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106 貴族と料理

 

「お嬢様、やはり危険でございます」

「お黙り、悠人様。行うと決めたなら最後までやりきるのです」

「でも料理だなんて急だな。包丁も触れた事はないだろう? 調理実習の時もずっとお玉振って、味噌汁作ってたし」

「刀は何度かありましたし、大丈夫ですよ!」

「……それはどうかと」

「では、悠人様! ご指導のほどよろしくお願いします」


 現在、木下家。

 悠人とマリアは、2人並んでキッチンへと立っていました。


 どういう風の吹き回しか、いきなり料理をしたいと仰るマリアに、流石の悠人も動揺を隠せません。ですが、マリアの意欲の高さに免じてご教示することになりました。


「それより前に、髪を結ぼうか」

「ふわぁ!?」


 包丁の切り方や食材を洗う前に、悠人はどうしてもマリア嬢の髪の毛が気になっていました。マリアのアイデンティティともいえる縦ロールは料理をする人間には全く向かないものと分かっていたからです。


 好きな人の髪の毛を食べたいなどという特殊な性癖を持っている訳ではないのです。だから、この行為は至って普通のことなのです。


 ですが、好いている相手からいきなり髪を優しく触れられてしまうと、途端に緊張してしまう可愛いお年頃の女の子のマリア。顔はトマトの様に真っ赤に染まりました。


 そんなマリアの顔を見る事はできない悠人は、手慣れた手つきで髪を纏めます。


「できたぞ、完璧でごぜーます」

「は、はいっ!」

「では、ジャガイモから切っていこうか」

(あっ、意外と普通に教えてくれるのですね)


 彼女自身、急という事は重々承知していました。けれど、マリアにも大切な理由があったのです。




『マリアちゃんって手料理した事ないよね』




 里奈から言われた何気ない会話。

 マリアは、とってもとっても身分の高い貴族の人間です。それも世界一です。ナンバーワンです。

 そんな彼女達の食事を担当するのは、三つ星を超える橘家専属のシェフ達。後たまに、悠人です。


 味で比べたら、本職であるシェフに対して悠人に勝ち目なんてありません。でも、愛する悠人が頑張って作った料理です。不味いわけがありません。


 それに男性が作った料理なんですから、三つ星よりもレアなんです。女性って単純なんです。男性と同じですね。


 ともかく、マリアは料理をするどころか、キッチンに赴くことすら全くありません。悠人に渡すバレンタインも有名ブランドのお菓子を包装して渡しています。



『試しに作ってみれば?』



 とは言っても、料理というのは難しくレシピ通りでも形が悪くなったり、味が変になったりします。初めての人間にとても1人で行うなんてできません。


 でも、悠人に自身の手料理を食べて美味しいと言ってもらいたい気持ちが生まれました。



『悠人君か、シェフの人に教われば良いと思う!』



 そこで自分が教えると言わない辺り、とても里奈らしいです。


 プロに教わり悠人にサプライズをするか。料理を理由に悠人と過ごす時間を増やし、自身の成長を見てもらうか。考えた結果、選ばれたのは後者でした。


 今は、悠人に包丁の使い方を教わっています。


「マリア、左手は閉じてね」

「はっ、はい」


 でも、悠人はいつも以上に過保護な対応をしています。

 それも当然といえます。大切な人です。綺麗な人です。可愛い人です。そんな人が刃物を扱うのですから、教える身になった悠人は、少し、いえ過剰に慎重になっています。


「数回、一緒にやろうか」

「ゆ、悠人様!」

「大丈夫、大丈夫」


 そう言って、悠人はマリアの後ろに立ち包丁を持っている手、ジャガイモを抑えている手の両方を自身の手で包み込みます。そして、ジャガイモを一口サイズに何度も何度も切っていきます。


 悠人は、こうすれば安全な切り方を覚える。前世にて初めて包丁を持った時に、母親に同じ方法で食材の切り方を教えてもらったのを覚えています。そして、今世も真夏にもその方法で切り方を教わりました。更には、優菜もこの教え方で覚えさせてちゃんと切り方を学んでいました。だから、この教え方は絶対に間違ってはいないと確信を持っているんです。


 でも、当のマリアは、その食材を切る感覚なんてものは感じていません。あるのは、背中に押しつけられる身体の体温と自身よりも大きい手のひらの感覚に意識を取られていました。


「覚えた?」

「……まだ、です」

「分かった」


 マリアは料理を教わりに来たのに、好きな人とスキンシップを取り続けたいという欲望に囚われてしまいました。

 悠人にマリアの表情は、分かりません。でも、マリアの為に一緒に食材を切り続けました。


 気がつけば、ジャガイモを切り終わり、ニンジンを切り終わり、タマネギに涙を流し、食材を鍋に入れて、カレールーを入れ、お玉を振っている彼女がいました。


「んー、美味しく出来たぞ」


 そう言って、悠人はマリアに小皿を少しカレーを入れて差し出します。それは、先程悠人が口をつけたものです。

 悠人は気にしませんが、マリアは気にしました。でも、良いのです。それは好きな人とのスキンシップですから。


「はい、美味しいです!」


 美味しい料理を作り、悠人に喜んでもらおうとしたマリアでしたが、一緒に料理を作って上手く出来ていることに喜びを感じていました。


 目的は違えてしまいましたが、良いのです。悠人も微笑んでマリアを見ているのですから。マリアの喜びが、大切な人の笑顔が見れる事が、悠人の喜びなんですから。それ以上のことはありません。


「また、一緒に作ろう」

「はい!」


 2人は、ただ幸せでした。


 でも、次回から一緒に食材を切ることをしなかった為、少し不満を持つことになるマリアがいました。




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