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91 今はまだ変わらぬ関係のまま

 


 女の子の内面は、男よりも一段も二段も早いスピードで成長をする。


 彼女達は、成長していく。


 前世の記憶を持った自分よりも、大人ではないかと思ってしまう程、想像を超えて。


「悠人様」

「ん、マリア、どしたの?」

「いえ、呼んでみただけです。それより、大丈夫ですか? どこか上の空のようで、悩み事ですか?」

「おお、大丈夫。驚いただけだ」

「そうですか、何かあればお力になりますから!」

「あら、悩み知らずの悠人君。どうしたの?」

「張り倒すぞ、メガネェ」

「外したら目が3になる程悪くなった貴方に言われたくない」


 自身の家に招き入れ、食卓を囲い、同じ屋根の下で眠ったことのある彼女達。大切である存在を前にして、このままで良いのかと悩みが浮かんでしまった。



(相談してみるか)



 だが、この選択は常に最大の誤りであり、全て彼女達に筒抜けだったということを男は墓に行った後でも知らされない。






「お久しぶりです、ルナさん」

「いいのいいの、悠人君! 君の為なら時間くらいいくらでも作っちゃうんだから!」


 男の選択は、早かった。

 モヤモヤとした感情をいつまでも引きずり、彼女達に心配をかけるようなことはしたくない。


 急いでルナと連絡を取り、誰もいないのを確認しているのに小声で用件を話す悠人。そして、ルナも真面目な返答をするが内心テンションが上がった。


 なにせ、悠人である。


 あの悠人である。


 貴族間では、誰もが良好な女性関係を築いていると思われている彼が。自身に向かって、恋愛相談。


 それ程までに信用されていると嬉しい反面、その相談内容を彼女達に伝えることに多少罪悪感を抱く。


「普段は、意識しないようにしているのですが、そのふとした瞬間に好意を向けられると、恥ずかしく感じて」

「あら、でも良くやれているじゃない? あまりそう感じないんだけど」

「その、何と言いますか改めてずっと思われているんだなと自覚してしまって。純粋に嬉しさが込み上がってきて、時折ニヤけてしまうんです」

(やだ、チョー尊い!)


 もはや常備品と化したボイスレコーダーを起動させ、相談内容を録音していく。


 ルナも最初は確かに拒んだ。いくらなんでも、悠人が好意を抱いているとはいえ話すのはどうかと。誰にだって墓まで持っていきたい話はあるのだから。だが、相談を聞いているうちに、


「だから、男子校行って、彼女達と距離を作った方が良いと思ったりするんです」

(うーん、この)


 これはいけない。言わなきゃ、伝えなきゃ、ちくらなきゃ。先程のテンションが嘘の様に下がった。


「ど、どうして、そう言う結論に至ったの?」

「ふと思った時、彼女達はいつも側にいます。それを嬉しく思う反面、これで本当に良いのだろうかと思う自分がいます。これから更に出会いが大切な時期がくる。だから、しばらく距離をおき、俺という存在がいない状態で過ごした方が、より良い人間関係を築いていけるんじゃないかと思いまして」


 悠人は決して鈍感ではない。彼女達の気持ちは察している。だが、大切な彼女達を思うからこそ、時折自分が鎖となって、彼女達の邪魔をしているのではないかと不安になるのだ。


 彼女達からしてみれば、「鎖……? 縛ってくれるんですか!?」と満面の笑みで束縛上等と両手両足を差し出せる程嬉しいものなのだが、悠人のそう言う発言は絶対に出さない為、答えられる訳がない。


 一人で結論を出さないだけまだマシだとルナは思った。更に言えば、定期的に呼ばれては、色んな理由をつけて一度離れるべきではないかと相談してくる悠人に対して、ルナは横流しにすることを決めた。


「別に、悠人君が側にいろって言っている訳ではないじゃない。まだ、彼氏彼女の関係でもないんだから、深く考える必要はないと思うわ。それとも、いきなり離れたら逆にあの子達気にするわよ? ずっと無理をさせてきたのかも、ってね」

「……」

「悠人君、貴方は鎖の役割すらしていない。放課後の過ごし場所を提供しているだけ、彼女達は常連客の様に利用しているに過ぎないの。だって貴方、必ず来いって言ったことも強制したり、脅したこともないでしょ? 逆に誇りなさいな。毎日行きたくなるくらい過ごしやすい場所だということを」

「……そうですね。事実、皆は楽しそうで、俺も楽しかったですから。やはり俺の考え過ぎでしたね」

「そうよ! 全く、悠人君ってば心配性なんだから、そんなに気にしているんだったら、さっさと告白してチューの一つくらいしてあげなさいな!」

「……」

「……何か問題あるの?」


 此度も悠人の突発的な計画を論破し、内心勝訴と舞い上がっているルナ。かと思いきや、黙って顔を俯かせた悠人に少し心配になる。私の知らない彼女達の嫌な部分があるのだろうか。


「いや、単純に俺が」

「俺が?」

「……多分我慢出来なくなってしまうので」

「ぶっはっ!!」

「ルナさん!?」

「私は、全然大丈夫!」


 ほほう、男から襲う、ですか。

 これはこれは、妄想が捗るようなことを言ってくれる。


「それに後、4年でしょう?」

「……俺の答えは出てますので、その時になったら、俺から伝えます。それまでは言うつもりはありません。その間に離れていかれても、彼女達自身で決めたことなら受け入れます」

「まぁ、覚悟決めちゃって、最近の若い子って怖いわねぇ」


 まぁ、彼女達が離れる事はまずないだろうというのに。ヒーローとヒロインが必ず結ばれる昔の夢の国の映画を見ている様な気分である。


 いつかの日、自身の最高傑作を本来の使用用途で着られることを楽しみにしている。






 相談して数日後、悠人はまた新たな問題を抱えた。


(避けられている?)


 会う度に、彼女達は、顔を赤らめて逃げるように会話を直ぐに終わらせるようになってしまった。それも、大人組である彼女達すらも。


 自分から何かした覚えがないのにも関わらず。

 しかし、絶対かと言われれば、もしかしたら、いやでもあの程度なら、アホかその考えを持ってしまっているから、と次々と日頃の行いを悔い改め始める。


 理由は、数日前の相談をルナから聞いた為であるが、そんな事は絶対に思い付かない悠人。


「真夏、俺は避けられるような事を皆にしてしまったのだろうか?」

「えっ……、そんなことは無いと思うよ?」

「でも、避けられるのは目に見えて分かる。しばらく距離が必要だと思う」

「駄目だから! 悠君は悪くないよ!?」

「聞いても俯いているだけとなると、俺に言いたくないことだと思う。真夏、何か知らないか?」

「ええっと、そうだね〜」


 真夏も原因は既に分かっている。

 まさか目の前の息子が、恋人通り越して結婚覚悟でその日を待ち続けている。誰だってどんな顔して会えばいいのか分からない。


 いつもは穏やかな笑顔を浮かべて、その影で自分達とイチャつきたい気持ちを我慢しているなんて、嬉しさが込み上げてくる。しかし、改めて求められていると分かると恥ずかしさが勝ってしまった。


 折角、ルナが解決してくれた筈の相談事を私達自らが生み、否定しようにも今回問題となった当人達が今此処に居ないのが更に勘違いを加速させている。


「悠君が結婚覚悟で一緒にいるのを知って恥ずかしいだけよ」と言ってしまえば終わるが、それをこんな形で口に出すわけにもいかない。


「しばらく様子見でいいんじゃない。思春期よ」

「美雨さんや玲奈さん達も?」

「年々、悠君がカッコ良くなっていくから、どう接して良いか分からないのよ。歳は重ねてるけど、男性経験0だから、遅めの思春期よ。悠君も身長は成人男性と並ぶくらいだから身の振り方には気をつけてね。特に、過度なスキンシップとか」

「おう、気をつける」

「だから、慣れるまで待ってあげてね」

「そうだよな、いつまでも変わらないって無理だもんな。ありがとう。どうもマイナス思考が消えないんだよなぁ」

「今に始まった事じゃないでしょ?」

「そうだな」


 まさにパーフェクトコミュニケーション。

 真夏による完璧なフォローによって、悠人は深く考えるのを辞めた。そして、「そういえば身長伸びたよなぁ」と嬉しそうに頭に手を乗せる息子を見て、完全に話題は変わったなと気が緩む。


「もう並んで歩いても、周りからは親子として見られないかもね〜」

「それは複雑だなぁ。あ、後刺されるのは勘弁な」

「悠君が言うと何故か悠君が病院送りになる想像してしまう私がいる」

「実を言うと、俺も」

「入院は勘弁してね」

「分かってるって」


 その日が来るまで、後4年。

 一体どんな形で迎えるのか、それはまだ誰にも分からない。けれど、今言えることは、どちらも互いに思い合っているということだけだろう。



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