114 お兄ちゃんは心配症
「…….優菜」
「にーちゃ、どうしたの?」
「最近、学校はどうだ?」
「とても楽しいけど……急にどうしたの?」
「いや、たいした事じゃない。学校の話を聞かなくなったからな、皆元気にしてるか?」
「うん、喧しいくらいに」
「そうか」
まるで、会話に困った親の様な話題の出し方に少し違和感を覚えた優菜。そして、柳田達から新しい友達が出来たという話を思い出す。
何と、兄が3人おり愛されているらしい。しかも、自身の兄と違い偏愛主義であり、常に注がれ続けているおかげもありイジメられていたという。
ははーん、この兄。愛する妹がイジメられていないか心配しているな? 優菜はとても賢かった。
確かに、愛されているという部分のは、全く同じ。だが、誰にでも分け隔てなく接し、ファンクラブの設立の許可、他にも本人の自覚はしてないだろうが色々しているからこそ、優菜の存在が皆の嫉妬心を煽ることはなかった。逆に、献身的過ぎて優菜に悠人は大丈夫かどうか聞きに行くほどである。
一般的な男性は、女性に対して、傲慢、我儘、自己中心的である事が普通。しかし、悠人は、誠実、謙虚、他人本位と真逆の性質を持った善性の塊みたいなアホ。
そんな悠人が、怒っている姿は、いつだって戯れ程度である事は皆理解した。廊下に響き渡った「や〜な〜ぎ〜だ〜!!」の怒り口調は某ドラマの看護師が先輩に怒られるシーンを彷彿とさせていた。
冗談が通じて、反応してくれる。だから、皆は悠人を揶揄っていたし、悠人もキレ芸をした後は一緒に笑っていた。
じゃあ、彼がどんな理由でキレるのかと聞かれれば、誰だって分かること。身内以外あり得ない。
悠人のファミリーコンプレックスは、周知の事実である事は見て分かる。変にプライドを持たないせいもあって、聞けば頷く。それを見て、溺愛していないと誰が考えられようか。
また、理由を聞けば、身内の自慢話が恐ろしい程に出てくる。そして、一度だって、「俺の妹だから愛するものだろう?」という無条件で曖昧な理由で好きである事を語らなかった。だって、聞いたらこちらがゲンナリするくらいに身内を語ろうとするから聞く者が普通に少ない。一応、「まだあるけど、聞くかい?」と時折一言あるのは配慮があるけれど。
そこまで語られて、危害を加えたら、どうなるか直ぐに理解できる。
だから、優菜はイジメの標的になる事はなかった。
「にーちゃ、私はイジメられた事はないよ?」
「お、おう?」
「にーちゃ、露骨すぎぃ〜」
「……そうだったか」
「下手だなぁ、にーちゃ。話題の出し方が下手」
「うん」
「でも、もしそんな事あったら鎮圧するから。私これでも強いんです!」
「俺も呼べよ?」
「阿鼻叫喚になるからヤダ」
好きな人にブチ切れられて、この先の人生真っ当に生きられるかと聞かれれば、無理である。それに優菜自身が、本気で怒った兄の姿を見たくないのもある。だが、その理由が自身であることに嬉しさを感じてしまう欲深い自分がいる。
「でも、だいじょーぶ!」
愛しい兄の前では、殆どが些細な事なのだから。
「にーちゃは、どうなの?」
「俺は特に、友達も出来たし、何ならバスケのサークルみたいな事になってそこで何人かに教えてるくらい。後は、皆俺の正体に察してるけど、何も言わないから過ごしやすいな」
「へぇ〜」
「ほうした?」
「何でもなーい」
「そうか」
悠人の頬を優しく引っ張る優菜。
突拍子もない行動に対しても、兄は変わらず微笑みを崩す事なく、お返しと言わんばかりに頬を触れてくる。
「買い物行くけど、どうする?」
「行く!」
「何が食べたい?」
「お好み焼き!」
「なら、もんじゃも食いたくなるな」
「早速、材料買いに行こう!」
優菜は、悠人の手を引いて玄関へと向かう。
「あっ」
「どうした?」
「んーん、何でもなーい」
優菜は、訝しんだ。
愛する兄が手を握った時に、恋人繋ぎに握り返してくる行為にとても訝しんだ。他も常日頃から恋人繋ぎをしているので、繋ぎ直す癖がついてしまっているのかもしれないと。
(まぁ、これは、これで良いかも!)
良い傾向と考え直した優菜であった。




