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99 よくある大会の観戦

 


「悠人君のざぁこ、ざぁこ」

「シェッ!」

「わっぷ!」


 まだまだ、続く春休み。

 決まって、悠人の自宅に訪れて、ボコボコにする里奈。数日後に控えた世界大会に向けての最終調整という名の気分転換という名の栄養補給をしている。


 生放送のこともあり、以前にも増して距離は近く、悠人に膝枕をしてもらっている。だというのに、悠人に黒星をつけまくる里奈。そして、煽る里奈。そして、額に瓦割りを受ける里奈。しかし、反応からして全く痛みを伴わない里奈。


「でっ、調子はどうよ?」

「誰が相手だろうと勝てるね!」

「そうか、頑張れよ〜」

「期待して待っててねー♪」

「おう」


 実際に大会に赴いた事の無い悠人。いつも伝えられるのは優勝した事と、優勝したという証であるカップやメダルのみ。前の大会でも、その前の前の大会でも優勝したという話。

 現在では、大会自体が生配信もしている。しかし、それを見るのはいつも里奈の解説を聞きながらである。


「……」


 里奈の活躍を里奈自身から伝えられるのも良いが、実際に見てみたい。好いている女性の活躍を近くで見たいと思うのは、悪い事ではないはず。


「じゃあ、行ってくるね!」

「いってらっしゃい」


 数時間も対戦したというのに疲れた表情すら見せず、満面の笑みを浮かべて自宅に帰る里奈。彼女の背が見えなくなるまで、玄関の外に立ち続ける。


(さて、俺も準備しますか)


 男も男で明日に備えた。






「はぇ〜、すっごい大きい大会だね!」

「……」

「ごめんなさいね、とーちゃん」

「とーちゃん?」

「もう、何も言わんよ」

「は〜い〜、こっちよ〜」

「分かったー!」


 玲奈さんに同伴してもらって里奈が参加する大会の会場まで訪れたというのに、悟と春妃がいる。

 単に、当日に生配信に誘われたが、ゲームの大会を見に行くのを理由に断ったら、じゃあ僕も行きたいと強請られたのだ。


 何せ今回は世界大会の中の決勝大会。普通ならば観戦枠は申し込む必要がある程の大きな規模の大会。しかし、そんなもの申し込まなくても、悟の地位であるならば顔パスである。因みに、悠人は玲奈のおかげで関係者枠として観戦。別に、当日でも問題なく顔パスだが、悠人の性格上察してほしい。

 周りから孤立し、上から観客席と対戦席を同時に見下ろすことができる場所に座っている。


 また、里奈には来ていることは秘密である。下手に緊張させてもしょうがないし、普段では見れない彼女を見るチャンスと思ったわけだ。


「ねぇねぇ、とーちゃん。応援する人って誰?」

「リザーって名前」

「骸骨のアイマスクつけてる人? とーちゃん、そっくりだね」

「あらあら、とーちゃんも隅に置ませんわね」

「その話はまた今度で。おっ、里奈の番来たぞ!」

「あの人はどんな人なの?」

「そうだなぁ、一言で言えばゲーム好きの女性だな。時間があれば朝も昼も夜もずっとゲームしてる。でも大会を出ると決めてからは、研究と練習を繰り返して、日々の努力を怠らないな。まぁ、その分学校の勉強とか私生活が疎かになりがちなんだけど。後は、手加減をしてくれないな。悟も今度で対戦してみるといい、接待なんて絶対してくれないから本気で出来るぞ」

「へぇ〜」


 悟に説明している間にも双眼鏡で、説明している女性の様子を見ている奴。

 そんな嬉しそうに説明をする姿を見て、悟はあの人の事すっごく好きなんだなぁと察した。


『何でそこを反応できる!? まさに神業! 未来でも見通せるのかこの女!』


 順当に勝利を収めていく彼女。更には、実況者、観戦者を驚愕させる程の技術を見せつける。そう、彼女のプレイは人を魅了する程に洗練されているのだ。


 そして、決勝。

 恐るべき観察眼と反応速度、操作精度により危なげなく、勝利を収めた。


 壇上に上がる里奈を見て、奴は大きな拍手と賞賛を送った。その時、彼女と目が合った気がした。そんな筈はない流石に観客達の声と拍手によって掻き消えてしまっているはず。だが、双眼鏡でよく見るとコチラに視線を向けてそのまま固まっている。


 奴は、彼女に大きく手を振った。





「来るなら言ってくれればいいのに」

「驚かせたかった。それよりも優勝おめでとう、里奈お前がナンバーワンだ」

「うん、ありがとう!」


 表彰も終わり帰宅する頃、里奈と本日初めて対面する。嬉しそうなそれでまた言わなかった事に不満を持っていた。


「とーちゃんの彼女さん! 僕、悟って言います! よろしくね!」

「り、リザーです。それにか、彼女なんて! まだ、グラウザーとはそんな関係じゃないんだよ?」

「……まだ?」

「えっ、あっ!」


 最近、弟分の話術が目に見えて上達しているように思えた悠人。自分の失言に顔を真っ赤にして奴を見る里奈だが、それは確かに静かに微笑んでいた。


「そうだな。俺と彼女の関係はちょいと複雑なんだ。あまり詮索はしないでおくれ」

「えぇ〜、うーん。分かった!」


 付き合う気はないという訳では全くなく、今現状では付き合うのが難しいという発言。しかも、最初に肯定する始末。それを更に聞いて、里奈は顔から煙を出していた。


「あぅ、ぁぅぅ」


 折角、優勝して良い所を好きな相手に見せつけれたというのに、今では穴があったら入りたいと思う感情を抱き、小さくなっている。


「じゃあねー! グラウザー! 彼女さん!」


 悟のまるで理解していない発言により、里奈の顔は俯かせた。


(……だから、まだ言うとるやろが)


 それは、小さいがうっかり声に出たことに悠人は気づかなかった。当然、難聴属性の持たない里奈の耳にキッチリ入り、脳のキャパシティを超えた彼女は顔を爆発させた。


 爆発音の様な幻聴が聞こえ、すぐに里奈の様子を見る。だが、この状態の里奈からはまともな返事をしてくれるか怪しいものだというだけが分かった。


「今日、何が食べたい?」

「しゅき」

「……帰ろっか」

「あい」


 本当に怪しかった。

 とりあえず、悠人は里奈が倒れないよう手を握る事にした。


「ねぇ、悠人君」

「何だ?」

「私、今幸せ」

「そうか」


 悠人は、空いている手で里奈の頭を撫でた。

 それは、玲奈が2人を呼ぶまで続いた。 




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