118 何でもない家族の会話
『男子に嫌われない為の沢山の行為全集』
「……買ってしまった」
真夏は、新作の小説を求めて本屋へ訪れた。
目当ての物を探し出し、レジカウンターへと向かう途中、デカデカとした広告にふと視線を奪われた。
『これさえ気をつければ、男に嫌われることはありません!』
とても攻めた広告をしている。しかし、悠人をごく一般的な男と同列に扱う事自体間違っている。
だが、ここまで推しているのであれば、少しくらい読んでみようと思い、追加で購入。何故か、レジ会計する時には小説の下に置いて。
帰宅すると、早速新作の小説をそっちのけで、本を開いた。
『身内であってもスキンシップは絶対辞めましょう』
真夏は本を閉じた。
(初っ端から、話にならないなんて)
最初から全く当てにならない事が判明してしまった事にちょっと購入した過去の自分を問い詰めたくなった。
実際、スキンシップは過剰と言ってもおかしくないほどやってしまっている。真夏は、最近は頭を撫でたり、脇腹を突いたりする程度。アダルト組は、その程度に留めている。
他を挙げれば、優菜は服の中に入り込み肌に直に触れている。夜々は膝の上に座るし、花香は毎回背中に抱きついているし、マリアと明日香は、隣が空いていれば肩が触れそうなくらいの距離で座る。里奈と早苗は、膝枕を要求するし、柳田はそもそもストーカー。
恋人関係には未だ至っていないというのに、この状態である。恋人関係になったら、必ず羽目を外す。絶対そうする、私もそうする。
息子の将来が少し心配になりつつも、先の未来の話だから気にしなくても良いかと未来の自分に丸投げ。
ため息混じりで、眉間を少し揉んだ後、再度本を開いた。
『男の言うことに文句を言わない事』
駄目だ、めちゃくちゃ我儘言ってるし、口を出す事が多い。譲れない場合は、はっきりと嫌と言ってくれる。それで嫌う事など絶対にあり得ない。
「もう売りに行こう」
「何が?」
「きゃあ、悠君!?」
いつの間にか近くにいた息子に驚く。
いつもイタズラしたりしている事もあって、音も無く近づいて声をかけられてしまった。しかし、今回はちょっとタイミングが悪い。
「ただいま、返事返ってこないからだいぶ集中していたようだな。ん?」
「……あ」
本のタイトルを見られてしまい、何と言おうか考えている。しかし、咄嗟のことなので、上手い言い訳が見つからない。その前に、悠人が発言をする。
「良い男でも見つかったか?」
「いや、見つけてない」
「そうか」
「逆に、出会いあると思う?」
「ありそう」
「……嬉しいけど、ないの」
まさかの即答され、女性として魅力があると褒められて悪い気はしない。実際探してもいないし、これからも探す気もない。よって、出会う事など全く無い。会ったとしても、以前悠人が弁当を忘れた時に学校に届けた時に、陸奥と会ったきりである。
だからといって、親密な関係になりたいとは考えなかった。
「あのね、悠君。男って、出歩く方が珍しいのよ」
「そうか?」
「それは、悠君の活動が幅広いからいる様に見えてるだけ。貴族とのパーティ、グラウザーとしての活動、そして学校にも行っているから」
「…… そいや、そうだな」
「そうなの。うちの会社じゃ、社長でも滅多にあるかないかなんだから。それで、悠君はどうなの? 最近は、良い子見つけてないみたいだし?」
「……別に探してる訳じゃねぇけど!?」
「えー、ほんとかなぁ? 蒼星さんだっけ。あの子は、どうなの?」
「いや、自己紹介だけだな。男三兄弟いるだけに初対面でも平然としてからやっぱり男慣れしてるなって思ったけど。まぁ、会う気もないし、会う機会も無いだろ」
「ほんとに〜?」
「下手に関わって、昼ドラも真っ青になる展開が見えてる」
「あっ」
兄弟3人に溺愛された女の子。手を出せば、何も起きないはずもないと容易に理解出来た。目に見える地雷を確認して尚それを踏もうと思うのは、愚か者のする事であり、悠人はそれに該当しない。
「だから、現状維持が大事」
「そう」
「それにそんな事したら、皆から拳が飛んでくる」
「皆強かになったね」
「我、希少存在男子ぞ? 最近、遠慮が無い」
「希少価値高いのに、異常持ちはその限りではないのよ」
「まぁ、俺としては今の距離感が良いから言う事無いけどなぁ」
「ただいまぁ〜!」
「「おかえり〜」」
「むむっ!」
優菜が帰宅。
返事をする2人であるが、対面で会話している姿を見て、優菜は訝しんだ。また、この2人はセンシティブな内容を私抜きで話していたのだろうと。
「また、私は仲間外れ?」
「いや、真夏の買ってきた本について話してた」
「あっ、それ私も買ってきた」
「……oh」
「だって、絶対に嫌われないんでしょ? 気になるじゃん」
「全然参考にならなかったけどね」
「へぇ〜」
「我が妹、ハグでもします?」
「しまぁす!」
『身内であってもスキンシップは絶対辞めましょう』
「突然変異ってレベルなのかしら?」
「あの、そういうの本人の前でやめない?」
「ごめん、独り言」
「いや、駄目よそれでも」
「にーちゃ、我儘言わないの!」
「俺、泣くぞ?」
『男の言うことに文句を言わない事』
「悠君、悠君」
「はい」
「やっぱり突然変異だよね?」
悠人は、リビングの端で膝を抱えた。




