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102 牽制

 



「おい、ちょっと面貸しな」

「用件は?」

「ここじゃ人目があるからな。周りにも聞かれたくないんだ」

「分かりました」


 悠人は、クラスメイトではない人間から声を掛けられた。つまりは、隣のクラスである。しかし、1年のクラスは一つしかない。となれば、必然と年上のクラスである2年生か3年生である事は間違いない。


 どんな理由かと思ったが、少し考えると自身の存在がバレてしまったか、マリアか花香のラブレターの件だろうと予想。確かに、他にむやみに聞かれたくない話である。


 悠人は、案内に従い男の後ろについて行く。

 しかし、場所は体育館倉庫裏。


「それでご用件は?」

「お前がグラウザーって事は、もう知ってんだ」

「なるほど、それが何か?」

「いや、存在がバレてしまっては平穏な学校生活も送り難いと思うんだよな〜」

「いえ、もう遅いかと。クラスメイトは、既に察しがついているのでしょうね。よく視線がこちらに向かいますから」


 男は内心動揺していた。

 メディアに現れる際は、あんなにも頑なに仮面を外そうとしない奴が、仮面を外した途端そんな事はどうでも良いと言わんばかりの態度に。


「まぁ、それだけじゃないさ。橘マリアと山﨑花香についてだが」

「マリアの好きな事は、読書です。ジャンルは、特に恋愛もの。最近では、【真夏の暑さ】シリーズが特に気に入った様で何度も読み返しています。ドラマ化もされていますので、先にそちらを見てみてはいいと思います。次に花香だが、彼女は人と話す事が好きなんです。自分の話だけでなく、相手の話を聞くのも好きな様で、特に男性に関わる内容には興味があるようで、何か面白い昔話があればそれを話してみると良いですよ。後、高圧的な態度は逆に2人を遠ざけてしまうので、一定の距離を保ちながら話しかける方が良いです」

「いや、あの」

「どうしました?」

「普通、そう言った話をする状況じゃないだろ」

「生憎、狂人なもので」


 男としてはこうだ。

 生放送にて、グラウザーとの関係は深い事は分かった。だが、ダメ元でも狙うべき人間。仮に上手くいけば、自身に権力と財力共に大きな利益が得られる。まだ付き合ってもないお前が邪魔をしてくれるなよと牽制したかった。しかし、返ってきたのは俺の女に手を出すな宣言ではなく、彼女達のちょっとした個人情報。


「俺は彼女達と付き合っていませんから、男関係に文句を言える立場ではありません。アプローチをしたいのならご自由に」

「……お前、それで良いのかよ?」

「新しい繋がりを事前に断つ事は彼女達の為になるとは思えません。それを結ぶか断つかは彼女達が判断する事です。ですが、一言だけ。野蛮な事はするな」

「……」

「他の方にも伝えといて下さい、先輩」


 見下ろされた視線はとても冷たく、今までに向けられた事のない感覚に身体が固まった。邪魔をしないように一言釘を刺すつもりが、逆に自分が刺されてしまったのだ。


 奴が居なくなった後、男は呟く。


「今のお前の発言、もろ脅迫だろうが」


 後日、この会話が他へと伝わり、マリア、花香に対してアプローチする者がいなくなったとか。


「悠人、意外と怖い事するね」

「はい?」

「あれは怖いよ」

「お前見てたな?」

「大丈夫、お二人さんには手を出さないから」

「そういう意味で言ったわけじゃないんだが」

「いや、明らかに脅してたよね」


 教室に戻った悠人を迎えた言葉は、あまりにもプライバシーを無視したもの。しかも、その発言から、彼には既に中身であることもバレている事も予想。周りのクラスメイトも悠人が教室から出る時に陸奥と一緒について行き、先程の話を聞いていたので内心頷いていた。


 そもそもの話、クラスのど真ん中であんな会話を聞いていれば、聞きたくなるのが男というもの。


「警告の1つは言わんと意味ないと思うし」


 傲慢な人間に対して、下手に出た所で調子に乗られるだけ、それならば警告して行動を制限した方が良いと判断。しかし、あくまでも警告。野蛮な事をしなければアプローチするのは全く構いませんよと意思表示であった。


「俺って怖いのか?」

「ぬって圧を加えられると怖い」

「そうか」

「というか、悠人って女の子は可愛いものと甘いもので出来ているとか思ってそう」

「そうでもないぞ」

「うっそだぁ」

「本当だ」


 女尊男卑に少し傾いた思考を持っているので、多少甘くなってしまうのは仕方がない。しかし、それは彼らに対しては過ぎた行動に見えている。


「ともかく、この話は終わりだ。ほら、バスケすんだろ?」

「それもそうだね。じゃあ体育館に行こうよ」

「何がしたい?」

「1on1!」

「この前、ボロ負けして膝抱えてた奴が言うじゃないか」

「でも、それが一番上手くなると思ったんだよね。基礎練習は、家でも出来るから」

「なるほどな」


 男2人は、体育館へと向かう。

 当然、陸奥は悠人にまだ勝てなかった。


 補足すれば、体育館倉庫裏には誰かが設置した監視カメラがあったらしい。




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