113 その後のちょっとした話
春妃が妊娠したという話を聞いて、その周りの女性達が何も思わない筈もない。その友人である彼女達も少なからず意識をしてしまうのが、乙女心というもの。
今はまだ、時期ではないにしろいずれはそういう関係になり、互いに愛し合って出来ればなぁ〜と思いを募らせるばかり。
だが、やはりというべきかいざその相手が目の前にいるとなると、意識してしまう。よって、彼女達がちょっと顔を朱に染めてちょっと避けてしまうという前にも似たような現象が起きた。
そんな様子を見て、真夏は悠人にカウンセリングとして、話題を出した。春妃が妊娠したのを聞いて、いつも身近に居る男性に意識してしまっただけだと。
そんな中、悠人の率直な疑問を聞かれた。
「……真夏は子供、欲しいと思うのか?」
「うぇ!? う〜ん、どうだろう。年齢的には、まだいけると思うけど」
「真夏が欲しいなら俺は別に構わないけどさ」
「悠君は、どうなの? 妹か弟、欲しいの?」
「いや、欲しいかと言われればそうでもない。だからといって、いらないとははっきり言えない」
「そう」
「それに、俺の知らん所で娘、息子生まれそうだし」
「……あー」
数ヶ月前に、義務として遺伝子提供をする為に、同伴した真夏以外誰にも知らせず施設へと赴いた。そこで待っていたのは、初対面であるのにも関わらず、悠人の名前を呼んで説明をしてくる受付の女性。
そして、遺伝子を提供をした後、己を待っていたのは、先程までいなかった多くの従業員達に感謝をされ、見送られた。はっきりいって、事を済ませた後だったのでそっとして欲しかった感は否めないが、有名税として自身を納得させた。
大変感謝された様子を見るに、いつかは自身の遺伝子で、子供を育てようと考える女性が数人いるという事が分からない程、悠人は鈍くはない。逆に、将来泥沼な人間ドラマを起こすフラグの様に感じ不安を覚えた程。
「昔、男性アイドルが遺伝子提供して、それを知ったファンが子供作るっていうベビーブームも来てたから、それに近い何かは起こるんじゃないかな?」
「知りたくなかったよ、そんな事」
「悠君は、人気だものね〜」
「はぁ〜」
ある意味悩み、不安を増やしてしまったかと心配になる真夏。しかし、1人で変に抱え込まれるより、口に出して共有する方がまだマシと思った。
「まぁ、まだ俺には関係の無い話だし良いか」
「そうね」
「……仮に子供作るとして、女性ってのはやっぱり気になるものなのか?」
「何が?」
「順番」
「あーーー、うーーーん、うん」
「そっかぁ〜」
その手の話題はよく女子会で出てくる。
やっぱり誰だって一番最初にして貰えたという思い出は全員今でも覚えているし、それを聞くたびにやっぱり羨ましいと思う自分もいる。後か先かと聞かれれば、誰だって先にと思うし、真夏だってそう思う。
息子の中では、全員上下が無く大切なのは知っている。けれども、息子は1人。何事にも不可能な事はあるのだ。
こればかりは、どうしようもない。
女子会で1番荒れそうな話題をここで得てしまうとは、悠人のカウンセリングした結果、自分達にも、悠人にも大きな悩みが出来てしまったことに真夏は首を曲げた。
「ただいま〜!!」
「お邪魔しまーす!!」
カウンセリングがひとまず終わったタイミングで、優菜と早苗が自宅へ到着した。
2人は、同じ事を疑問に感じた。普段であれば、テレビのあるリビングにて真夏が悠人の隣に座り、ドラマや映画を楽しみ、悠人はスマホを触っていたりするというのに、今回はキッチンのテーブルに向かい合わせに座って出迎えていた。
何か、大切な話があったのに違いない。
「何、話してたのー?」
「んー、俺の子供が出来るかもって話」
「「!?」」
「悠君、数ヶ月前に遺伝子提供したから、そのせいで知らず知らずに子供が出来るかもっていう話」
「あ、あぁ」
「……ほっ」
いきなり、誰かに抜け駆けされてしまったのかと一瞬勘違いしてしまった2人。しかし、真夏の一言で動揺は無くなった。そして、意図的に勘違いさせようとした発言をした悠人の頭を真夏が軽く叩いた。
明らかなブラックジョークであるからして、悠人は少し反省した。
「そういえば、春妃さんって誰の遺伝子に決めたんだろうね?」
「優菜、そういう話は、踏み込まないんだよ〜」
「ママ、分かった。春妃さんには聞かないでおく」
「へぇ〜、そうなんですね。でも、お兄さんはどういう人にしたんですか?」
「いや、私の誕生日で決めたから、顔までは把握してない。でも、私似だから別に良いかなって」
「まぁ、そうですね。似てないパーツ探す方が難しいというか」
「ふふーん! 自慢の息子なんだから!」
そう言いながら、悠人の頭を撫で始める真夏。
これには、悠人も静かに微笑んでなされるがままに。そして、それに便乗して優菜、早苗も悠人の頭を撫で始める。
悠人を囲んで、頭を撫で始める行為は、数分続いた。
「にーちゃは、子供何人欲しいの?」
「いや、今欲しいって訳ではないのよ」
「仮だから、仮に」
「……うーん、1人から2人くらいだな」
「え?」
「え?」
「え?」
「うん?」
悠人は思った。
もしかして、地雷踏んでしまった?と。
「……お嫁さん1人につき1人から2人って事だよね」
「……いや、待て。あまり考えてなかった」
「まぁ、今考える事じゃないしね」
悠人の1〜2人という数字は、嫁1人に対しての前世の常識から来たものであった。しかし、強制ハーレムであるこちらに至っては、嫁1人につき2人でも2桁に到達するのである。流石に多すぎねぇか?
頭に手を当てて、深く考え始めた様子の悠人を見て、冗談で言っている様ではないことは理解した。というか、まだ出すべき話題ではないことは、明らかなので優菜が無理矢理話を終えた。
「そろそろ、意識するべきなんだなぁ」
悠人の聞こえないであろうと思い呟いたら、一言を残して。




