1-3. 戦い
どこに降りたい?決まってる。あの怪獣のすぐ側だ。おかしな自問自答を繰り返す。本来なら合体したときに意識は一つになるらしいが、意識にはずれがある。やはり大樹のようにシンクロ率百パーセントとはいかないようだ。貫志とのシンクロ率は七十パーセントといったところだろう。このシンクロ率なら巨人になって戦うことは可能だ。それでも勝てるかどうかはわからないって。意識は一つなんだ。伝わってくるんだ。不安なこと思わないでくれよ。
中空でズーンと地鳴りを起こしながら足が地に着いた。
腕や足のリーチ。肉体を把握させるためにその姿形が脳裏に映る。
碧の体にシルバーと蒼の筋。角張った細長い五角形のゴーグルのような黄色い二つの目に光が灯る。頭には尖がりが三つ。中央は小さめで左右の尖がりはミミズクの羽角のような形でWの文字を描いている。精神生命体は肉体を持って生まれ、成長と供に肉体を捨てる。この碧巨人の姿は捨てたヴィレの肉体がモチーフになっているらしい。
戦い方はヴィレの意識が示す。自然と両手が上がり戦闘体勢に入る。
鉄塔に再びかぶりつき、電気を補給しようとするクプラ。その背後に走りより、首に腕を回してヘッドロックをかける。クプラが鉄塔から離れた。胴体を左右に振ってヘッドロックをはずそうと抵抗する。思いのほか効いているようだ。
いけると思ったのもつかの間。思いのほか力が強い。踏ん張りきれずに地から足が離れる。そのまま左右に振られて、堪えきれずに腕がはがれてしまった。
勢いよく飛んでいくことになった。
いけない。このままだとまだ無事な街の上に落ちる。
大丈夫だ。この肉体は元の貫志の肉体分しかない。足りない分は物質と反応するだけの火や電気といった励起エネルギーで補っている。調整により建物は壊さず透過できる。
何とか倒れないように体をひねって足から着地。足が透過して建物を傷つけていないことを確かめる。よかったと安堵するがゆっくりはしてられない。
クプラがこちらを見つめていた。す~っと身を低くした。
突進する気か。
このままだと足元の無事な街が破壊されることになる。受け止めなければ。身をかがめて突進体勢へ。少しでもクプラの突進距離を減らすために先手を取る。
相撲のぶつかり合いのようにクプラに体当たりをかます。しかし、かぶりついて組み合うこともできずに吹っ飛ばされた。
ヴィレの体当たりでも相殺し切れなかった勢いのままクプラが進む。
途端に沢山の声が聞こえた。痛い。死ぬ。苦しい。助けて。
これは・・・人の意志の声?クプラがいま破壊した場所にいた人たちの・・・
早く倒さない被害が広がってもっと沢山の声が充満することになる。
クプラのプラズマのような必殺技とかないのか?マイネン光線?功を焦る中特別な攻撃が脳裏に浮かぶ。左手で肘から小指の先までをこすると光の筋が生まれた。腕を横向きにして発射台となる右腕を支えるように左手を右手首に添える。
いけええええええええええ!
腕に集まった意志が光線のように打ち出された。
緑色の光がクプラへと到達。苦しいのかクプラが悶え始めた。
内部に大量のエネルギーを保有し、扱うことで怪獣はプラズマや光線、ガス等を吐くことができる。しかし、それはいうなれば諸刃の剣でもある。器である肉体がエネルギーを保有できなくなるまでダメージを与えられると保てず押さえ込めなくなったエネルギーが暴走。自爆して死ぬことになる。そして、いうなればそれが怪獣の倒し方でもあった。
このままマイネン光線で限界値までダメージを与えられれば倒せる。
クプラの背中が青白く光った。
くる。背筋に悪寒が走る。
プラズマが吐き出された。
相殺されるマイネン光線。持久戦とはいかないらしい。徐々に押し返されていた。
弱気になるな。意志を保て。押し返すんだ。
奮い立とうとしたとき、破壊された街から聞こえていた声が断末魔を残して消えた。
死。
意識が途切れた。
正気に戻ったとき、もう遅かった。
プラズマが全身を焼いた。
負けた・・・・・・