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6-2(封印の城2)

 翌朝、アキラとナーナは連れだってスゥイプシャーの観光名所のひとつである”全ての神々を祀った神殿”を見に行った。

 ヴラドは部屋におらず、フランには断られたためスゥイプシャー郊外に建てられた”全ての神々を祀った神殿”まで二人だけで歩いて行った。早朝ということもあって観光客の姿はまったくなく、”全ての神々を祀った神殿”は二人の貸切状態だった。

 ”全ての神々を祀った神殿”は、スゥイプシャーの街が作られる前、一説では大災厄よりも前に築かれたと伝えられていた。しかし、実際に行ってみると石造りの神殿は想像していたよりも随分新しく、ガイド本で確認すると、ほんの10年ほど前に再築されたと小さく書いてあった。

 その一方で、神殿の近くには、折れた柱や火災の跡の残る壁など、元は神殿と思われる建物の廃墟、もしくは痕跡が、幾つも放置されていた。”全ての神々を祀った神殿”が災害や老朽化で壊れた場合には、少しだけ位置を変えて建て直し、古い建物は放置するのが習いになっていると、これもガイド本に記してあった。

「変わった風習だけど、これはこれで味があるなぁ」

 アキラは千年以上の歴史がある廃墟の方を見ながらそう感想を述べた。

 しかし、二人のお目当ては彼らが決して立ち入ることのない”全ての神々を祀った神殿”ではなかった。様々な願い事のために国の内外から奉納されたという、とてつもなく奇妙とガイド本に紹介された神像群を見に行ったのである。

 神像群は、神殿に続く参道の両側に無秩序に並べられていた。

 ほとんどの像は人の身長ほどの高さだったが、中には10mを越えていると思われるものもあった。顔が複数あるもの、何本もの腕が背中からも生えているもの、動物と混然一体となったもの、ちょっと言葉にするのが憚られるモノなど、神と言うよりむしろ百鬼夜行といった様相である。

 しかも、神像はスゥイプシャーの空にも負けないほど鮮やかな原色で塗り上げられ、この世のモノとは思えない一種異様な風景を作り出していた。

「うーん。確かにこれは、一見の価値があるなぁ」

 アキラは神像の間をナーナの手を引いて歩きながら、感想を述べた。

「それはそうかも知れないけど、なんだか人間の欲望をそのままカタチにしたみたいで、わたしは好きになれないよ」

「これがこちらの神様なの?」

「そんなことない……はずだよ。多分。これじゃあまるで、神様を怒らせるために作ってるみたい」

 ホテルに戻り、二人は朝食を取っていたフランとヴラドに合流した。

 ヴラドが一晩中ギャンブルをしていたことは確かだった。

 ”全ての神々を祀った神殿”を見に行かないかとフランを誘った際に、「真夜中におおかみくんが金を貸してくれって泣きついて来たんだけど、どうなったかしら」と、彼女が言っていたからである。

 ちょっと心配していたものの、とても徹夜していたとは思えないほどヴラドの表情は明るく、けっこう勝ったんだなと、アキラとナーナは笑った。


 スゥイプシャーの街を出て乗合馬車を途中下車し、南へ向かって砂漠を歩いている途中で、一行はアキラの嫌な予感の通り、百年に一度という重力嵐に遭遇した。

 最初は、どんという凄まじい音が響いた。

 何事かと足を止めた一行に、猛烈な砂嵐が襲い掛かった。

「重力嵐だ!」

 轟音に負けまいとヴラドが大声を張り上げる。

 強い重力に逆らいきれずに引き摺り下ろされた空気の塊が地面に叩きつけられ、四方に飛び散り、砂嵐となって巻き散らされているのだ。

 ヴラドが身を屈め、3人を抱え込む。重力が弱い分、巻き上げられそうになるのを地面に置いた大剣を重しになんとか堪える。

「みんな無事か」

 声をかけながらヴラドが周囲を鼻と耳で探ると、あちらこちらでどんという音が轟いていた。ふと空を見ると、紫や赤などの色が、まるで氾濫した川のように激しく絡み合いのたくっていた。

「ヤベエな。どうやら、重力嵐のど真ん中にいるみたいだぜ」

「逃げられそうにないわねぇ」

 長い髪を押さえて体を起こし、緊張感のない声でフランが言う。

「こうなるんじゃないかと思ってはいましたが」とは、アキラだ。服についた砂を払いながら、「大丈夫?ナーナ」と、ナーナに声をかける。「うん」と砂を口から吐き出しながらナーナが頷く。

「見習君の嫌な予感の通りになっちゃったわねえ」

「じゃあ、あとは嬢ちゃんにお任せだな」

「うん」

 と頷いて、ナーナは立ち上がった。

 昨晩、もし重力嵐に巻き込まれたらどうするか、という話し合いをしたのである。「起こるかも知れないことには、きちんと準備をしておいた方がいいでしょう」というアキラの提案で。それに対し「なんとかできるかも」と手を挙げたのがナーナだった。

「アキラ」とナーナに呼ばれて、「なに?」とアキラは彼女に歩み寄った。

「勇気が欲しいの」

 少し拗ねたような口調でナーナが言う。そして、ヴラドとフランに背を向け、自分のおでこをとんとんと指で叩く。少し、頬が赤くなっている。

「ああ」

 アキラは彼女のおでこに軽く口づけをした。

「頑張れ」

「よし」と頷いて、ナーナは右腕を回した。「任せとけ」

「いいぞ、お姫ちゃん」「おお、嬢ちゃんに命は預けたぜ」

 砂漠に並んで座ったフランとヴラドは、もはや見物人モードである。二人の傍に、アキラもナーナの邪魔にならないようにしゃがみ込んだ。

 その3人の位置を確かめ、深く息を吸い込んでから、ナーナは詠唱を始めた。

 ゴアの街で編み上げた重力を遮断する立方体--重力結界とナーナは名付けていた--を構築して、重力嵐をやり過ごそうというのである。

 重力結界を構築する術式のルーチン化は、スゥイプシャーに来る前にすでに終わっていた。やらなければならないのは、重力結界の大きさと中心点を決め、それをパラメータとしてルーチンを呼び出すだけである。

 しかし、その前にナーナがまず始めたのは、スゥイプシャーの上空にいるはずの風の精霊に呼びかけることだった。スゥイプシャーの大気圧を一定に保つために、そこに強力な精霊がいるはずだった。

 どんと、再び近くで空気の塊が地面に叩きつけられる音が響く。

 砂嵐が四囲に巻き散らされ、4人に迫る。しかしその砂嵐は、何かに遮られたように4人の前で砕け散った。

 歌い続けるナーナの髪が、激しく踊っていた。

 精霊のために感謝の歌を歌い、ナーナはルーチン化した呪文を呼び出した。

 ゴアで見た立方体が自分たちの周囲に出現するのを、アキラは見た。大きさは3m四方ぐらいだろう。下部は地面に潜り込んで見えなかったが、そちらもすっかり囲われているはずだった。

 ナーナが幾つかの補助呪文を唱える。

 気をつけないといけないのは、酸素だ。外界と切り離すのだ、酸素も十分に取り込んでおく必要があった。もちろん下手に酸素濃度を高めるのは危険だ。また、外界と切り離すことで気温が上がりすぎる怖れもあった。

 それらの調整のために、ナーナは火と風と土と水の精霊をすべて自分の周りに呼び出しておいた。

 ふと、アキラは自分の体が重くなるのを感じた。

 ナーナが重力結界内の重力を、1Gに調整したのである。

 術の影響か、気温も僅かに下がる。

 さらにチェックのためのルーチンを幾つか呼び出し、問題がないことを確認して、ナーナは重力結界を完全に閉じた。

 重力嵐の立てる凄まじい音が、不意に途切れた。

 ふーと、ナーナが長い息を吐く。

「できたよ。後は、運を天に任せるだけ」

 アキラを除けばナーナの構築した重力結界を見ることはできなかったが、無音のまま叩きつける砂嵐が、自分たちの周囲に何らかの壁が存在していることを彼らにはっきりと示していた。

「なかなか絶景ねえ」

 激しく吹きつけては跳ね返される砂嵐を見ながら、フランが感嘆したように言う。

「これの上部に砂が積もって埋もれちまうってことはないのか、嬢ちゃん」

 ヴラドが胡坐をかいたまま重力結界の天井を親指で示す。

「それは、外の精霊に任せるしかないかな。お願いはしたけど、もうわたしの声は届かないから。でも」

 ナーナは重力結界の天井を見上げた。そこに乗った砂は、乗った途端、すぐに遠くへ吹き飛ばされていた。

「ちゃんと助けてくれているみたい」

「酸素は大丈夫?」

 アキラがそう訊いたのは、ゴアの街の郊外で初めて立方体の中に入ったときに、ヴラドと3人であやうく酸欠で死にそうになったからである。

「大丈夫だよ、多分。重力嵐がどれぐらいで通り過ぎるかにもよるけど、普通は5分もすれば収まるはずよ。酸素は15分ぐらいは持つから大丈夫」

「ねえ、お姫ちゃん。なんだか、あたしたち揺すぶられてない?」

 吹きつける砂嵐を座ったまま鑑賞していたフランが、不意に言った。

「えっ」

 ナーナが周囲を見ると、確かに視界が激しく揺れていた。重力結界の中は常に重力が一定に保たれ、外部とは別の慣性系になっているために気づかなかったのだ。

「ああ、本当だな」

「少しヤバイかも」

 重力結界越しに外の様子を伺っていたアキラが言う。

「外の空間が、なんだかおかしく……」

 と、彼が言った途端、周囲の景色が暗転した。


「なんだか、変な気分ねえ」

 頭のすぐ上でフランの声がした。

「頭に血が上っていきそうなんだが、そうはならねえからな。下って言うか、上って言うか、覗き込むとさすがにぞくぞくするぜ」

 ヴラドの声だ。少し離れたところに座っているらしい。

「見習君、そろそろお姫ちゃんを起こした方が良くない?15分ぐらいは酸素が持つってお姫ちゃん言ってたけど、そろそろ15分になるんじゃないかな」

「そうだな。じゃあ、ここはやはり、アキラがチューだな」

「そうねえ。お姫様を起こすには王子様がキスをするっていうのが常道だしね。見習君、やっちゃえ、やっちゃえ」

「……お断りします」

 アキラの声は、左の方から聞こえた。

 何かとんでもないことを言われていた。ナーナは、懸命に意識を押し上げようともがいた。小さく息が洩れ、闇が晴れた。

「あ、ナーナ、気がついた?」

 彼女に訊いたのはアキラだ。誰かが舌打ちをしたような気がしたが、彼女が実際に見たのは、彼女の顔を心配そうに覗き込んでいる3人の顔だった。その3人の上に、天井が見えていた。

 どうやら、フランの膝に頭を乗せているらしいと判った。体の下には、スゥイプシャーの砂が在るのが感じられた。

「何があったの……?」

「さあ。確かな事は判らないけど、どうやらスゥイプシャーからどこか別のところに飛ばされたようだね。重力嵐の影響だろうけど、空間の歪みに巻き込まれて」

 アキラに助けられて体を起こし、ナーナは小さく息を吐いた。

「ありがとう、フランさん」

「どういたしまして。それより、注意して辺りを見回してね。今、ちょっと変なことになってるから」

「変なことって?」

「あれ」

 アキラが天井を指さす。

「地面なんだ」

「え」と辺りを見回して、「ええっ」とナーナは声を上げた。

 彼らは、地面を上に見て、宙に浮いたスゥイプシャーの砂の上に逆さまに座っていたのである。

「重力結界ごとここに放り出された時に、こうなっちゃったみたいだね。でもこの中の重力は、えーと、オレらから見るとちゃんと下向きに働いているから、こんな感じ」

「ああ」

 言われてよく見ると、スゥイプシャーの砂は重力結界によって四角く区切られ、その先には何もなかった。青空がスゥイプシャーの砂の向こう、彼らの下に広がっていたのである。

「嬢ちゃん、目ぇ覚ましたばかりで申し訳ないが、早く何とかしてくれねえか。このままじゃあ収まりが悪くていけねえ」

「あ、うん。ちょっと待って」

 そう応えてナーナは立ち上がった。

 立ち上がると妙な感じだった。三半規管に影響はないはずだったが、視覚からの情報とズレがあるために平衡感覚がおかしくなりそうだった。3人がずっとしゃがみ込んでいるのも当然だとナーナは思った。

「アキラ」

「なに?」

 座ったままナーナを見上げて、アキラが応える。

「あのね、わたし、目を閉じて詠唱するから。そうじゃないと集中できそうにないの、これ。だから、ちょうどよくなったら教えて」

「QX、ナーナ」

 アキラの応えに小さく笑って、ナーナは目を閉じた。詠唱を始める。体感はできなかったが、ヴラドとフランが声を上げたことで、重力結界が回転を始めたのだと判った。

「もういいよ、ナーナ」

 アキラに言われて、ナーナは目を開けた。

 風景が正常に戻っていた。

 その時になってようやく、ナーナは自分たちが奥深い森の中にいることに気づいた。いや、森というより、ジャングルといった薄暗さである。その森の小さく開けた荒地の上に、重力結界は浮いていた。

 ナーナは詠唱を再開して、重力結界を慎重に下ろした。

 地面についたかどうか体感的には判らなかったが、周囲の景色から判断して、それ以上下がらなくなったところで彼女は術を解いた。

 足元の砂がザッと音を立てて崩れ、湿気を帯びた温かい空気が彼らを包む。そして、風が木々を揺する音や鳥の声、普段は意識することのない小さな音までが、いきなり周囲に溢れた。

「うるせえなぁ」

 耳のいいヴラドが顔をしかめて文句を言う。

 アキラは辺りを見回しながら応えた。

「さっきまで無音状態でしたからね。どこでしょう、ここ」

 ヴラドが耳と鼻を動かし、周囲を注意深く見回す。

「なんとなくだが、南の方みたいだな。太陽の位置も高いし。近くに人の気配はねえな。ちょっと辺りを見回ってくる。オメエらは、ここにいな」

 草むらへと分け入って行くヴラドの背中に、「はい」とアキラが応え、「いってらっしゃーい」とナーナとフランが声を揃えた。


 ヴラドが戻って来たのは、20分ほどしてからである。

「あっちに建物がある。かなり古そうだ」と、ヴラドに連れられて行った先に、確かに森に飲み込まれそうになった建物があった。ツタが絡んだ石造りの門を抜けると石畳が続いており、その先に朽ちかけた扉があった。

 それは、壁をびっしりとツタで覆われた石造りの城の入口だった。

 全体像は判らなかったが、かなりの大きさであることは間違いなかった。

「かなりデカそうだな。さて、入っていいもんやら」

「これ、石碑じゃない?」

 フランに言われて見ると、扉近くの石畳の脇に、これもやはりツタで覆われて、ヴラドの身長ほどの高さの石碑があった。

「ヴラドさん、ツタを取り除いてもらえる?」

「おう」

 ヴラドが何の抵抗もなく軽々とツタを引き千切る。

「ナーナ、読める?」

 アキラの問いに、石碑に目を走らせていたナーナは首を振った。

「ううん。わたしの知らない言葉で書かれてる。でも、師匠がこういう時に使える呪文を残してくれてるから、ちょっと試してみる」

 ナーナは詠唱を始めた。

 手を伸ばし、石碑の表面をなぞる。

 後で訊くと、それは彼女の師匠が蓄積して来た様々な言語と指でなぞった文字を突き合わせるための呪文ということだった。やがてカツンと、ヒットする感覚があった。ナーナは別の呪文に切り替えて詠唱を続けた。しかし、使われている言語は判ったものの、意味を理解するのは難しかった。

 彼女の師匠は百種類以上の言語を収集・分類していたが、蓄積している単語の数には限界があったからである。

「ダメ、読めない」

 詠唱を中断してナーナは言った。

「でも、ここがどこかは判ったよ。これ、ブランカの城だよ」

 そう言って、ナーナはツタに覆われた城を見上げた。

「ブランカって、あの?」

 フランが信じられないといった口調で言う。

「うん。こんなところにあったんだ」

「なんだ、ブランカって?」

「封印の城ブランカ。もしくは、呪われた城ブランカよ」

「治癒の術を封印するために呪われた城だよ」

「ああ」

「どういうこと?」

 ひとり何のことか理解らなかったアキラが、ナーナに訊く。ナーナは、静まり返った城を感慨深げに見つめながら答えた。

「大災厄よりも以前のことだけど、昔は、治癒の術といって、どんな傷でもたちどころに治してしまえる術が使えたの。ううん、今でも使えるんだけど、このブランカの城主様が、治癒の術を使う術者に呪いをかけたの。城主一族と領民を犠牲にして。

 はっきりとは判らないけど、数千人は犠牲にしたって読んだことがあるよ。

 その犠牲者の恨みの念が、治癒の術を使う術者を呪い殺しちゃうの。だから、今では治癒の術は実際には使えなくなってる。使おうとすれば、術者が死んじゃうから」

「なんでそんなことを?いい術のようだけど」

 ナーナがアキラに視線を戻す。

「使い方次第だよね。戦場でこの術を使うとね、兵士はほとんど死ななくなっちゃう。だから、この術が使える頃の戦場は、相当に悲惨なことになったみたい」

 フランが、ナーナの言葉を引き継ぐ。

「泥仕合もいいとこだったそうよ。頭を割られても腹を裂かれても、術が間に合えば治っちゃうから。でも、傷を負った時に痛みを感じない訳じゃないから、治癒の術で治りはするものの、兵士の精神は耐えられなかったって聞いているわ」

 フランの言葉に、ナーナも頷いた。

「この城の城主様も、もう狂ってたのかも知れない。とても英邁な方で、戦場でも自ら先頭に立って戦われてたって伝えられてる。でも、そのせいで城主様自身、何度も深手を負って、その度に治癒の術で元に戻って。

 何がきっかけになったのか、詳しいことはもう判らない。だって、関係した人はほとんどこの呪いの犠牲になったから。ただ、ある日突然城主様は人々を殺し始めたの。それまではとてもいい城主様だったのに、用意周到に、数千人もね。

 その意味が判ったのは、随分後のことだったそうよ」

「治癒の術を使った術者が死に始めて、それからさらに、だいぶ経ってからね」

 静かな声でフランが言う。

「それが、この城?」

「うん」

「それじゃあ、立ち入らない方がいいな」

 断定的にヴラドが言う。

「うん。呪いを解こうとしない限り入っても大丈夫だとは思うけど」

「あまり入りたくはないわよねえ」

「ああ、賛成だ。話を聞いているだけで寒気がするぜ」

「じゃあ、どうします?」

「はっきりとここがどこかは判らないけど、ここがブランカの城なら、ザッハディアは遠くないはずなの。ザッハディアの北東に広がる惑乱の森に、ブランカがあるんじゃないかって言われてたから。だからとりあえず、南に行ってみるのがいいんじゃないかな」

「よし。じゃあ、さっそく行こうぜ」

「惑乱の森か。如何にも、迷って出られなくなりそうな名前の森ですね」

「そうねえ。でも、おおかみくんとお姫ちゃんがいるから、なんとかなるんじゃないかしら」

「あ、方向感覚についてはナーナは当てにしない方がいいですよ。街の中でさえ迷子になっちゃうくらいですから」

「アキラ、ひどーい」

 怒ったように言ったものの、ナーナはアキラの言葉を否定しなかった。つまり自分でも、自信がないということだろう。

 そのやり取りを見ながら、ヴラドは低く笑った。

「森の中ならオレに任せときな。遅れるなよ」

「はい」「うん」「はーい」と三者三様に頷いて、呪われた城を後ろに、一行は狼男を先頭に惑乱の森へと踏み込んで行った。

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