98 友人さんいらっしゃい 3
「やっぱり大きさに拘りはないなぁ」
「えぇ〜! 詰まんない!」
「ごめんなぁ」
性癖を暴露するかと思いきや、結局隠すような発言に周りは落胆する。
「でも、抱きつかれるのが好きなんだよなぁ」
「!」
「抱きつく、分かりやすい好意の伝え方だろう? だからこそ、好きなんだ。悟、俺はとっても単純なんだよ」
「へぇ〜」
どうやら奴は、胸の大きさ云々より、行為が大事らしい。特に、エリナと栞、じゃあ後日一言あればやっても許されるかなと考えた。凛は、まだ抑えるべきと時期を改めている。
「春妃さんに抱きついてやんな。喜ぶから」
「お母様、ぎゅー!」
「まぁまぁ♪」
「……お母様」
「あらあら♪」
春妃は、急に抱きつかれて驚いたものの、好意を一心に向けられていることに嬉しさを感じた。全く甘えん坊なんだからと言葉を含めて発言をしているが、その両腕はガッチリと悟を包み込んでいる。
そして、それを見たアグリウスは、母を呼び静かに抱きついていた。春妃と悟の嬉しそうな顔に少し羨ましく感じたのだろう。アドリアナも拒むことなく、嬉しそうに抱きしめ返した。
その様子を見ていた奴は、春妃とアドリアナに親指を立ててハンドサインをしていた。
それに気づいた2人は、すぐさま親指を立てた。
「とまぁ、俺の数少ない性癖を暴露したところで、次へ行こう」
「他に好きなことある?」
「ん〜、膝枕」
「えっ、お母様と違ってグラウザーの膝硬いじゃん」
「いや、される方なんだが。てか、お前事あるごとに強請るくせに、文句言うならもうやらんぞ」
「僕は嫌いじゃない」
「お母様は?」
「えっ!?」
いきなり話題を振られるとは思わなかった春妃。
よく悟に便乗する形で何度も奴の膝枕を堪能した事がある身ではあるが、文句を言える立場ではない。
「そうですね〜、膝枕なんてもう大人になってからされた事もありませんし、母を思い出しました。でも、母とはまた違った心地良さで、安心感というか、後彼って撫でるのとても上手なんですよね。私はとても好きですよ」
「膝枕しといて、付き合ってないってマジ?」
「マジ」
「グラウザー、やっぱり貴方の女性との付き合い方おかしいよ」
「そうだろうね。手が触れただけでもよくセクハラ案件になるとすれば明らかにおかしいからね」
「そうでしょう、そうでしょう」
「でも、それは赤の他人の場合。気の許した相手であれば、膝枕の一度や二度しても、問題はない。画面の前の野郎共もそう思うだろう?」
カメラに向かって指を差して、意見をする。それに反応し、少なからず同意のコメントを貰っていた。
「つまり、俺の行いは何らおかしい事ではない。誰に迷惑をかけているわけででもなく、春妃さん自身に迷惑をかけている訳ではないし、問題ないかと」
「まぁ、それで納得しときましょう。だいぶ、性癖で話が外れましたがね」
「お前らが逃さねぇからだろうが」
「そろそろ貴方の話にも飽きましたし、他の方から話を聞きましょうか」
「失礼すぎる」
「そもそも、彼の師であるエリナ様。彼とはどういった出会いをなされたんですか?」
奴をガン無視して、エリナに話を振る司会者。だいぶ、扱いに慣れてきている様子。
「元々は、娘が連れて来たんですよ」
「娘さんであるマリアお嬢様が?」
「家に帰ってくるなり、珍しい殿方に会ったと真っ先に告げて来ましてね。折角だからとパーティに誘い、そこで私と出会った。まぁ、何処にでもある普通の出会いでしたね」
「いや、こいつと出会う時点でだいぶ運がやばいと思うんですけど」
「おい」
「今はこんなですけど、良いところも沢山あるんですよ」
「いゃ〜」
「は?」
こんな扱いされたというのに、照れるような言動をした奴に対して、少し苛立ちを覚えた発言をする司会者。
「いや、貴女とエリナとは出会ってからの年数違うんで」
「私だって骨被った男はごめんだわ」
「確かに貴女は唯一の存在ではあるが、俺にとってそれは特別じゃあない」
「迷言やめろ」
「事実を言ったまでだ」
「とっととくたばれ」
「消してくれるのであれば、喜んで抹消されるというのに」
「じゃあ何でしないんですか?」
「数々の貴族からマークされてる。多少のお願いなら快く承諾してくれるが、消えたいですと言ったら、じゃあ貴方の敵になりますと堂々と宣言された」
「とーちゃん、悲しいね」
「悟、お前がその筆頭だろが」
「そうだよん!」
「元気でよろしい」
「ゆ……とーちゃん」
「なんだい?」
「僕も敵になるからね」
奴は、逃げ場がない事くらい分かっていた。しかし、更に逃げ道を塞ごうとする弟分の発言にお先真っ暗。
面白半分で参加していた者達は、ここまでくると逆に不憫に感じ今度会ったら優しくしてやろうと思ったそうな。
「では、今度は栞様にも聞きましょう」
「癪に触りますが、出会いはエリナとほぼ同じなんですよ」
「なるほど、夜々お嬢様が」
「昔、娘が聖アテネ学園のコンクールに招待したんです。その時に、出会いました」
「でも夜々お嬢様って今のお歳は7ですよね?」
「そうですね」
「おい」
「夜々ちゃんは絶対良い女性になるよ」
「いや、そういう事じゃねぇって」
「話をしようか、俺と彼女が出会った話を。女性貴族が男性に慣れる為に、触れ合い会を設けているのは知っているだろうか。あの時の俺も若かった。ファンの方がいらっしゃるのでと自宅に手紙を入れに来た聖アテネ女学園の学園長である林さんの熱意に断りきれず、俺は渋々参加することになった」
「現代で手紙をまさか直接ポストに入れに来るとかストーカー気質あるんじゃ」
「黙れ、貴女より礼儀があって素敵な方だぞ」
「えっ、私間違ってる?」
「多くの女性貴族に囲まれ、多くの女性貴族と握手を交わした。幼い子達には、本を読み聞かせた。その時、隣に座っていたのが夜々ちゃんだった。全てが終わった後、俺は家族の待つ車に向かおうとしたが、ふと気づくと裾を引っ張っていた夜々ちゃんの姿があった。彼女は言った、また会いたいと。当時の彼女は、4歳の子供。優しい言葉を投げかければ、容易に信用する程純粋だったはず。しかし、俺は名前を覚え、連絡先を教えた。それからは、彼女から連絡を取る日々が続き、今では自宅に来て俺の膝の上で寝ている事が多いな」
「話長くて草」
「聞きたくねぇなら聞かんでいい」
いつもなら一言くらいで終わりそうな話を何故か長く聞かされたエリナと栞以外の者は、ポカンとしている。
「てか、じゃあその白髪は」
「あの子のお願いさ。前に金髪にしたから、今度は白にってな」
「あっ、じゃあ」
司会者の視線は、エリナの方を向いた。確かに、以前は金髪に染めていた時期があった。夜々の為に白髪に染めたのだから、金髪に染めた理由はエリナにあるのではないかと推測。
「実際はマリアを驚かす為だけだそうで」
「確かに、知り合いの男性がいきなり同じ髪の色にしたら驚きますね」
「白に染めた時は、少し寂しそうでしたが」
「今度、金髪にします」
「何であんたが手綱握られてんの?」
「だってとーちゃん、権力には弱いんだ」
「情けないですね」
「……言ってろ」
恋愛相談だったものが、奴の性癖へと変わり、更には出会い話へと変わっていく。
「てか恋愛相談、まだ一回しかしてないけど、大丈夫かよ?」
「貴方の恋愛事情の方が需要がありますが、これ以上続けると貴方問答無用で帰りそうなので、辞めときますね」
「おう、俺の事分かってるじゃねぇか」
「では、次のお題をどうぞ!」
【グラウザー、相談です。付き合って下さい】
「それは相談じゃねぇ、告白だぁ!」
因みに、本日の生放送は過去最高の視聴率を誇っていたらしい。




