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碧巨人ヴィレ  作者: 漣職槍人
神様、仏様、天使、妖怪、魔法使い、宇宙人、超能力者・・・・・
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2-4.消えない消せない何か

 なぜだ。

 私は悩んでいた。

 いつも貫志と一緒にいるはずのヴィレがなぜか今日に限り私の周りに居る。勝手についてきていた。考えてみたけど分からなくて単純明快に素直に聞くことにした。

「ヴィレはなんであたしのところにいるんだ?」

 他の人に聞こえないように小さく呟く私。まあ、基地外認定されているあたしが独り言呟いて用途誰も気にしないだろうけどさ。

――恵那のことを知りたくてな。

「えっち」

――恵那と私では種族が違う。残念ながら欲情的な感情を持つことができない。

 冗談の通じないヴィレ。魅力が無いといわれているようでちょっとショックだった。これでもあたしは自分の容姿がもてるものだと理解している。基地外だといわれる私の気を引こうとオカルトに興味も無いのに近づいてきた男子が前にいたくらいだ。こういうのは見る側が決めるものだから、あたしの自分自身への見た目の価値観なんて当てにならないけれどもさ。あたしのお母さんがきれいだったんだ。母親似のわたしもきれいなんだろう、て思ってる。

「じゃあ醜い?」

――恵那は醜くない。きれいだ。

 くそう。テレるじゃねえか。こんなんで機嫌直すあたしもあたしだけどさ。

――精神生命体(イデア)の私は精神の美しさが分かる。恵那はきれいだ。大樹も貫志も濁りが無い。

 分かるとはどんな風にだろうか?色とか?ちょっと興味が出た。

「きれいってどんな風に?色で見えたりするのか?」

――ああ、色で見えもする。恵那はきれいな赤色だ。

「人の血みたいな?」

――黒さの無いあでやかな赤。

「いいな。あたしも見てみたい」

 あたしにとっての赤は。思い出されるのは一人の男性の背中。誰だかわからないけど。その人のジャンバーの色はきれいに思えた。それの色と同じだったのなら最高だね。

 でも赤っていうと横隅でどうしても思い浮かべてしまうんだ。血ってやつをさ。あたしは今日見た夢を思い出す。

「なあヴィレ」

――なんだ恵那。

「夢を見たんだ。死んだお母さんの夢。人の間じゃ親類の仏が出る夢は知らせなんだ。何かが起きるって教えに来てくれる」

――根拠は無い予知的なものかな?なかなか興味深い。我々精神生命体(イデア)も夢をみるが記憶の走馬灯でしかない。あった事実を思い出すように見るだけだ。なかった事実を形作る人の夢というものは興味深い。ましてやそれが死んだ人間からの精神干渉によるものであるならなおさらだ。どこかの次元に死後の世界があってそことつながっているのだろうか?そうなると人は死後に次元をわたるということか?もしそうなら我々精神生命体(イデア)よりも高位の精神生命体に死ぬことで生まれ変わるということだろうか?

 勝手に思考を始めるヴィレ。その言葉は独り言のように聞こえる。

――恵那はどう思う?

 !?一応独り言ではなかったようだ。

「わかんね。でも夢が伝えてくれようとしてくれたことは見当がつくぜ」

――というと?

「次の戦いが迫ってる。また怪獣が来るぜ」

 ヴィレからの反応はない。沈黙がしばらく続いた。

――やはり恵那との出会いは運命だった。なるべくして私たちは出会ったのだと思う。もしこれが高位存在。所謂君たちの言う神という存在の手引きだというなら。私は神へ祈りをささげる信者ではないが感謝をしよう。私に心強い仲間を導いてくれてありがとうと。

「ヴィレはいちいち大げさだぜ」

――実は私も次にやつ等が攻めてくるのはそろそろだと思っていた。

「そうか。奇遇だな」

――だから貫志も交えて恵那と三人で話がしたかったんだ。

 なるほど。それが今日あたしの側に居た理由ってところかな?

「いいぜ」

――じゃあ貫志に伝えてくる。

 すっとヴィレの気配というものが消えた気がした。どうやらあたしの側から居なくなったらしい。

 ふ~と吐息が出て肩の力が抜けた。

 ヴィレには悪いけど。ずっと側に居ると思うと気が抜けない。見えない幽霊に見られ続けているってこんな感じなのかな。残念ながらまだ幽霊には会ったことがない。まさか最初が宇宙人だとは予想外だった。

 ・・・けど。これであいつの手助けができるぜ。

 安堵して肩の力が抜ける。そして気づいた。

 あいつって誰だ。

 自分の中で無意識に出た言葉はなんだったのか。まったく分からない。でもとてもとても大切な何か。それも記憶を失っても消えない。あたしの中で根をはるほどの何かなはわかる。ということはだ。その何かがどこから来たのかはあたしにはわかった。なぜだか胸の奥をじりりと焦がす熱量を感じた。

 あたしには一部の記憶がところどころ欠落している。お母さんが死んだあとの記憶に所々穴がある。今のあたしが覚えていないのならその記憶に関係しているということだ。

 お母さんが亡くなったのだって相当なショックだった。お母さんに関しての記憶を失うほうがあたしとしてはしっくりとくる。お母さんが死んだ後のあたしが異常だったのをあたしは知っている。疑問に思って調べた。わざと仲良くも無いクラスの子の家に遊びにいって家に来たあたしを見てよくない顔をする親たちの陰口を聞いた。第三者視点ってやつは思った以上に当時のあたしの異常さを教えてくれた。どれだけ怖がられ、気味悪がられていたのか。まだまだ子供のクラスの子にはない大人の視点は予想以上にあたしを傷つけもしたが、おかげで安心もした。ああ、あたしは本当にお母さんが大事だったんだ、ってね。でも同時に知ったんだ。そんな異常なあたしを今のましなあたしに引き戻したやつがいたってさ。ほっとしたんだ・・・・・

 なのに残念ながら今のあたしにやつに関する記憶は無い。まったくさ。恩人を忘れるとか恩をあだで返すようなものじゃんか。なあ?

 ついでにいうとやつが誰だったのかをあたしはもう知っている。

 昔一度だけ利緒に『赤ジャン』さんのこと覚えてないの?と聞かれた。はじめはなんのことだろうかと思った。でも時間が経つにつれてそいつがやつを指すヒントだってことに気がついて。探してみたらそいつはあっさりと見つかったんだ。

 近隣の有名人――後藤大樹(ごとうだいき)だった。からくも貫志やヴィレの友人で・・・死人だった。まあ、あれだ。おかげであたしが記憶を失った推測もついたけどな。あれだ。恩人の大樹が死んだショックで忘れちまったんだろう、ってな。

貫志とヴィレにあったときは気づかなかったけど。つい先日気がついたがあたしも大樹の関係者だったわけだ。びっくりだぜ。

 ただこのことは秘密にしていた。

 だって悲しいだろ。貫志もヴィレも大樹との思い出があるのに。忘れちまったあたしには無いんだぜ?利緒も『赤ジャン』のことを聞いたのは一度だけ。周りの人間も気を使って赤ジャン(大樹)のことを話題に出さない。あたしは忘れてフリを続けるぜ。それが大人の処世術ってやつだ。記憶をいつまでも思い出せないのは大樹に悪い気がするけどさ。ああ、分かってるさ。いいわけだ。しかたがないじゃないか。思い出せないんだから。

 ただ。そうか。さっきでてきたあいつは『赤ジャン』(大樹)のことだろう。

 神様、仏様、天使、妖怪、宇宙人、超能力者。

 お母さんが死んだ後もあたしが大人だって言葉を濁してうまく説明できない超常的な存在を探し続けた理由は『赤ジャン』にあったんだな。少しだけ前に進めた気がする。

 いつか思い出せればいいな。

 そう思っているとチャイムが鳴った。

 四時限目が終わって昼休みに入る。

 貫志に昼に会いにいく約束をしていた。ただいつも昼は利緒と食べている。会いに行くのは先に食べてしまってからになる。

「なあ。リオデジャネイロ」

「人の名前をブラジルの都市みたく呼ばないでくれる?」

「ごめん。リオデカーニバル」

「私でお祭り!?」

 中指でおでこを押し下げるようにして仰け反る利緒。うんうん。中々いい反応を返してくる。すばらしい友だ。

「で?用件は?」

「ん~昼、貫志のところいくんだけど。先に利緒と飯食ってから行こうかと思って」

「ダメよ。恵那氏。そんなこといっていたら私たちすぐにしわくちゃのおばあちゃんになっちゃうわ」

「いやいやすぐにはならないぜ?」

「いい?青春できるのは若いときだけ。そして若いときに恋愛をしないと恋愛に臆病になって結婚もできずに孤独なまま死ぬことになるわ」

「それだと貫志とあたしが恋人同士みたいだぜ」

 がたっ!複数の椅子が動く音がした。何人かの視線があたしに向いてすぐに逸らされた。

「なんかいま回りで『え?違うの?』みたいな反応されてすごく心外だったんだが」

「別に気にしなくていいって。どうせ恵那と付き合うことも絶対できないのに俺にもまだチャンスがとか勘違いしている男子や恋愛べたで恋人もいないくせに他人の恋話に敏感な出刃亀女子が聞き耳たててるだけだから」

 無駄にガタガタと動く音が周りでした。何人かが机の上にふせっていた。

「もてる女はつらいぜ」

「それしか言うことないんだ」

「まあな。いいから早く食っちまおうぜ」

 あたしのマイペースに利緒がまったく仕方がないなととうれしそうに息を吐く。

 あたしはその姿に満足した。


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