10-3(黒い剣の世界3)
絶えることのないさざなみの音が、周囲に満ちていた。さざなみに混じって、どこか遠くでドラムの音が響いていた。
裸足の足元には、白い砂浜。
目の前には湖。いや、海だろうか。
振り返ると青い空。
しかし、近づいても近づいても、その青空を掴み取ることはできなかった。
振り返り、海に近づく。寄せては返す波が、彼女の足を濡らした。
水平線の果て、妙に明るい夜空に、細いリングが架かっていた。
ああ、あれが時空間なんだ、とナーナは思った。
夢を見ている、という自覚があった。しかし、ただの夢ではない、ということも判っていた。それは、世界の中心にいるはずの自分が見ている夢だった。
耳を傾けると、ドラムの音はより一層、大きく響いて来た。
ペガーナの、スカアルの刻むドラムの音が。
ねえ。と、ナーナは夢の中でアキラに語りかけた。スカアルって、アキラが教えてくれたんだよ。ここにいる、最初のわたしに。
これがぜんぶ、エア神の考えたものなのかな。
QXとか、デジャー・ソリスとか。
それがぜんぶエア神の想像の産物なのかな。
わたしはそうは思わない。
このスカアルだって、遠くに見えるマアナ=ユウド=スウシャイだって、アキラが教えてくれたからここにいるんだよ。ひとりじゃ寂しすぎるから、最初のわたしが作り出したんだよ。
……だから。
だから、きっと。
……。
……。
そこにいるわたし。
とても綺麗だったって、みんなが言うわたし。
あなたにも、同情する点はいっぱいあるわ。でも、でもね。アキラより世界を選んだあなたに、アキラは渡さない。
渡さないわ、絶対に。
少なくとも、世界が滅びるその時までは。
世界が滅んだ後なら、あなたに譲ってあげる。
でも。でも今は。
アキラはわたしのもの。
アキラは、わたしのものよ……。




