあ、着てみません?」
「いやぁ、似合わないと思うんで」
「……そうですか」
あからさまに残念そうな扶桑。
その表情を見て、やってしまったと思う悠人。
そして、陸奥はこの祖母一度しか会ってないのにも関わらず、悠人の事良く理解していると驚いた。
そんな悠人の良心が少し痛んでいる様子に、陸奥は助け舟を出した。
「悠人、折角だし一着だけ着てみれば?」
「……まぁ、誰かに見せるものでもないしな。扶桑さん、一着試しに着ても良いですか?」
「えぇ、以前から、似合うと思う物があったんです! 早速、準備をしましょう。心愛!」
「はい、大奥様」
「あれは?」
「此処に」
「よろしい」
良さげな返答をした途端に、準備が早い扶桑と心愛に悠人は思った。
これ、あれだ、俺をよく知られてる。
確かめる様に陸奥へ視線を向けると、静かに頷いた。
ご愁傷様。
読唇術が無い悠人でも、ハッキリと分かる様に陸奥は唇を動かした。
そんなこんなで、着物に着替えさせられた悠人は、暫くその姿で過ごす事に。
「意外と窮屈だな」
「でしょ? でも、折角だから写真撮ろ? ほら、悠人真ん中に来て」
「分かったよ」
悠人を真ん中に右は陸奥、左は扶桑と挟む。
3人で写真を何枚か撮影した後、陸奥とツーショットを数枚。そして、扶桑、心愛とのツーショットを数枚撮影した。
「んじゃ、またな」
「うん、今日はありがとう!」
「いや、俺も楽しかった。扶桑さん、心愛さん今日もありがとうございます。お土産まで頂いてしまって。また、遊びに来ます」
「大したものではないですけれど、そう言っていただけるのは嬉しいですね。ねぇ、心愛?」
「はい、いつでもお待ちしております」
それからあっという間に時間は過ぎて、夕方頃。1人で帰らせるなんていけないと悠人は自宅の前まで送られた。
3人が車に乗り、悠人の家を後にする。バックミラーを覗けば、悠人は家に入る事なく、ずっと見送っていた。
「お婆様、どうしたの?」
「陸奥、悠人さんはまたいつ来れるかしら?」
「いや、まだ悠人の姿見えてるんだけどっ!?」
「老い先短い人間に、やっと密かな楽しみが出来たというのに」
「まだ、65でしょ? 長いじゃん」
「歳を取ると、時間の流れが早く感じるのですよ」
「お婆様って意外と面倒くさい性格してるんだね」
「陸奥、覚えておきなさい。女性は、皆面倒くさいのです」
「もう呼ばないよ?」
「大丈夫です、L⚪︎NE交換してますから」
「抜け目ないっ!?」
「ふふふふふふふ」
(悠人、とんでもない人に好かれちゃったよ)
陸奥は、悠人に対して内心合掌をした。
数時間後、
【陸奥、助けてくれ。扶桑さんからお土産に貰ったやつなんだが、角が立たない理由で返せないだろうか。うちの箪笥に入れておくには、凄く勿体無い】
「……お婆様?」
「あらあら、……お可愛い事」
「いや悠人、可哀想」
【無理だね、年に一回くらいは着てあげて】
【えぇ? まぁとりあえず、ケースは明日届くから保管しとくよ】
【うん、そうしといて】
陸奥は笑みが絶えない祖母を横目で見ながら溜息をはいた。




