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104 更新

 

『第二形態ですよ、第二形態』

『世間は大慌てですよ。一週間て、もうちょい時間かけてくれても良かったと思いますよ。まぁ、この仕事してて良かった、本当に』

『でも、一週間で準備できるもんなんですね』

『無垢と精霊が早く早くと望んだのですから、早くなるのも普通ですね』

『じゃあ期日を決めないあいつのせいですね』

『なんで、任せるの一言で済ませてしまうのか』




「うるせぇよ!」




『聞こえていないはずなのに反応するとは、流石男性のネタ枠。優しいし扱いやすくて助かります』

『あいつ、絶対ここまで早く準備するとは思ってなかったんだろうね』

『馬鹿だねぇ』






「頑張れ、とーちゃん! 栄光は、とーちゃんという存在の為にあるんだぞ!」

「その手に。いやその足に栄光あれ」

「……」


 息子達よ、その栄光は既に手に入れているかもしれない、と言いたくなるの抑えている奴。というか、決めてから行うまでに早過ぎることに驚きを隠せなかった。


 天皇と隣国の女王。後、貴族多数の働きもあって、何事も問題なく進んだという。また、春妃さんとアドリアナさんには、「トライアスロンを見たかった」と小声で言われている。


 ごく普通の社会人は、相変わらず急なイベント。当然、有給が取れずに嘆いたという。


「んじゃ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

「ん」

「というか、僕らは横から見てるから」

「は?」

「特等席は僕らの物」


 ヘルメットを被り、ゴーグルを身につけて、サイドカーに乗り込む2人。準備完了と言わんばかりグーサインを奴に向けた。


 奴はそんな2人を確認した後、開始地点へ待機。多くの歓声を受け、中指を立てたり、親指で首を切る素振りをして、下向ける。


 暫くして、合図を受け、奴は走り出した。





「前は画面越しに見てたけど、実際に生で見てるとこんなにも速いんだね」


 悟は、走っている奴を見て呟いた。

 奴の速度は、自転車と同等の速度。立って見えているだけならば、目の前なんて直ぐに通過してしまう。


「僕達も、あの人達みたいに見てたら直ぐに見えなくなっていたんだね」

「乗ってて良かった、サイドカー」

「本当だね」


 そんな会話をしている間も、その隣では奴は黙々と走り続けている。その視線は常に前を向いており、2人を見ようともしない。


「とーちゃん頑張れー!」

「頑張って」


 しかし、声援を送ると顔をこちらに向けて、親指をこちらに向けた。


「終わったら、焼肉だよ!」

「いや、悟。集中切らせてどうするの?」


 奴は、その会話を聞いて静かに笑った。


 奴の走りは綺麗だった。

 数十キロを超えたというのに一向に乱れないフォーム。

 また、速度計を見ているのかと疑いたくなる程、走行速度が一定であった。



 それもそのはず、今の奴にはいる。

 この距離を、常に並んで走る者がいた。


 エリナとマリア。


 最初は、鮮明には出せなかったが今はその姿が奴には見えていた。


 そして、彼女達の声が聞こえている。




『悠人様、もう少しです』




「分かった」




『今よ、悠人。あの時みたいに、余力は残さないように』




「おう」




 奴は、加速した。







「なぁ、悟、アグリウス。俺は凄いだろ?」

「凄い! 凄いよ、とーちゃん!」

「うん、凄く速い」

「でも、ちょっと今日再走は、流石に、無理だな」


 無尽蔵のスタミナを持つかと思われた奴。

 今は息を切らせながら、2人に向かい合う。

 ちょっとその場に座りたいのだが、2人のいる手前そんな事は出来ない。


「てか、今めっちゃ汗かいてるから近寄んな」

「大丈夫! 僕、気にしないから!」

「その努力の結晶は汚れてない」


 奴は抱きついてきそうな勢いをしている2人から離れようとする。しかし、2人からすれば新たな新しい記録を作った自分達のヒーロー。




「いや、よせ、くんな」




 当然、2人は抱きついた。

 拒否を伝える口とは裏腹に、2人の重さに自身が倒れないよう注意を払いながら、抱き止める1人の男の姿。




 2時間10分25秒57。




 その数字にもはや何も言うまい。


「おめでとうございます、悠人さん」

「流石ですね、悠人さん」

「春妃さん、アドリアナさん、ありがとうございます」


 悟とアグリウスが一旦席を外した際に、2人が祝いの言葉を伝えた。

 前も女性にも引けを取らない身体能力に感心していたが、ここまで成長している事に驚きを隠せない。


 それでもまだ成長段階。

 伸び代があり、向上心が高い。


「今度は、トライアスロンを」

「私からもお願いします」


 だからこそ、期待してしまう。

 さっきははぐらかされてしまったが、どうしても我慢できなかった。


「興味はあったんで試しに一回やろうかなとは思ってました」

「まぁ」

「でも、2人にはまだ内緒に」

「そうですね」


 まだ調整もしていない状態で、短期間に準備をされてしまっては敵わない。


「とーちゃん! 焼肉だよー!! 黒毛……よく分かんないけど美味しい奴!」

「まずは、シャワーを浴びさせろ」

「ゆ……とーちゃん。それならあそこの銭湯に行こう。久しぶりに背中を流す」

「えっ、大丈夫? 今入ると混むだろ流石に」


 戻ってきた2人。

 奴としては嬉しい申し出であるが、自分達が入れば、決壊したダムの様に人がなだれ込むのは明白。


「ああ、偶々、貸し切りましたので大丈夫ですよ」

「春妃さん、今度困った事があれば何なりと仰ってください」


 しかし、気を利かし過ぎていた春妃によってそれは杞憂に変わる。さっさと汗を流したい奴は、誰よりも早く向かった。




「じゃあ、お母様達も一緒に入ろうよ!」




 当然一緒には入らなかったが、その日珍しく春妃とアドリアナのSNSが炎上したという。




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