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89 夜といえば

 




 花香が上半身の前後ろ目視して気絶した後、帰って来た真夏に優菜が報告。当然、悠人は怒られる事を覚悟で、下に座布団を敷いて、正座をしていた。


「悠君、次は気をつけなさい」

「うぃっす」


 真夏がお叱りは、一言と額にデコピンするくらいであった。理由が理由なだけに、強く言わなかった。しかし、後数回行われた場合は、雷が落ちるであろう。


「ママ〜」

「今日も美味しそう、頂きます」


 悠人が軽く怒られている間に、夕飯の準備をしていた優菜。


「夜々ちゃんや、痺れてないから意味ないぞ?」

「……そう」


 足が痺れていると思ったのか、悪戯のつもりで膝を突いている夜々。しかし、数分程度の正座だったので、悠人には効果はない。

 反応のなさに、あからさまに肩を落とした夜々は、膝の上にちょこんと座り、悠人の両腕を巻き付けるように動かした。


「撫でるのはもういいのか?」

「うん」

「にーちゃ〜」

「んぉ?」


 お泊まりに来たお客様がいるとて、優菜も黙って見ているわけではない。前が空いてなければ、後ろから甘える。これが妹の性分。


 服の中に入り込み、フガフガを決行。しかし、ふと思う。今まで当たり前のようにしてきたがこれが許されること事態が異常なんじゃないかと。だが、叱られたり、注意されたことは一度もない。


 じゃあ良いやと決めつけ、フガフガを続行。


(フガフガって良いものなんだろうか?)


 優菜がそうやって甘え続けるのもあって、服の中に入り込むという行為に、何か中毒性のあるのだなと思う悠人。前世と今世、その様な行為をした事はない。


(まさか、優菜は匂いフェチだったのだろうか)


 まぁ、フェチの1つや2つあっても構うことはないだろう。


「服の中に入るって、どんな感じだ?」

「暖かくて、良い匂いする! 後、にーちゃは肌触りがいい」

「そ、そうか」

「にーちゃも服の中入る?」

「遠慮しとくよ」

「んー、えい」

「ふお、何を?」


 悠人、少し迷いはあったが、女の服の中に入り込むなんて絶対にするべきではないと判断。


 優菜断られる事は普通に想定内。こういうのは無理矢理にでも味わわせようと思い、素早く服の中から出て悠人の背後から自分の服の中に入れる。


「どう?」

「……複雑な気分。抱きしめた方がいいな。触れ合いを所望する」


 特に匂いフェチではない悠人にとっては、良い匂いがするなぁ程度、さほど興奮するわけではない。やはり触れ合う事が悠人にとって甘える行為だと改めて自身を理解する。


「なぁーにをやってるのかな?」

「優菜は良い匂いがするぞ」

「にーちゃも良い匂いがしたよ」

「ゆーと様は温かい」

「うーん、この」


 息子が幼女を抱えながら、その上半身を妹の服の中に入れている。婿入り前の男子がする行為とは到底思えない状況に、圧をかけるも返ってきたのは、理性的過ぎる返答。


 誰1人として、性的に興奮している様子がない為、注意しようとした自分が1番えっちぃ……な人間に感じてしまい言葉を詰まらせる。


「……程々にしなさい」


 そういう事しか言えなかった。






 寝る時間が訪れ布団の用意。

 花香は気絶してしまった際、既に悠人の自室で寝かしている。よって、誰がどこで寝るということに関して、年長者として真夏が譲り、真夏優菜悠人夜々の並びで寝ることになった。


 だが、四つ並べた布団を差し置いて、寝る前から悠人の布団に入り込み、左腕を枕にする優菜と右腕を抱き枕代わりにする夜々。


 十中八九、普通の川の字で寝る事はないだろうと思っていた悠人。動けない状況でありながら、内心笑っている。


 因みに、真夏は、優菜の寝るはずであった布団へと入り込んでいる。譲りはしたが、少しでも息子の近くで寝たいのだ。



 しかし、そんな寝静まる中、目覚める少女が1人。



「悠人様の布団で寝られたのは良いですが、過ごす時間が無くなってしまいましたわ」



 スマホのライトで足元照らしながら、乾いた喉を潤す為にキッチンへと赴いていた。


 そんな文句を言う彼女ではあるが、生の雄っぱいと背中は確実に脳髄に刻み込まれてしまい、名前を出すたび想像してしまう。その度に、止まった鼻血が流れる。


「はっ、いけません!」

「何が?」

「きゃあ、悠人様!?」

「おう。大丈夫か、辛そうだが?」

「しばらくはお顔を見せないで下さいまし!」

「ええ!?」

「悠人様の体は私には刺激が強過ぎたのです!」


 元凶がそこに現れた為に、直視出来ず、顔を隠す花香。パジャマを着ている悠人だが、今の花香には上半身裸の状態に見えてしまっている。


「ごめんな」

「いえ、ご馳走様でした!」

「おいこら」

「わっぷ」


 力強い声と顔を左手で隠しながら、右手でサムズアップ。そんな花香の頭に悠人は軽くチョップを入れる。


 非は完全に悠人があるのに、花香がそう言ってしまうのであれば叱らざるをえない。


「冗談です」

「結構余裕だろ」

「何をおっしゃいますか! 今、とても我慢しています!」

「はいはい、何が欲しい?」

「では、麦茶で」

「はいどうぞ」

「ありがとうございます」

「どういたしまして」


 軽い冗談を交わしたおかげか、少しはマシになった花香。


 花香をキッチンにある椅子に座らせ、麦茶を渡した後、対面の椅子に座り、水を飲み始めた。


「悠人様」

「何だ?」

「今朝は私のお話を致しました。ですので、今度は悠人様のお話をお聞きしたいですわ」

「……面白い話は無いぞ?」

「でも、私は悠人様のお話を聞きたいのです」

「ん〜、100人の嫁がいる男は実は何回か刺されていたっていう話でもするか?」

「え?」

「それとも、自分好みの女性を育てようとしてその幼子に襲われた男性貴族の話とかどうだろうか?」

「……どちらも聞きたいです」


 悠人の話は、まさかの他所とはいえ恋話であった。

 どちらも碌な結果にはなっていないが、年頃の女の子である花香にとっては興味を抱くのには、十分だった。


「悠人様、録音してもよろしいでしょうか?」

「えっ? まぁいいけども」


 失敗談とはいえ、恋話。

 録音するくらい珍しいのだろうと思った悠人。まぁ別に花香ならば変な事に使うはずがないだろうと信用して、話を進めた。


 そして、夜が明ける。



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