2‐3.男子中学生の悩み
市ごと中学校がなくなったいま隣市の中学校に通っている。大樹の卒業した中学校で恵那も通っている。ちなみに同じ中学校の生き残りが三人だけいる。一人は会えた。残りの二人はショックのあまり登校もしていない。そもそもあの事件で同じ中学校の人間は十分の一も生きていない。生きていても他の土地へ散り散りになり、やはりそっちもほとんどがショックのあまり登校もしていない。
他の土地へか。この街が怪獣に襲われたからといって他の町に逃げても無事でいられるとは限らない。ただ敵は少なくとも唯一地球で敵対できる俺らを潰すことを優先してくることは確かだ。俺等が戦う限り、他の土地に逃げれば長い気はで切るかもしれない。逆にこの町にいる人々には申し訳ない気持ちでいっぱいなる。俺にどこまで守れるだろうか?犠牲ゼロだけは絶対にない。必ず犠牲は出る。わかってはいても心が持つかは分からなかった。こんなとき大樹が居てくれたらと思う自分の弱さが恨めしい。
「おっす。貫志」
挨拶と供にリュック越しに背中を叩かれた。
声と行動で誰かが分かる。同じ市に住んでいた生き残りの一人で園山浩太といい。数少ない特撮オタク方面での友人だ。俺はソノという相性で呼んでいる。
「おはよう、ソノ」
「お前また気難しい顔して歩いてたぞ」
にたりと笑うがソノはあの事件では弟と母親を亡くしている。
「前も言ったじゃねえか。あの怪獣は災害なんだって。地震と一緒。例えいたとしても戦隊者の特撮ヒーローだってどうにもできやしなかった。お前が気に病んだって仕方がないんだよ」
僕が特撮好きなのをソノは知っている。そして巷で大樹を目指して人助けばかりしているのもあいまって、ソノは僕が本気でヒーローを目指しているんだと考えている。本音をいうと今も迷っているのだけれども。ヴィレに出会って戦う力を得て、僕以外に戦える人間がいない現状ではそう言ってもいられない。何よりも僕は前回も闘うことを選択した。自覚している英雄症候群で厨二病というのも一旦にあるかもしれないけど。
なによりもいま気難しい顔をしていたのはどちらかと言うと他の事についてだった。朝も悩んだけどソノに相談して大丈夫だろうか?
「なあ貫志。実は相談があるんだ」
迷っているとソノのほうから相談を持ちかけてきた。
「なんだ?」
「こっちにほかに同じ中学のやつが二人来てるって言っただろ。実はそのうちの一人は俺の知り合いなんだ。俺らより一つ年上での人でさ。弟の年上の親友って言えばいいのかな。いや、いいたかないけど。血のつながらない兄貴かな。俺よりも兄貴らしい兄貴やってる人。実兄の俺が羨むくらいの。尊敬できる人でさ。いつも進のやつと一緒だった人なんだ。すげえ自信家で元気な人でさ。人に元気を分け与えるような人だった」
言いたいことが分かってきた。
「でもさ。弟が死んでから元気なくしちまったみたいで登校もしてない」
そして困ってしまう。
「なあ。どうすればいいと思う?」
その相談は僕には荷が重すぎる。
「ははは。ごめんごめん。やっぱ応えられねえよな。困らせるつもりは無かったんだ」
「いや、こっちこそごめん。でもなんで俺に聞いたんだ?」
ソノはバツが悪そうな顔をして頭をガリガリとかく。
「いやさ。大樹さんとお前の関係に似ているような気がしたんだ」
年上と年下の親友のコンビ。大樹と僕に確かに似ている気がした。ただ死んだのは年下。大樹が死んだ僕とは魔逆。
「だからお前なら何か答えになるようなことを答えてくれるかなって」
「ごめん。いい答えが出てこない」
わからない。すぐに答えは出てこない。でも。
「でも答えたい」
「はっ?」
「ごめん。矛盾してるかもしれないけど。そう思ったんだ。その。なんだ。保留ってことでもいいかな?」
「・・・そうか。わかった」
ソノが満面の笑美を浮かべる。
「答え出たら教えてくれよ」
「ああ。約束する」
「でも年寄りになる前にはだしてくれよ」
「さすがにそこまで掛からないように努力はする」
「お前は相変わらずまじめだな。冗談が通じているように思えやしない。貫志らしいけど」
僕の悩みが小さく思えてきた。意を決して聞いてみる。
「なあ。ソノ」
「なんだ?」
「僕も相談なんだけど」
「おいおい。貫志が相談だなんてマジかよ。あ、いや茶化してごめん。悪気は無いんだ。ただびっくりしただけ。そう睨むなって」
どうやら無意識の内に睨んでいたらしい。
「貫志って無茶してまで人助けするくせに自分は誰にも相談せず、一人で解決するからさ。俺もそういってもらえてうれしかったんだよ」
確かに僕は親族や大樹以外の人間に相談なんてしたこと無い。目からうろこが出そうだ。
「で、相談って何?」
「・・・・・この中学にいる知り合いの女子とどう話せばいいのかわからないんだ」
案の定爆笑された。分かっていただけに収まるまで我慢する。
「ごめんごめん」
息を切らしながら涙を拭くソノ。ちょうど校門までの一本道の通学路まで来ているがために周囲に学生が増えている。周りから奇異な目で見られているが放置しておこう。
「その女の子ってやっぱ桐須さん?」
あれ?言ってないのになんでわかった?
「当たりか。ま、お前とここで話してる女子って桐須さん以外いないからな」
そういえばそうか。ここでは事件のこともあって無駄に気を使った周りの生徒は僕らが話しかけない限り、滅多なことでは話しかけてこない。唯一の例外が先生に頼まれたクラス委員長と桐須さんだ。なるほど選択肢自体が無い。なら隠す必要もない。
「それに桐須さん自体もお前と同じで有名だからな。二人がセットになってると目立つんだよ」
「どういうことだ?」
自主的に人助けなんかやっている手前。自分が快く思わない人間からいろいろと言われているのは知っている。似非ヒーロー。ヒーローごっこ。偽善者なんて悪口。大樹との関係から大樹の金魚の糞なんていうのもあったな。
じゃあ、恵那は何で?
はーとわざとらしいため息をソノがつく。
「やっぱ無自覚なのか?」
「自分のことぐらいは分かるよ。大樹の後ついて歩いてたころはわざわざ俺に大樹の悪口いいにくる連中がいたからな。それが俺に代わったんだと思えば・・・・・分かる」
となると思い当たることは一つ。僕が彼女と始めてあったとき、彼女は宇宙人を呼ぶために山にいたといっていた。それが答えだろう。
「桐須さんも同じってことかな?」
変わり者との意を暗に示す。悪口を言うようで彼女には悪いけど。
「恵那さんは宇宙人とか探したりしてる変わり者として有名なんだよ」
「知ってる。はじめてあったときも山の中で宇宙人探してた」
「マジか。噂通りだな。顔立ちも整ってるからかわいいのに」
噂どおりだったということにテンションが上がってちょっとうれしそうにソノが笑う。
「でもお前のもそうだけど。桐須さんの事情も考えると笑っちゃいけないよな」
「俺と同じ?」
ソノが怪訝な顔をする。
「あれ?知らないの?まあ、俺も同じ塾のやつに聞いたんだけど。小学校一年生のときに病気で母親亡くしてるんだって。ああなっちゃったのってそれで手の施しようが無かったお母さんを治すために奇跡みたいなものを探した結果らしいよ」
知らなかった。急に自分は余計なことを言っていなかっただろうかと心配になる。
「その顔じゃ。本当に知らないみたいだな・・・・・なあ貫志。確かに貫志はもっと桐須さんと話したほうがいいと思う」
「でも話題が・・・・・」
「問題ないんじゃね。桐須さんってお前と同じで変わり者らしいけど。虐められてる子助けたり、まじめで成績もいい優等生らしいよ。それにここ数日間遠めに見てたけど。自分から話題ふってくれるタイプみたいだし。とりあえず貫志の場合聞いて頷いておけば問題ないだろ」
「・・・・・そうか。わかった」
頷き返す僕の背中に突然後ろから衝撃。豪快に僕は前のめりに倒れこんだ。犯人は分かっていた。衝撃を受ける前に、おーっす貫志、と桐須さんの声が聞こえた。
受身を取りつつ、地面を転がる。
「ごめん貫志。大丈夫?」
謝る声に土埃を払いながら立ち上がる。
「問題ない」
後ろを振り向いてそう答えると桐須さんがバツの悪そうな顔をしていた。
「いや~勢いあまっちゃってさ。ごめんごめん」
「大丈夫だよ」
もう一度答えた。むしろ体よりも周囲の視線が気になる。ソノの姿を探して周りを見ると玄関で手を振るソノが見えた。くそう。いつの間に逃げたんだ。
さて。この空気どうしようか。