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碧巨人ヴィレ  作者: 漣職槍人
神様、仏様、天使、妖怪、魔法使い、宇宙人、超能力者・・・・・
19/41

2-10.砂糖菓子の弾丸

 今まで聞いたこともないほどの大きな咆哮だった。

 叫びとも取れたそれに決意じみた強い意志を感じた。

 あの怪獣は怪獣で何かあるのかもしれない。あたしの知ったことじゃないけどさ。

――お互い次で終わりにしようぜ。

 少なくともあの怪獣はあたしの意思を汲み取った。だから最後の勝負のために。最高の一撃を作るために。あいつは宇宙まで飛び上がった。

 きっと最初の登場時を上回る一撃がくる。

 いいねえ。最高の一騎打ち。漫画やアニメ、小説のシチュエーションみたいですごくいい。萌える。おっと間違えた。燃えるだ。

 あたしも最高の一撃で応えなきゃな。

 いまもこの胸の中で抑圧までした思い出がうねっている。とても大きくて。大きすぎて抑えきれない感情が暴れている。もう少しだ。もう少しですべて吐き出してやるから。誰にも知られちゃならないそれを押さえ込む。冷や汗が流れる錯覚。おかしくなりそう。でも間違いなく。こいつがあれば最高の一撃を出せる確信があった。

 でもあの防御を貫くにはまだあと一手足りない。

 あたしはあの怪獣に関しての説明を引き出す。

 名前は確か・・・彗星怪獣ガイスト。大気圏突入をこなすほどの強固な鉱物で覆われた体を持つ防御重視の怪獣。

 鉱物か。あたしの脳裏にとあるライトノベル作品の一幕が過ぎる。

――熱湯をかけて撃てなくなった銃を持つ相手に。熱膨って知ってるか?

 ネット上で物議をかもし出した内容はともかく。あたしの頭にピーンときた。

 ヴィレ。この体に水を取り込むことは出来るか?

 可能だ。

 冷やすことも?

 可能だ。

 ヴィレの答えにあたしは考えた作戦を伝える。

 なるほど。大気圏突入による加熱を逆に利用するというわけか。

 そゆこと。

 さすがヴィレ。宇宙の賢者と呼ばれるだけはある。話が早くて助かるぜ。あの強靭な鱗を金属疲労で劣化させて打ち抜く。それがあたしの立てたもう一手。

 それ逆に焼き入れで強度増すことにならないよね。

 いや貫志。恵那の言っていることに間違いはない。焼入れは鉱物の硬くするが割れやひずみの劣化を誘う。だから焼入れを行う際にはセットで再度強靭性を持たせるために焼き戻しという塑性回復の作業が必要になる。

 にわか知識で否定する貫志をヴィレが諌める。だからもてないんだよ貫志。

 水はどうする?

 近場のダムから水をもらおう。

 街に沿う山脈にあるダムへと一飛びで移動する。河岸で腕をつけると体内に水が流れ込んできた。 碧巨人ヴィレの肉体は元になった貫志と恵那の肉体分しかない。足りない分を物質と反応するだけの火や電気といった励起エネルギーで補っている。つまり中はスッカスカに等しい。でもおかげで調整により建物は壊さず透過できるし。こうやって水を体内に取り込むことができた。

 今年は水不足に悩まされそうだ。

 怪獣の災害に水不足。ずいぶんと酷い話だぜ。

 確かにと貫志の言葉に苦笑してしまう。

 でも勝つためには必要なことだ。この星が健在である限り、雨はまた降る。この星の恵みがこの星の人類を潤すだろう。

 ふと思ったけど。この戦いが終わったらいつかヴィレの故郷の話聞きたいな。

 あ、あたしも聞きたい。

 そうだな。平和を迎えたとき。平穏の中で話すと約束しよう。

 ははは。ヴィレは策士だな。

 性格が悪いだけかもしれないぜ?

 酷い曲解だ。だがこれで負けられないだろ?

 立ち上がると体内で物質結合をヴィレが調整する。碧巨人ヴィレの周囲に白い煙が立血こめた。体内で冷やされた水の冷気が周りの空気を冷やしたんだろう。

 昔忍術と空手を組み合わせた技を使う漫画があったけど。あれの主人公たちが本気を出したときに体から出る煙みたいだ。確か勝○煙だったかな。シチュエーション的にもあたしたちにはちょうどいい。もっともこっちは冷気であっちは体が温まってでる蒸気だったけどさ。

 これまた一飛びで怪獣が落ちてくるだろう場所に戻ってくる。

 不思議だ。あいつが飛び立ってから五分とたっちゃいない。なの時間の流れがゆっくりでもっと長い時間が経ったように感じる。

 白いミストをまとった碧巨人が空に向かって構えをとる。

 二人の緊張が伝わってくる中であたしも最後の準備をする。

 暴れる気持ちをコントロールするために向き合う。

 何が、どんな約束かは乙女の秘密だ、だ。

 まず出てきたのは自分の小狡賢い演技に悪態だった。

 赤ジャンと直接した約束は宇宙人のヴィレに出会えて果たされている。じゃあ。この胸胸中で暴れるものは何か?あたしはそれが何かを明確に知っていた。ただ胸の中で焦がれた熱量の正体を知るあたしは恥ずかしさから、貫志やヴィレに知られたくなくて、言葉巧みに誘導して約束という(うそ)でごまかした。乙女心のわからないニブチン二人はこれで気づくことはない。私的なことだといわれようが関係ない。

 この思いを。誰にも知られるわけにはいかない。

 もう届くことはなく、あたしを削り、あたしの中でじわりじわりとあたしを蝕む思いは本当に厄介だ。

 赤ジャン。あんたの言うとおりだ。

 幸せな思い出ってやつは砂糖のようで甘ったるい。

でも一つ違ったぜ。あんたは砂糖菓子が与えるやっかいなものを虫歯だっていったけど。そんな生易しいものじゃなかった。思い出した今ならよくわかる。これは虫歯なんかよりもっと凶悪だ。もっと直接あたしを傷つけて命を削るそんなもの。赤ジャン。いろんな形になれる砂糖菓子は姿を弾丸に変えたんだ。

 思い出すと同時に思い出は砂糖菓子の弾丸へと姿を変えてあたしに撃ち込まれた。あんたがもういない。砂糖菓子の弾丸が身を削る痛みはなかなかだったぜ。赤ジャン。でもそれでおわりじゃねぇ。砂糖菓子の弾丸は厄介なことに必ず体に残るんだ。体に銃弾として突き刺さって体内に居座る。砂糖菓子だから体内で溶けていつかはなくなるんだろうけどよ。じわりじわりとゆっくりで体の中に異物感があって辛いったらありゃしない。

 もしかしたら砂糖菓子が消えるよりも先にあたしが蝕まれて命を落としてしまうこともあるかもしれない。

 本当に厄介だ。

 いつなくなるかは分かりゃあしないし。

 溶かすのを早めようとしてもあたしには砂糖菓子の弾丸は砕けない。

 幸せを砕くことなんてできないから。

 でもそんなものだからこそ。

 その思い出は心を揺さぶるほどに大きい。人をこの世につなぎとめもすれば、逆に死へと追いやることもある。

 だからこそ。

 この意思(ヴィレ)は強い。

 この一撃に使ってやる。

 はは。もしかしたら溶けきっちゃうかもしれないな。そう思ったら逆に寂しい。でもその思いは取り越し苦労の冗談でしかない。こいつはちょっとやそっとじゃなくならないぜ?砕けもしない。なくなることなんてこともない砂糖菓子の弾丸だ。

 ああ怪獣。ガイストだったっけ?防御力が自慢なんだって?そりゃあ残念だったな。最強の矛と盾があれば矛盾が起きるなんていうがあいにくこっちの矛は特別せいでね。矛が銃弾で思いで覆われているのさ。思いのコーティング分盾を撃ちぬけるんだ。

 今日は空がやけに晴れているな。雲ひとつない。

 見上げた青空に赤い点が一つ。徐々に大きくなるとともにその凶悪な姿をはっきりとさせる。カーテンのようにはためく炎の揺らめき。燃える巨体は今の世界に終末を呼び込むこの地上を穿つ神撃のようで、地上の人々に神話のラグナロクを髣髴とさせる。

 地上からも世界の終わりだと恐怖におびえる人々の声が聞こえた。しかもいつの間に放ったのかわからないが成層圏でガイストに核が撃ち込まれていたらしい。テレビのニュースで効かなかったと放映されたそうだ。

 ただ、そんなこたあどうでもいい(・・・・・・・・・・・・)。

 なぜならそれ以上に聞こえたからだ。

 世界の週末を誘う恐怖へ立ち向かう勇者への応援の声が。

 さあ。勝負だ。

 あたしたちはにやりと笑う。

 こちらからも打って出る。

 ヴィレの声とともに脳裏に何をするのかが伝わる。マイネン光線のエネルギーを推進剤に利用してガイストへ向かって飛び上がった。

 引いて突き出した右腕がガイストへと直撃した。

 体から大量の冷やされた水が放出されて急激な気化に水蒸気爆発が起きる。急激な冷却による焼入れと爆発による衝撃でガイストの眉間の鱗にヒビが入る。

 いまだ!

 あたしはありったけの思いを拳に流し込む。

 食らいやがれ。

 お前を打ち抜く弾丸を。

 三人の意思が完全に一つになる。

 いけええええええええええええええ。

 あたしの!

 僕の!

 私の!

『ヴィレ(意志)ッ!』

 雄叫びと供にマイネンパンチがガイストの眉間を貫いた。碧巨人ヴィレは弾丸のようにガイストの体を撃ち抜いた。

 突き抜けた先で青空を視界に納めて振り返る。

 穴の穿たれたガイストが爆発した。

 破片が四方八方へ飛び散る。その多くはクプラとの戦いで廃墟となった場所や山に降り注いだが一部隣町へも飛んでいってしまった。その欠片を最後の力を振り絞りショット弾のマイネン光線で打ち落とす中で限界が来てしまい碧巨人ヴィレは空中で霧散した。


次回2ndエピローグにて第2章締めとなります。ヽ(*´∀`)ノ

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