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110 女性同士の出会い

 



「……何で、こうなっちゃうんだろう」



 少女は、孤立していた。

 それは、小学校からもそうだった。


 少女は、その原因は分かっている。


 大好きな兄達がいるからだろう。


 物心がつく前から存在し、とても大切にしてくれて、愛してくれていた。寂しい時は何時も側に居てくれていたし、泣いていれば、抱きしめてあやしてくれていた。


 男の人が希少で滅多に居ない。

 ネットやテレビ番組でもよく見かけ、何より3人の兄達に囲まれた環境だったからこそ、少女はそんな事ないんだろうなと思っていた。


 でも、それは小学校から勘違いだということに気づいた。


 最初は、友達も出来た。初めての同性の友達。

 兄達の事は好きであったが、兄達の前では話せない事や、兄達から教えてもらっていない事が知れて、新しい事が沢山増えて楽しかった。


 自身に兄達がいる事を知られるまでは。


 それから自身の取り囲む環境が変わった。


 話題が、全て兄達に変わってしまった。

 どんな顔をしているのだとか、趣味は何なのか、好きなタイプは何なのか、今日は何をしていたのか、数えればキリがない程に聞かれた。


 友達もそうだが、関わりのないクラスメイト、他のクラスからも兄達の話を聞きに来る。自身の兄達だけをいつも聞きに来る。


 誰も、自身を見てくれない。少女という人間を見ようともしてくれなくなった。


 それを心配して兄達は、優しい言葉とスキンシップを取ってくれる。それが、周りに向く事はなく、逆に拒絶をした事で、返って関係を悪化させるきっかけになった事は絶対に言えない。



 中学に上がってもあまり変わらなかった。



 小学生が同じだった人達もいたが、もう嫌われているので気にしていない。最初こそ、兄がいると聞きつけ話を聞きに来るが、それが無駄と分かると勝手に離れていき、邪険に扱われる。


 だが、クラスメイトの半分は、自分の兄達の事など気にもしないで、各々のグループで趣味の話等をしている。

 しかし、そこに自身が加わる事はない。面倒を抱えている自分と関わりたい者は全くいないのだ。


 だから、誰も信用出来ない。

 今更優しくされたからって、どうせ兄達に良いところを見せようとしているに決まっている。


 嫌がらせをされるのも、時間の問題だったかもしれない。


 物を隠されて、悪口を言われて、爪弾きにされて、周りから孤立して、誰も味方をしてくれない。



 同性は、皆敵だ。



 敵なんだ。



 でも、疲れた。



 だから、……もう。



「ねぇ」



「なに? ほっといてよ!」



「それは結構。でもね、人の家の前で泣きながらずぶ濡れになってるんだから無視はできないわ。悪いのは、私の注意を引いた貴女が悪いのよ」



「……」



「寒いでしょ? シャワーと温かい物くらい出せるわ」



「ミルクティーある?」



「作れる」



「そう、ありがと。鮫島さん」



「知っていたのね。蒼星(そうせい)さん」



「一応、クラスメイトだし」



「……そうね」








【ごめんなさい、今日は一緒に食べれそうにないわ】

【分かった。後で、タッパーに入れて持っていくからな】

【とても厚かましいんだけど、1人分追加できる?】


 ずぶ濡れになっていた彼女の様子からして、何も口にしていないのだろうと予想し、大変不本意であるが、悠人に1人分追加をお願いした。


【大丈夫。明日香、もし手伝えることがあれば言ってくれ】


「……好き」


 悠人の気が利いた一言を見て、うっかり好意が漏れてしまう明日香。


「…..シャワー、ありがと」


 そう言って戻ってきた彼女を椅子に座らせる。

 その表情は暗く、面倒をかけてしまっている事に罪悪感を抱いている様子。


「気にしないで、後ご注文のホットミルクティーよ」

「うん」

「しばらくゆっくりしていけば良いわ」


 それから2人に会話は無かった。

 明日香の無表情の仮面は、赤の他人と悠人の前に常に晒されている。そして、喋るのもあまり得意ではない。


「……何も聞かないの?」

「聞いて欲しいの?」

「……」

「……雨も酷いし、今日は泊まっていって」


 明日香は彼女のクラスメイトだから、ある程度の事は理解した。


 3人の兄に愛されているからその嫉妬心から、彼女の嫌がらせが始まってしまったのだろうと。だからといって、それを実際に目撃していないから、周りの目に触れない事をされた筈だと。


(どうしたら良いのかしら?)


 イジメなんて小学校で起きた事も聞いた事もなかったのだから、実際どう解決するのか分からない。

 学校だと揉み消される事が多いと聞く、ならば直接警察にとは思うが、彼女も事を大きくしたくはないだろう。

 男関係であるから、話し合いなんてもってのほかだ。


(これ、無理?)


 明日香は、解決するのを少し諦めた。


「一応、言っとくけど、貴女のお兄さんの事は全く興味ないから」

「えっ?」

「つまり、そういうことよ」

「どういうこと?」


 クラスメイトはコミュ障であった。

 シャワーを借りたし、温かいミルクティーも出してもらった上、突き放した態度をする事はできないとはづきは思っていた。


 鮫島明日香。

 成績と運動能力は上位に位置しており、あの橘マリアと山﨑花香の友人でいつも一緒におり、カースト上位に存在しているグループの1人。


「好きな人いるもの」

「!」


 明日香がいきなり暴露し始めた。

 いや、好きな人がいるからといって兄達に全く魅力を感じないのは納得がいかない。とりあえず、兄達の魅力を弁明しようと彼女は口を開こうとしたその時、玄関のチャイムが鳴ってしまった。


 それを聞いたからだろうか今まで無表情の明日香が少し雰囲気が和らいだ。そして、明日香に一言声を掛けられて玄関へと向かうも彼女の足が軽いのも気になった。


 玄関の位置から見えないように移動して、聞き耳を立てた。


「持ってきたぞ」

「ありがとう」

「……また明日」

「うん、また明日」


 驚いたことに訪れたのは男性。それも、この雨の中一体どんな理由で明日香の家に訪れたのか気になったが、あまりにも短い会話だった為、直ぐに自分が座っていた椅子に座り直した。


 彼女は何処かで聞き覚えのある声と違和感を感じていた。確か、いつも一緒に家のテレビで動画を兄達が見ていて、それに影響されて筋トレを始めていた。


 もしかして、グラウザーの中の人?


「ごめんなさい」

「うん、大丈夫。誰が来たの?」

「私の好きな人」

「ふぇ?」

「本当なら、いつものように好きな人の家で食卓囲んでいるんだけど、今日は特別だから」

「……ごめんなさい」

「気にしないで。せっかくだから、一緒に食べましょう。珍しくトムヤムクン作ったらしいから。辛いのは大丈夫?」

「結構好き」

「そう、良かった」

「というか、付き合ってるの?」

「付き合ってはいないわ。告白もしてないし、されてない。でも、私も彼も好きだから一緒にいる。複雑なのよ、私達」

「……そうなんだ」

「紹介しないわよ?」

「別の問題が発生するから逆に助かるの」

「そう、お兄さんの事?」

「うん、私が他の男の人を見てると拗ねるから。そんなお兄ちゃんも可愛くて好きだけど、偶に口聞いてくれなくなるから」

「愛されてるのね、素敵じゃない」

「……うん」


 初めてであった。

 自分の環境を晒して、妬むのではなく、羨むのでもなく、純粋に認められるのは。


「私の好きな人は、逆なのよ。お前ならもっと良い人見つかるはず〜、とか言って男の気配が近づくと嬉しそうにするの。寝取られ属性ない癖に」

「……ごめん、率直に言ってその人馬鹿?」

「クソボケよ」

「……えぇ?」


 好きな人を貶す発言を聞いて、思考が一瞬停止するはづき。もしかして、好きな人だから弄りたくなるという加虐心を抱いているのだろうと納得しようとするが、


「クソボケなのよ」

「もう勝手にしたら良いと思う」

「勝手にしてるわ。私も彼も」


 そういうことではないらしい。


 2人は手作りのトムヤムクンを頂きながら、互いに思い人との思い出話をしていた。


 そうして、しばらく話に花を咲かせながら互いに名前呼びになるくらいに仲良くなった。しかし、その時間は唐突に終わった。自宅のチャイムが鳴ったのだ。


 身内ではない事は、確かだったので明日香は疑問を浮かべながら、テレビドアホンの前で誰か尋ねた。


『はづきはいるか!?』

「……はづきのお兄ちゃんね。はづき、お迎えが来たわよ」

「えっ、ケン兄? どうしたの?」

『どうしたもこうしたも、こんな遅くまで連絡しないから迎えに来たんだよ!』

「あっ、ごめんなさい」

「服はもう乾いてるから持って行きなさい」

「ありがとう。明日香」

「はづき、また明日」

「……うん。また、明日」


 初対面の男性を刺激したくない明日香は、玄関までしか見送らなかった。そして、ドアアイで蒼星兄妹が見えなくなり、少し過ぎてから悠人の自宅へと向かった。









「……はづき」

「ねぇ、ケン兄。私友達出来たんだぁ」

「そうか、それは良かったな」

「気が向いたら、紹介するね?」

「ははは、それいつ気が向くんだよ」

「んー、彼氏が一緒にいる時?」

「同級生で彼氏いんの!?」

「多分、グラウザーの中の人」

「はづき」

「ヤダ」



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