女子会 公開処刑はひっそりと
『ですが、一言だけ。野蛮な事はするな』
いつもの公開処刑。今回は、悠人が相手を威圧している所から。
「6年間も一緒にいて、この表情は新しいと思いました」
「柳田ちゃん、私も初めてよ。悠君がこんな表情するなんて」
「そもそも悠人にそれを向けられるようなことしてないじゃない」
それもそうである。
彼女達が悠人に対して弄る事はあれど、それが嫌とは悠人からは一言もない。そもそも好きな人に嫌な事をすることはないし、する気もない。そんな彼女達に対して悠人が威圧する事はない。
「悠人様……」
「……なんて、雄々しい」
その視線と圧を加える理由となったマリアと花香はもう瞳がキラキラと輝かせながら、画面の悠人に夢中になっている。ピンクレンズ効果は、とっくの昔に無くなっていた筈だというのに。
悠人の名前を借りる許可を得たとはいえ、悠人に迷惑をかけるのは申し訳なかったが、それとこれとは話は別。
「そもそも婚約者候補扱いされているのに〜、やっぱり付き合わないとかある意味立場無くなるよね〜」
そもそも知り合って6年も経っているというのに、付き合わない、未だに婚約者候補に留まっているという事実が他の人からすればありえない。
しかし、周りからすれば多少のスキンシップはあれど、肉体関係は一切無いプラトニックな関係である。男性からすれば、そういう恋愛が出来ている悠人達は大変憧れの的である。
「あ、あの〜、私って居てもいいのかなぁ〜って思ったりして」
そんな事はさておき、いつものグループに新たな面子が追加。
木村凛。
自己紹介してからの関係は深くなり、特に金、土曜日の深夜帯では、よく悠人とゲームをする事が多い。しかも、通話した状態で。
元々悠人が彼女のファンであった事もある。だが、それより何より玲奈、里奈の身内というのが悠人の信用を得るに十分だったといえよう。
しかし、このグループに加わる1番の理由がある。
「珍しいんだよ? 悠人君から関わろうとするなんて」
基本的に悠人から女性に対して行動する事はあまりない。
それは悠人が人と人との繋がりを大事にする圧倒的な光属性を持っているから。だからこそ、深く繋がればそれを断つ事は悠人は心痛める。
優しくすれば、女性は悠人に対して好意を抱く。
その悠人が、凛との関わりを持とうとしている。
オンラインでのゲームもそうだが、自宅に招いて凛とゲームをする事も珍しくない光景だった。その距離は、隣同士で仲の良い恋人同士のようで。
その様子を見て、思った以上に悠人は凛に懐いているなと、周りは思った。
「え、えへへ、そう……かな?」
妹にそう言われて、私も好きだから尚更嬉しいと小さく呟きながら、赤面させる凛。凛も出会った時から悠人の事は狙っていたが、関係が深い人達から好かれていると周りから言われれば照れてしまう。
もう誰かをグループに加わえることはないと思っていたのに、思わぬ所にダークホースが現れた。里奈や玲奈の身内というのは不幸中の幸いというべきか。
「ところで悠人様は今何処に?」
「金城君のところ」
「あー」
リボンの問いに真夏は答えた。
マリア達みたいに少人数のグループで過ごす事はなく、基本的に陸奥と2人で学校生活を過ごす悠人。
「最近、やる気も上がったようで」
エリナは、悠人から訳を既に聞いている。
確かに、悠人はエリナ、マリアを超える事を目標としている。しかし、悠人自身が超えようとする側であったものが超えられる側でもあったと改めて自覚したのだ。それも友人であればやる気は上がる。
『あいつには、簡単に負けたくないからな』
そう言い、意欲的に成長しようとしている。
別に、以前までやる気がなかった訳ではないけれど。
「やっとまともな友達を得られて良かったわ」
上流階級という点を除けば、何処かの天皇の息子と比べ突然拉致るということもなく、ちゃんと悠人の予定を聞いている。真夏達とは未だ顔合わせしてはいないが、好感度は結構高めであった。
真夏も悠人の男友達が全く居ないことを気にしていた。好きな人といえど、ずっと一緒では悠人もストレスは溜まるし、唯一の恋愛相談相手のルナはスパイ。そして、未だに現在位置を常に把握されている事も知らない。
それに男同士でしか話せない事もあるだろう。
「後、真夏さん1つ聞きたいんですが」
「何、早苗ちゃん?」
「お兄さんは、また髪を伸ばしてしまうのでしょうか?」
「えっ、あー」
「前のお兄さんも悪いという訳ではないんですけど、嫌だなぁって思っちゃって」
元々悠人は、身を隠す為、周りと合わせる為に髪を短く切った。それだけでなく、友人さんいらっしゃいの生放送から数日後、金髪に染めていた髪を黒く染め直した。
しかし、悠人がグラウザーというのは、浅野中学校に通う男子全員が察している。つまり悠人は正体を隠す為に髪を短くする必要がないのだ。
けれども、好きな人のかっこいい姿。
身の安全も考えると髪を伸ばした方が良い。けれど、やっぱりその姿を見ていたい。
「悠君に言えば、伸ばさないと思うわ」
「そう、ですね!」
早苗、即座に連絡。
まさに行動力の化身。
『早苗ちゃん? 急にどしたの?』
「お兄さん、髪は伸ばしますか!?」
『伸ばさないけど……伸ばした方が良い?』
「いえ、そのままのお兄さんでいて下さい!」
『……そうか、分かった』
「では、そういうことで!」
『いや、どういうこと? まぁ、深くは聞かないけど』
「はい、お兄さんのそういう所が大好きです」
『ははは、俺も君のその勢いが好きだよー』
「にーちゃ、帰ってきたら話があります」
『うぇ、嘘、何で!?」
「ゆーと様、反省の時間くる」
『もしかして、皆さんいらっしゃります?』
「全員、聞いてますね」
『それはそれは、栞さん。お恥ずかしいですね』
「では、楽しみに待ってますから」
『えっ、ちょっと待っ』
悠人が正座をさせられるまで後数時間。そして、彼女達の手綱から離れられる日は、余程のことがない限りあり得ないだろう。




