11(流れの終わるところ 始まるところ)
世界は次第に薄れていった。
シェルミが過去へ飛び、また同じような日々を送り、滅び、再び始まり、そうしながら世界は薄れていった。シェルミが初めて”あらゆるもの”と結んだ契約は、一方的な契約でもあった。ひとり彷徨う彼女に、我々の時間軸ではまだ幼い”あらゆるもの”が近づき、彼女にこう問いかけたのである。
『望みは何だ』と。
それに、シェルミは答えた。心細さから。
『帰りたい。私を、帰して』と。
それが、始まりの契約だった。
世界の終わりを例えるなら、それは、映写機で霧に映した映像が、次第に薄れていくのに似ていた。霧は次第に薄れ、薄れながらも映写は続き、映写されている人々は、自分が薄れていることに気づかなかった。
そうして、世界の誰にも気づかれることなく、次第に、次第に、世界はその存在を失っていった。
かつて、”あらゆるもの”と呼ばれた彼らは、無に還ろうとした。
ひとつに、元々の、無に。
いつしか世界は完全に失われ、我々の物理法則とはまったく異なる法則に従って、彼らはひとつになっていった。
それは永劫のことであり、時間の概念が異なるそこでは、一瞬のことでもあった。
やがて彼らは、ほとんど点にも等しい存在となり、まさに無に還ろうとしていたその時になっても、彼女の意識は残っていた。
世のすべてを支えていた彼女の意識は。
会いたい。もう一度、会いたいと。そう望んで。
そうして彼女は、この宇宙の観測者となった。




