1-1. プロローグ - 約束
「よう親友。来たな」
ベッドの上で意気揚々と右手を上げての挨拶。その姿がまるで彼が重病の患者であることを忘れさせた。ここが病院じゃなく、彼の部屋で。ベッドの上に胡坐をかいてのものだったならどんなによかったことだろうか。
僕の命の恩人兼親友は今日も見た目だけ元気だった。
「それで。頼みたいことって何?」
「お前も知っているとおり。俺はもう長くは生きられない。というかさ。医者が言うにはもう肉体は死んでいるらしいんだ。不思議だろ?」
「じゃあ何で生きてるんだよ?」
冗談めかして言う姿が痛々しい。泣くことも嘆くことも我慢した。僕は唯いつもどおりの親友の顔を続けて彼の待つ言葉を返してあげた。
「心さ。心で生きてるのさ。この精神が、意志が肉体から離れるまでは俺は生きている」
相変わらず暑苦しい言葉。テレビの中で見るヒーローのようだ。いや、ようだ、じゃないんだ。少なくとも彼は僕にとって現実に存在する唯一無二のヒーローだ。
「まるでゾンビだね」
「くそう。言い得てる気がして反論ができないな」
うれしそうに笑う。
「本当にゾンビだったらよかったのにな。それならお前とももっと長くいられた」
急に垣間見せた弱さにもう耐えられなくなったころ。ついに用件を口にし始める。
「三年後の八月二十四日。午後十九時に裏山のタイムカプセルを埋めた場所へ行ってくれ」
「タイムカプセルを掘り起こせってこと?」
「違うよ。タイムカプセルはそこから五年後だ。そういう約束だろ。別の約束があったんだけど。俺はもういけないから、変わりにお前に頼みたいんだ」
自分で行けよ、と親友の弱音に生きろよと悪態つこうとしけど。
「お前意外に頼めないんだ。他のやつじゃダメなんだ」
鬼気迫る表情に気がついて奥に引っ込んでしまった。
「もちろん強制じゃない。覚えていたらでいい。行った先で何があっても、その先の選択はお前に任せる。お前の好きな道を選べ」
なぜだろうか?命がけの言葉。そう呼べるものを聞いた気がした。
「わかったよ」
何の重みも無い。無責任な僕の言葉。
お前に頼んで、頼むやつがお前でよかった。そんな気持ちが伝わるくらいの満面の笑みを浮かべて親友・後藤大樹は次の日死んだ。