116 事後とテスト勉
握手会が特に大きな問題も無く終わった。
握手会は。
その後、あらゆるSNSのトレンド1位を獲得する程に驚く者は少なく、当然といった反応。しかし、実際に行われたのが握手会通り越して、撮影会というのは、ファンでなくとも「それはずるくない!?」と荒れた。
骸骨のフルフェイス仮面付けているとはいえ、男との写真撮影。運良く写り込んでいるものでさえ、一般的にファンからすれば失神ものである。
それが、なんと隣や後ろに立って一緒に撮影なんて、一般からすれば、一生に一度あるかないかという話。というか、無い方が普通である。
しかも、人数が少ないことをいい事に3枚も撮っている。
やっぱりずるい。
しかも、ちっちゃい子供なんかは抱っこしてもらっていたという。頭も撫でてもらって、胸に顔を埋めても、何も言わず、逆に笑い飛ばしていたという。
は、キレそう。
そんな中、後の配信にて奴はこう語った。
「でも思い出、作れたろ?」
……。
「野郎と写真撮れるのは珍しいって聞いたし、良かれと思ったが、ここまで荒れるのであればもうしない。安心しろ、もうしない。もうしないから、この話は終わりだな!」
更に、荒れました。荒れてしまいました。
奴も、SNSで散々弄られているからこそ、ここぞという時に炎上するような発言を意図的にするようになっていた愉快犯。本当にタチが悪い男であった。
「皆、ミルクティー入れたぞ」
「……」
「……里奈、ミルクティー置いとくぞ」
「ありがとう。後、ここ分かんないだけど」
「どれどれ?」
とまぁ、世間は荒れに荒れているが、そんな事はさておき、里奈にとって初めての期末テストが訪れようとしている。学年が上がった分、今までより科目は増え、難度は高くなる。
赤点を取れば、夏休みの課題を倍に増やされるという恐ろしいペナルティを課せられてしまう。夏休みの間に補修を受けるというのは、浅野中にはない。
『……ゆうとくぅん、……てすとはんい、ひろいぃ』
『アホだな、お前』
女の子の拳が飛んできた。
全く勉強をしていない里奈は悠人に泣きついた。それはもう、普段は絶対にしない後ろから腰に手を回して、逃がさないようにするくらいには。
こうなるだろうと思っていた悠人は、ため息と文句を垂れて里奈に手を貸す事を決めた。だが、そうはいかんと邪魔をする者はいた。
「……」
「……」
「……」
「……」
しかし、その邪魔をしようとしていた4人も、黙々と問題用紙を解いていた。先程から、リビングに響き渡るシャーペンの書く音が響き渡っている。
夏休み前、それも1年生の定期試験で、ここまで本気で取り組む人間を悠人は前世含めて見た事がない。まるで、偏差値の高い学校に行く為の受験勉強をしているピリついた空気に悠人は少し緊張していた。
(いや、里奈に教えてあげて欲しい……とは言えない)
そう、隣で頭を抱えながら、問題を解いている里奈を放置している。里奈の完全な自業自得であり、彼女達からすれば日々復習しているのに、それを怠ったツケが回ってきているだけ。しかも、小学校から何度も同じ失敗しているというのに、全く学ばないのだから、文句の一つも言えない。
だが、元々成績優秀者である彼女達が鬼気迫る勢いで、テーブルへと向かっているのは、理由は一つしかない。
全部このくそボケのせいである。
『テストの結果で上位に入ったら、何かしよう』
『録音したわ』
『はっ、柳田お前何してんの?』
『悠人様、私学年1位を目指します!』
『お、おお、マリア頑張って!』
『では、1番成績の良い順にお願いをするという事に致しましょう。良いと思いませんか、明日香』
『そうね、そうしましょう花香』
『えっ、えっ?』
『悠人君、ここ分かんない』
『……おう』
軽はずみに発言した所為で、録音された上に、勝手に物事を進められてしまった哀れな男。しかし、やる気を出した彼女達に水を刺すわけにもいかず、まぁいっか程度に最終的には勝手に納得した悠人。
試験を受ける必要のない悠人は、飲み物やおやつの準備し、里奈の面倒を見ていた。里奈の疲れた様子を見れば、頭を撫でたり、激励をする事によって勉強の意欲を高めた。その度に、隣で集中している成績優秀者にも、激励の言葉は伝えないが撫でてやり、自身に刺してくる厳しい視線を柔らかくすることもする。
そうして、その生活を繰り返すこと数週間、
「やったぁ! 83、83点だよ! ありがとう、悠人君!」
「そこは、100点取れよ」
「いや、十分十分」
「でも、まぁお疲れ様」
課題が増えない事に、大変ご満足なのか自宅に来た瞬間に抱きついてくる里奈。背中を軽く何回か叩いて、労いの言葉をかけた。
「悠人様」
「あっ、はい」
「全員が学年1位でしたの。里奈さんを除いて」
「花香。そいつぁ、すげぇな」
「ですので、先にジャンケンで決めまして、まず私からお願いを聞いてもらいたいのですが」
「うん」
「まず、思ったのです。毎回背中に抱きつくのも、面白味がないと」
スキンシップ多めの花香に対抗してなのか、他の面子も最近少しずつその兆候が見られている。しかし、花香と比べると手を繋いだり、肩に頭を預けたりと、ささやかなもの。
なんとも贅沢な発言だ。
「んじゃ、俺からすれば良いのか?」
「……はぃ?」
確かに、面白味がないと言った。だからといって、悠人から今すぐスキンシップを取って下さいと言った訳ではない。
花香としては、後ろからあすなろ抱きをして貰うつもりだった。
返事を聞く前に、正面から抱きついてきた悠人に、花香は一度思考を停止。普段から、一声かけて返事も待たず、背中に抱きついてくるというのに、相変わらず悠人からされる事には慣れないご様子。
しかも、花香は悠人より少し身長が低いせいで胸に顔を埋めてしまう体勢となってしまった。その逞しい雄っぱい、年頃の女の子にとっては禁断の果実そのもの。
「……少し、やり過ぎたか」
「……ぴゃぁ」
花香は、死んだ。
そんな花香を悠人は優しく抱っこをして、ソファに寝かせた。
自分からは躊躇いなくしてくる癖に、何故からするのは駄目なのか悠人はちょっと分からない。乙女心というのは、いつの時代も厄介である。
そして、ふと視線を感じて振り返れば、期待の眼差しを向けてくる彼女達。
「次は、どなた?」
両手を広げて、近づいてくる悠人の胸に、1人は身体を預けた。




