表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
128/140

108 ストーカーと一緒

 

 自身はストーカーである事は間違いのない事実である。

 しかし、最近は監視カメラに映っている映像を眺めて、それを記事にする事しか出来ない。今のしている事にやりがいなど感じていなかった。


 以前は、本当に良かった。

 悠人が学校内に居る間、あの手この手と付け回し、大事な瞬間を自身の判断で、自身の指でシャッターを切る感覚。悠人の一つ一つの行動原理を考察し、記事を作っていく達成感。

 自身の隠密性能が高まり、悠人が自身を認識しにくくなって、困り果てていた時の顔はとても見物だった。


 しかし、今ではそれも数ヶ月前の話。

 今もストーカー行為をするのは簡単であるが、他の男子生徒に見つかっては、自身もそして何より悠人にも迷惑がかかる。まぁ、見つからない自信はあるが。


「う〜〜〜ん」


 今も休日は、悠人の自宅のカーペットの上で、ぐるぐる回るくらいしかする事がない。


「アイス食べるか?」

「食べる」

「バニラとチョコどっちが良い?」

「チョコ」


 そう、今も標的と肩を並べてアイスを食べる程度には暇をしているのだ。


「最近物騒ね、ストーカー被害が多い事」

「まぁ、あれだろ。好きだけど、相手から嫌われているとか、認知されていないからとか、もっと知りたいんだろうな。ただでさえ、一般男性は出不精だから、知りたくても知れない。そういった焦りもあるんじゃないか?」

「そう、全く分からないわね」


 流石、認知されて、好意を持たれ、軽度のスキンシップも行い、ある程度相手を知り尽くした女だ。そんな余裕のある女に、他の同業者の気持ちなんて分かるはずもない。


「てか、お前は更に一歩も二歩も上回っているんだけどなぁ!?」

「何よ、今更じゃない」

「開き直るかそこ?」

「悠人君、ちょっとバニラ貰える? 味変したいの」

「おい、会話ぶった斬るのやめろ」


 文句を言いながらも、カップアイスを柳田に向けてくれる。さりげなく、間接キッスを狙おうにも地味に避けられたことに残念と感じた。


「それで、最近クラスでの皆どうなんだ?」

「どうって言われても、花香が加わっただけで、特にそこから交友関係を広げてはいないわ」

「そうか」


 実際、広げられないというのが正しい。

 彼女達は、悠人から既に選ばれた存在。そこにそうでないメンバーを加えるとなると、将来的には大きな爆弾を抱える羽目になるだろう。よって、知り合いにはなるが、友達とまではいかない関係を作り続けている。


「でも、気になる子は居たわよ」

「ほう?」

「その子、兄弟が3人いるらしいの。仲は、良好。例えるなら、悠人君が優菜ちゃんだけ接している感じね。周りが近づこうとすると、不機嫌になって、睨みつけていたわ。妹さんと話す時は、凄い良い笑顔なのよ」

「……その子、絶対居心地悪そうだな」

「そうね、男の人が居るのが当たり前の生活を過ごしていた。生で見る事自体が本当に稀で……稀……稀、なのよね?」

「悪かったな」

「ごめんなさい。私も頭がおかしくなっていたわね。ともかく、お迎えを男の人が一緒に来るくらいに溺愛されている。だからこそ、避けられがちね」

「今のところは、大事には至ってないと」

「そうね、でもいつ起きてもおかしくはないとさえ思えるわ」

「ほぇ〜、今度会いそうだな」

「……トラブルメーカーだものね」

「問題起こってから会うの確実かよ」


 話している途中で、柳田は気づいてしまった。

 これ私がフラグを立ててしまったのではないかと。内心慌てながら、話題を逸らすことにした。


「そんな事よりそっちはどうなのよ」

「陸奥と過ごす事は多いが、最近、ちょこちょこ体育館に来る人が増えてさー。そいつらにバスケを教えてるくらい」

「なるほど、トレーニングの邪魔だと」

「オメェ、口悪りぃな」

「実際、そうでしょ?」

「いや、そうでもない。最初こそ技術もスタミナも無かった彼らが、今ではそれらを身につけてチームプレイをしている。教える立場になるって案外楽しいものなんだなって思ってさ」

「そう」

「ただ、今のところ俺と相手したくないらしい。この前、1人がコートの端っこでしばらく壁に向かって体育座りしちゃったし」

「力の差思い知らせて草」

「てか、今から買い物行くけど来るか?」

「行く」


 即答だった。





 ストーカーが標的と並んで歩く。

 それはストーカーと呼べるのか怪しいが、標的がストーカーと言うのだからストーカーなのだ。


「私って、悠人君のストーカーよね?」

「……YES。てか、とてつもない質問してるの分かってる?」

「昔だと想像できないわね。標的が隣にいるって」

「俺もストーカーが隣にいるとは思わんよ」

「悠人君は、お嫌い?」

「いや、お前だから全然」

「……」

「後にも先にも、俺のストーカーは柳田だけだろ」


 さらっと出てきたストーカー特攻の口説き文句に顔を朱に染め、悠人から顔を背けた柳田。


「ばか」

「……なんか言ったか?」

「何でもない」

「あいよー」


 さりげなく、悠人の手を掴んで、先導する柳田。

 安心しろ、ちゃんと指を絡めた恋人繋ぎだ。


 少し揶揄い過ぎたか?と思う悠人だが、いつも振り回されている事もあって、これくらいなら許されるだろうと直ぐに開き直った。


「気になるお店見つけたから付き合って」

「あいよ、時間あるから買い物は後でで良いしな。それで何処よ?」

「カフェよ、雰囲気がまた私好みだったの」

「そうなのか、早速行くか」



 因みに、



「何で隣に座る? 普通、対面じゃねぇのか?」

「隣が良いの。駄目?」

「すまん、俺が悪かった」



 この日、そのカフェのブラックコーヒーの売り上げが物凄く伸びたそうな。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ