1-7. エピローグ
「あ~だめだ。もう一歩も動けない」
恵那の声に目を覚ますとヴィレの緑色の光が網膜を刺激した。
「僕たちは・・・」
夢うつつの状態で声を発する。
「勝ったに決まってるだろ。覚えてない?」
「そうか」
腕で瞼を覆いたくて腕を持ち上げようとしたけれども腕が動かない。いや、体全体が動かないといってもいい。寝返りさえうてない。一回目の合体でも酷かったんだ。ましてや二回目じゃこうなっても仕方がない。首から上を動かすので手一杯だ。
「二人のおかげで危機を乗り越えられた」
「でも戦いは続くんだろ」
「アニール星人が諦めない限りは」
そんな疲れる事実を受け止めながら、
「・・・ヴィレ。僕は、本当はヒーローの相棒になりたかった。大樹の活躍を一番側で見続けていられる相棒になりかったんだ。でも大樹は僕にヒーローになってほしかったんだと思う」
そんなことを口にした。
「大樹が貫志を私の元へよこしたことを考えるとそうなのかもしれないな」
「バ~カ。相棒がヒーローじゃないなんてそれは当人だけの思い違い。はたから見たら同じヒーローなんだぜ」
右から聞こえた恵那の声。面白い答えだ。またなにかの作品の引用だろうか?
「それ、何て作品?」
「あたしの言葉」
なるほど。視点を変えれば結局僕はヒーローだったのか。でも。
「ごめん。今回は考えるヒマもなくてただがむしゃらだった。終わってみて気が抜けてから、ふと思ったんだ。僕はヒーローになれない」
ここ三年間頑張りもしたけど。僕のヒーローは大樹で。僕は大樹にはなれない。
「もし貫志が相棒でいいって言うなら、あたしがヒーローになってやる。相棒としてついてくればいい」
「なるほど。僕はどちらでいてもヒーローってわけだ」
なれないヒーローにならなくても結局別のヒーローになってしまう。
「それにさ。貫志は分かってないみたいだけど。大樹って人のいいたかったことあたしには分かるぜ」
僕にはわからないこと?
「ヒーローから見たら相棒は常にヒーローの窮地を助けてくれるヒーローでもあるんだぜ」
目からうろこが落ちた気分だった。
「なるほど。その理論なら私にとって貫志はヒーローだな」
僕が大樹と同じヒーローだと認めたヴィレの言葉は大樹のもののように聞こえた。
「それで貫志はどうする?」
意地悪な恵那の問いかけに考える。少なくとも僕はまだヒーローじゃない。そして、どんなヒーローになるかも分からない。
ブブブ・・・
右腿。感じた振動。携帯が鳴っている。
電話に出られるだろうか?
右腕に力を込めると持ち上がった。時間の経過と供に動くようにはなってきているらしい。
しんどいので誰からなんて確認もせずに電話に出た。
「はい。もしもし」
両親からだった。無事だったらしい。なんでも僕が大樹との約束を果たしに出かけたことから、あっちはあっちで懐かしくなって大樹の両親に会いに行っていたらしい。大樹の実家はこの裏山に近い。見えないところでまた大樹に救われた気がした。
「それで?大樹君があんたに託したもの受け取ることはできた?」
思えば大樹が僕に本当に託したものは何だったのか?
僕は何を受け取ってしまったのだろうか?
託されたのは志半ばで倒れたヒーローが残したヴィレというヒーローになれる権利。そして思えばそれとは別に僕はその意志まで受け取ってしまったように思う。
母親からの問いかけに僕は目を閉じて澄ましたようにさらりとそれを口にした。
「受け取ったよ。ヒーローの意志を」